第13話「東京区域」
戦闘を終えた第十三高戦2C小隊は、第四高戦1D小隊が遺棄した物資を回収できるだけ回収し、本拠地である関東シェルターへの帰路についていた。
「最新式の
拾得物のリストを熱心に見つめてブツブツと呟いているのは、2D小隊で物資の管理などを担当しているアキの声だった。
その目には光が戻っていて、サヨの言った通り自分一人で立ち直れたことが分かる。
だがクラスメイトの誰もがそのことには触れない。
そんなことを一々口に出して確認して、アキの立ち直りに水を差すようなことはしない――2Cに所属する少女たちにとって、それは当然のことだった。
近付きすぎもせず、かといって離れている訳でもない。
2C特有の適度な距離感を、ミコトは心地良く思っていた。
「つーか、あの非正規品、一体なんだったんだろうな?」
カエデが
「なんだったって。保護対象の
「建前はな。だが今まで作戦行動中に非正規品を保護することはあっても、保護するために部隊を動かすなんてこと、無かったじゃねーか」
「まぁそれはそーっすけど……」
あたしに言われても知らねーよ、とばかりにサキは肩を竦めた。
「何か理由がある、とカエデ姐さんはバカなりに考えているのですか?」
「あるのかもなーって思わねーことも無い、ってレベルだけどな」
「ふむ。姐さんはバカなんですから、考えたって答え、出ないでしょうにバカですか」
「バカバカ言うなよサヨぉ。バカなのは自分でも分かってらぁ。だけど気になるもんはしょーがねーじゃねぇか」
やりこめられたカエデが不満そうに唇を尖らせる。
そんなカエデの様子に笑いながら、
「何か理由があるのかもしれないわね。けど、私たちみたいな使い捨ての底辺学生が考えたって、何の答えも出ないわよ、きっと」
ミコトが諭すように答えた。
「……確かにな」
少女たちは底辺、落ちこぼれ、使い捨て前提の第十三高等戦闘学校の生徒だ。
例え、上の方にどんな意図があったとしても、人類のために戦えと言われれば戦い、人類のために死ねと言われれば、死ななければならないちっぽけな存在なのだ。
「まー、そういうのは第一から第四高戦のエリートお嬢ちゃんたちに任せといたら良いんっすよ。あーしらには関係ないない。……って、また枝毛増えてっしー!」
「はぁ~……早くシャワー浴びたいし……」
「おまえ、ゲロ塗れだったもんな。今もクセーし」
「はっ、クサくねーし。フローラルの香りだし!」
「ゲローラルの間違いだろ」
「はっ? ケンカ売ってんのサキ?」
サキの揶揄に、ユイナが抜いた拳銃を突きつける。
「サキを殺してあーしも死ぬわ!」
「アホか! あたしはおまえとだけは死にたくねーよ!」
ギャーギャーとやり合う二人に、またかという視線を送る少女たちの耳に、T-LINKを通してリオンの声が届いた。
『皆さん、まだまだ遠いですが、壁が見えてきましたわよ』
壁という言葉に釣られたように、輸送車の中の少女たちは一斉に窓に視線を向けた。
そこには東京をグルッと包み込むようにそびえ立つ、巨大な壁があった。
「インセクターの攻撃を防ぐために作られた全天型防壁。その中だけが人類にとって唯一、平和に過ごせる空間になっている、麗しの我が家、か」
窓に映る壁を見つめながら、ミコトが小さく呟いた。
「何とか今回も犠牲無く帰って来られたな」
安堵したようなカエデの言葉に、ミトが頷きを返した。
「ん。みんなが頑張ったお陰」
「だねだねー! カザも頑張ったし、えへへ、表彰されるかもー!」
「ある訳無いでしょ」
「えー! あるって絶対あるあるだよー! ねぇヒマちゃん!」
「あるかも? ないかも? ヒマ、バカだから分からないよー」
「表彰されたとしても報奨金はクラスで分配、それが2Dの掟です。それを忘れたんですかバカザリさんは。やはりバカザリさんはバカザリさんですね」
「ぐぬぬー! サヨちゃんキライ!」
頬を膨らませて拗ねるカザリに、輸送車の中の少女たちが笑った。
次回、11/25 AM4時更新予定
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