第22話「オープンコンバット」

 2C小隊を乗せた輸送車は、目的地である九番ゲートから一キロほど離れた地点でエンジンを停止した。

 すぐさま輸送車から飛び出した少女たちは、あらかじめ分担を決めていた作業に取りかかる。

 アンカーの二人はランドギアを起動し、放棄された車両や壊した家屋の廃材を集め、虫の進行を遅らせるためにメインストリートに千鳥掛け(壁や柵が互い違いに設置されていること)で積み上げる。

 カエデとミトのストライカーチームは、誘導ポットの設置を行い、フロントチームの四人はトラップの設置や予備弾薬の準備に勤しんでいた。


「はぁ~、こんなバリケード、役に立つのかよぉ……」


 廃棄車両を横倒しにして作られた簡易バリゲートを見上げていたサキが、口を尖らせて不満を零す。


『無いよりはあった方がマシってやつよ。文句言うなら無しでやる?』


 ランドギアを操作していたケイコが、サキの不満に言葉を返す。


「そりゃ分かってるけどよぉ……はぁ~、早く卒業してぇ」

「卒業したところであーしもサキも、軍に入隊して下っ端として使い捨てされんのがオチっしょ」

「雑魚には雑魚の使い方しかねーってか。はー、あたしなんで生まれてきたのかねぇ」


 嘆きを零すサキに、トラップを設置していたサヨが、


「使い捨てにされるのがいやなら、勉強して昇進試験に合格するしかないでしょう。今、面倒だからと勉強しようともしないサキさんたちは、これからも捨て駒確定の人生なのに今更文句を言うとかバカですか」

 手厳しい毒を吐いた。


「げっ、ヤブヘビ……」

「あははー、ヒマたちももうちょっと頑張らないとだねー♪」

「頑張れって言ってもよぉ……あたしはあたしなりに頑張ってるんだっての」

「まぁあーしらナチュラルボーンバカだし? しゃーないって」

「ユイナと同じにすんな」

「はっ!? 人がせっかく慰めてやってんのに、なにその言い方!」

「誰も慰めてくれなんて言ってねーよ!」


 口論を始めたサキとユイナに、


「うっせーぞ! そういう痴話げんかはベットの中でしやがれ!」

 カエデがカミナリを落とした。


「ごちゃごちゃ言ってる暇があったら、手を動かせ手を! 準備に手間取ってるとあたいら全滅することになっちまうぞ!」

「へいへい、わーってますよ!」

「ったく、姐さんクソマジメ過ぎて正直シンドイわ」

「ちっ、てめぇら二人は。人を馬鹿にするときだけは息が合ってやがる」

「あははー、それもサキっちとユイナっちの個性だよー♪」

「お気楽極楽過ぎませんかヒマリさんバカですか。……と言いたいところですが、まぁこの二人はケンカしていても息ぴったりのコンビですからね」

「ヒマとサヨちゃんみたいにねー♪」

「いえそれはないですよバカですかヒマリさん」

「えーーーーっ! そんなぁ!」


 サヨに否定され、ヒマリが嘆きをあげたその時、T-LINKを通じてリオンの声がフロントチームに届いた。


『QBより報告。九番ゲートにインセクターが侵入。現在のところ、後続を合わせて八百程度と予想されますわ。各員戦闘準備』

「八百っ!? おいおい増えてんじゃねーか! 弾足りんのかよ!」


 バリケードの中に入り、銃を構えながらサキが叫ぶ。


「んな心配、あとにしろあとに! ケイコ、前は頼むぞ!」

『任された! アキ、大丈夫ね?」

『は、は、はいっ!』


 声が震えるのは緊張のためか、恐怖のためなのか。

 T-LINK越しにアキの声を聞いて、小隊の仲間たちが激励を飛ばす。


「アキっち、大丈夫大丈夫ー! ヒマたちが側に居るからね!」

「おー、あーしらがついてんぞアキー!」

『み、みんな……』


 T-LINKから聞こえる仲間たちの声に、アキは声を震わせる。


「アキはあたいたちが守るから安心しとけ。その代わり、あたいたちのことは、アキ。てめぇに任せるからな!」

『は、はい! アキ・スズサキ、頑張ります……!』


 声の震えはまだ止まらない。

 だがアキの言葉からは緊張と恐怖と……そして覚悟が伝わってきた。


『QBより報告。五秒後に誘導ポッド起動。五、四、三、二、一……起動』


 デヴィのカウントダウンの後、道の真ん中に設置された誘導ポットが内包する液体の噴霧を開始した。


『誘導ポットから噴霧される疑似フェロモンの有効時間は十分程度なのをお忘れ無く。効率的に敵を撃破した後、八分後には第二バリケードに後退して頂きますわ』

了解コピー。タイミングは任せたぜ!」

『タイムキープはリリィがするよー! って訳で、侵入してきたインセクターとは三十秒後に会敵だよ! みんながんばれー!』


 リリィの報告を受けてフロントチームの面々は固唾を呑んで前方を見守る。

 そして――。


『来た! フロントチーム、射撃用意!』


 いち早く発見したケイコとアキが、ランドギアを操作して重火器を構えた。

 ランドギア用に開発された重火器は巨大で、戦車砲以上の威力を持つ。

 連射はできないが、小隊の中では随一の火力だ。

 今回の作戦でアンカーが前線を担うのは、この火力を活かすためだった。

 やがて、千鳥掛けに設置されたバリケードの合間を縫って、道路を埋め尽くすほどのインセクターが姿を見せる。


『撃てぇーっ!』


 ケイコの号令一下、バリケードの内側からストライカー、アタッカーの両チームが一斉に攻撃を開始する。


「やべぇなこの数……」

「キモッ! キモッ!」

「あれだけの数が押し寄せる様子は、バカみたいにおぞましいですね……」


 ヒマリを除いたアタッカーチームの面々が、迫りくる虫たちの姿に怖じ気を見せながらも引き金を引き続ける。


「ケイコ! 飛んでくるダニ型の対応を頼む! こっちじゃ照準が間に合わねぇ!」

了解コピー! 拾った対空兵装を付けてきてるから何とかできると思う!」

「頼んだぜぇ! おらおらおらおらぶっ飛べやーっ!」


 普通ならば地面に置いて射撃する重機関銃をカエデは両手で抱え持ち、向かってくる虫たちに向かって一斉掃射する。

 銃口から吐き出される12.7mmの銃弾は、装甲というものを殆ど持たないアブラムシ型の敵を簡単に粉砕した。

 カエデの横ではミトがミニガンを斉射し、虫を物言わぬごみに変えていく。


『アキ、私たちもやるわよ!』

『は、はいっ!』


 ストライカーの奮闘に刺激され、アンカーのケイコたちも動く。

 突進してくるインセクターの中程に向け、ランドギア用の200mmカノン砲の引き金を引く。

 ドゥンッ!

 腹の底に響く音とともに吐き出される質量弾は、運動エネルギーを保ったまま着弾し、あちこちで虫たちを宙に跳ね上げていった。


次回、12/09 AM04時更新予定

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る