第13話「東京区域」

 戦闘を終えた第十三高戦2C小隊は、第四高戦1D小隊が遺棄した物資を回収できるだけ回収し、本拠地である関東シェルターへの帰路についていた。


「最新式の突撃銃ARが五丁、近接用の大口径小銃が十丁、それにランドギア用の対空兵装が一式に、予備の装甲パーツと駆動パーツが四セット……」


 拾得物のリストを熱心に見つめてブツブツと呟いているのは、2D小隊で物資の管理などを担当しているアキの声だった。

 その目には光が戻っていて、サヨの言った通り自分一人で立ち直れたことが分かる。

 だがクラスメイトの誰もがそのことには触れない。

 そんなことを一々口に出して確認して、アキの立ち直りに水を差すようなことはしない――2Cに所属する少女たちにとって、それは当然のことだった。

 近付きすぎもせず、かといって離れている訳でもない。

 2C特有の適度な距離感を、ミコトは心地良く思っていた。


「つーか、あの非正規品、一体なんだったんだろうな?」


 カエデが携行食糧レーションを囓りながら一人ごちる。


「なんだったって。保護対象の非正規品イレギュラーっしょ? 壁の外で生きていたから正規じゃなくて非正規。それを保護するのは聯合政府の使命。……って授業で習ってっし」

「建前はな。だが今まで作戦行動中に非正規品を保護することはあっても、保護するために部隊を動かすなんてこと、無かったじゃねーか」

「まぁそれはそーっすけど……」


 あたしに言われても知らねーよ、とばかりにサキは肩を竦めた。


「何か理由がある、とカエデ姐さんはバカなりに考えているのですか?」

「あるのかもなーって思わねーことも無い、ってレベルだけどな」

「ふむ。姐さんはバカなんですから、考えたって答え、出ないでしょうにバカですか」

「バカバカ言うなよサヨぉ。バカなのは自分でも分かってらぁ。だけど気になるもんはしょーがねーじゃねぇか」


 やりこめられたカエデが不満そうに唇を尖らせる。

 そんなカエデの様子に笑いながら、


「何か理由があるのかもしれないわね。けど、私たちみたいな使い捨ての底辺学生が考えたって、何の答えも出ないわよ、きっと」

 ミコトが諭すように答えた。


「……確かにな」


 少女たちは底辺、落ちこぼれ、使い捨て前提の第十三高等戦闘学校の生徒だ。

 例え、上の方にどんな意図があったとしても、人類のために戦えと言われれば戦い、人類のために死ねと言われれば、死ななければならないちっぽけな存在なのだ。


「まー、そういうのは第一から第四高戦のエリートお嬢ちゃんたちに任せといたら良いんっすよ。あーしらには関係ないない。……って、また枝毛増えてっしー!」


 手鏡コンパクトを覗き込んで熱心に前髪を整えていたユイナが、天を仰ぎながら溜息を吐いた。


「はぁ~……早くシャワー浴びたいし……」

「おまえ、ゲロ塗れだったもんな。今もクセーし」

「はっ、クサくねーし。フローラルの香りだし!」

「ゲローラルの間違いだろ」

「はっ? ケンカ売ってんのサキ?」


 サキの揶揄に、ユイナが抜いた拳銃を突きつける。


「サキを殺してあーしも死ぬわ!」

「アホか! あたしはおまえとだけは死にたくねーよ!」


 ギャーギャーとやり合う二人に、またかという視線を送る少女たちの耳に、T-LINKを通してリオンの声が届いた。


『皆さん、まだまだ遠いですが、壁が見えてきましたわよ』


 壁という言葉に釣られたように、輸送車の中の少女たちは一斉に窓に視線を向けた。

 そこには東京をグルッと包み込むようにそびえ立つ、巨大な壁があった。


「インセクターの攻撃を防ぐために作られた全天型防壁。その中だけが人類にとって唯一、平和に過ごせる空間になっている、麗しの我が家、か」


 窓に映る壁を見つめながら、ミコトが小さく呟いた。


「何とか今回も犠牲無く帰って来られたな」


 安堵したようなカエデの言葉に、ミトが頷きを返した。


「ん。みんなが頑張ったお陰」

「だねだねー! カザも頑張ったし、えへへ、表彰されるかもー!」

「ある訳無いでしょ」

「えー! あるって絶対あるあるだよー! ねぇヒマちゃん!」

「あるかも? ないかも? ヒマ、バカだから分からないよー」

「表彰されたとしても報奨金はクラスで分配、それが2Dの掟です。それを忘れたんですかバカザリさんは。やはりバカザリさんはバカザリさんですね」

「ぐぬぬー! サヨちゃんキライ!」


 頬を膨らませて拗ねるカザリに、輸送車の中の少女たちが笑った。


次回、11/25 AM4時更新予定

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