第9話「インセクターと言われる敵性体」
アタッカーたちがアブラムシ相手に激戦を繰り広げるなか、最前線ではケイコがテントウムシ相手に苦戦していた。
「ブンブンブンブン飛んで、あんたはハエか!」
ケイコは毒づきながら重火器を両手で持ち上げ、空中を素早く飛行する敵に向かって撃ち放つ。
だがそもそも陸戦用の火器で、空中をハイスピードで飛行する物体を追いかけるのは、どだい無理な話なのだ。
弾丸は虚しくはずれ、廃ビルの壁に弾痕を残す。
『テントウムシだよ』
「そんなことは分かってるわよ!」
T-LINK越しにミトにわめき返しながら、ケイコは弾丸のような速度で突撃してくるテントウムシを紙一重で回避する。
「そんなことより、カエデとミトの二人はアキのフォローを頼むわよ!」
「やってるっての!」
きつい口調で言い返したカエデが、後方でアキに集るアブラムシに向かって携行している
毎分二千発以上を発射することが出来るミニガンは、轟音と発しながらアブラムシに銃弾の雨を降らす。
だが――。
「ちっ、暴走状態の虫どもが! 頭が半分潰れたら観念して死ねよ!」
頭の半分を吹き飛ばされても、足を吹き飛ばされても、動きを鈍らせることもなく執拗にアキに集る虫たちに、カエデが盛大に毒づいた。
「埒があかない。近接で足をもぐべき」
「それしかねぇか……!」
ミトの提案を受け、カエデはすぐさま得物を戦槌に持ち替える。
「ケイコ! あたいとミトは近接戦闘でアキの周りの虫を叩く! テントウムシの相手はしばらく一人で頼まぁ!」
「
「あたいたちに任せとけ!」
力強く答えたカエデは、ミトを引き連れてアブラムシの群れに突撃する。
その姿を見送ることもできず、ケイコは甲虫と対峙しながら声を張り上げた。
「QB! RBの補給はまだ終わらないのっ!?」
『カザリさんの補給はすでに終えていますわ。RBは今、再度、ポジショニングの最中です。あと五分、持ちこたえてくださいまし』
「五分っ!? 甲虫の突撃に対処するのも結構きついんだけど! 五分も保たせられる自信なんて無いって!」
『他に手はありません。何とか踏ん張ってください』
「簡単に言うなぁもう! 分かった、やってやるわよ!」
『その意気です。ケイコさんならば必ずや成し遂げてくれることを信じています』
「口先だけで……!」
文句を言いながら、ケイコは甲虫の突進を紙一重で回避する。
「くっ、このぉ!」
悔しげな声を放ちながら、ケイコは大型ショットガンを宙に向けて撃ち放った――。
ケイコが毒づきながら甲虫と対峙している頃。
後方の拠点で戦場全域を管制するCCVの中で、一つの異変が起きていた。
「どういうことですの、リリィさん。詳しく説明してくださいませんこと?」
「だから、あの甲虫が他の甲虫とは少し違うってこと。データ上の数値がおかしな数値を示してるんだよねー」
そう言うとリリィはモニターの一つに甲虫のデータを表示する。
「通常の甲虫は体内のメルトキシンの数値が三百を突破してるのが常なんだけど、ケイコちゃんの前に居る甲虫は、メルトキシンの数値が三十も無いんだよー」
リオンに説明しながら、リリィは微かに首を捻る。
「インセクターはメルトキシンのキャリアであることが判明していますから、この数値は確かにおかしいですよ、お嬢様」
「……リリィさん。この数値に前例はありましたか?」
「無いよ。だからリリィもおかしいと思って報告したの」
「……分かりました。デヴィは甲虫のデータ収集に集中しなさい。リリィさんは引き続き、戦闘管制を」
「はっ!」
「
「……作戦司令部にデータを提出後、ストレージのデータは消去されることになるでしょうから、リリィさんに"お任せ"しますわ」
「"お任せ"ねー。ブ、ラジャー♪」
含みのある微笑を浮かべて返事をしたリリィが忙しなく端末を弄っていると、T-LINKで通信が飛び込んでくる。
『こちらRBリンカ・シズカ。ポジショニング完了』
「よろしい。では甲虫丙型を標的として攻撃開始。……カザリさん。甲虫丙型に命中したならば、クレア教官への報告については便宜を図って差し上げましょう」
『ほんとほんとっ!? じゃあカザ頑張る!』
「リンカさんの観測情報を元に、必中させてください。良いですね?」
『まっかせてー!』
「ではリンカさん。充分な観測の後、撃破をお願いします」
『善処します。確約はできませんが』
「任せます。……デヴィ、ケイコさんに通信をお繋ぎなさい」
「はっ! ……どうぞ」
「CCVよりケイコさんへ。RBがポジションに着きました。甲虫丙型の動きを止めてくださいまし」
『ちょっと! それができればこんなに苦労してないんだけど!』
「カザリさんのファウスト改を当てるために必要なことです。奮闘を期待します」
『あーもう! 分かったわよ!』
次回は11/20頃に更新予定
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