第4話「戦闘準備」

 拠点から出撃したフロントチームは、カエデの指揮の下、慎重に戦場を進んでいく。

 部隊の先鋒を務めるのはストライカーと呼ばれる兵種の二人、カエデとミトだ。

 ストライカーはインセクターと接敵後、重火器と近接装備によって注目を集め、敵を足止めする役を務める危険な兵種だ。

 重武装で作戦行動を継続できる体力と膂力を持つものが選ばれ、フロントチームの中核を担うことが多い。


「ったく、剛性強化とかいう面倒な特性が発動したからって、なんであたいが体を張らなくちゃなんないんだよ……」

「処女受胎から生まれる赤子には特殊な能力が備わることが多い。私たちの剛性強化は肉体の強度を上げる能力。よってストライカーを担うのは当然」

「淡々とご説明ありがとよ、ミトぉ。んなことは分かってんだ。……まぁもう諦めてるから良いんだけどよ」

「ん。人生、諦めが肝心」

「達観してる相棒を持って、あたいは幸せだよ」

「ん。照れる」

「褒めてる訳じゃねーよ……」


 最前線を注意深く進むカエデたちに、後方から通信が入った。


『カエデ姐さん、イチャイチャすんのもいい加減にしてもらえますー?』

『そうだそうだー。あたしらのミトっちゃんを取るんじゃねーぞ脳筋ー』


 揶揄するような口調の通信は、ユイナとサキのコンビだ。


「ちっ、うっせービッチーズだ。てめぇらこそ周辺警戒、ちゃんとしてんのか?」

『アタッカーチームにゃ、サヨが居るから大丈夫っしょ』

『何言ってんですかバカですかバカですね。私一人に索敵させるとか、頭湧きすぎて股腐ってんじゃないですか?』

『あははー♪ サヨっち相変わらず毒舌ー♪』

「ヒマリさんも笑ってる場合じゃないんですが。一応、あなたがアタッカーチームの要なんですから、ちゃんと指揮してくださいバカですか』

『でへへー、ヒマ、難しいことわかんないし、フロントにはカエデ姐さんとかケイっちも居るし、別に良いかなーって』


 サヨの毒舌に対して、微塵たりとも悪いと思っていない口調でヒマリが答えた。


『確かにフロントチーム全体の現場指揮はアンカーである私が務めるけど、ストライカーが足止めした敵を効果的に仕留めるのは、あなたたちアタッカーの役目なんだから。しっかりしてよね』

『はーいヒマがんばりまーす!』


 ヒマリの脳天気な返事に、同じアタッカーチームのユイナたちがぶつくさと文句を言い始める。


『相変わらずヒマはバカっぽいしゃべりだし。あーしたちと同じでバカなのに指揮なんて務まるとは思えないんだけどなー……』

『その辺、どうなのよサヨ。あんたヒマと付き合ってんでしょ?』

『付き合ってません。ただのセックスフレンドです』

『きゃー♪ 本当のこと言っちゃやだよサヨっちー。ヒマ、恥ずかしいじゃーん♪』

『今更何を言ってるんですかバカですかバカですね。……とにかく、サキさんやユイナさんと違って、プラトニックなセフレですので、私がヒマリさんの何が分かるかというと何も分からないってことです。バカなお二人には伝わりますか? この気持ち』

『あー、はいはい、伝わってきた伝わってきた。でもプラトニックなセフレってどんな関係だし?』

『アレだろ。プラトニックにエロテクを競う的な?』

『エロテク剛の者じゃんそれー! きゃははっ♪』


 下ネタで盛り上がるユイナたちに、端末を通して大きな溜息が届けられた。


『はぁ~~~……作戦行動中なんだから、もう少し真面目にしてよ』

『出た! ケイのクソデカ溜息! それ、テンション萎えるから止めてくんない?』


 ゲタゲタと笑ったサキが、声を落としてケイコを窘める。


『私だって溜息なんか吐きたくないわよ。あんたたちが吐かせてるでしょ』

『あー、はいはい。どうせあーしとサキがぜーんぶ悪いんですよーだ』

『おい、ナチュラルにあたしを混ぜるなユイナ』

『いつだって一心同体でしょあーしら』

『知らねーよ』


 姦しいやりとりを繰り返すフロントチームの通信端末に、クォーターバックQBから連絡が入った。


『こちらQBリリィ。盛り上がってるところごめーん。第四の救助信号確認。カエデちゃんたちの進行方向三千程度の位置。データは端末に送っておいたよー』

「データ確認。……ミコト、リンカ。そっちから確認できるか?」


 QBからの報告を受けたカエデは、フロントチームから大きく離れて単独行動を取っているバックスチームに確認する。


『こちらRBライトバックリンカ。フロントチームから四時の方向、廃ビルの屋上で待機中。敵影は確認済み』

「了解。援護のタイミングは任せる」

『承知しました』

「で、LBレフトバック、ミコトはどうだ?」

『んー、ちょっと待って。……ああ、うん。敵影補足。リリィの報告に間違いなしだけど、第四の子たち、全然、反撃してないみたいよ』

「はぁ? なんだそりゃ? 逃げに徹してるってか?」

『逃げに徹するというか、潰走って表現がぴったりかもね。保護対象を連れてるって話だし、あり得ることだとは思うけど』

「そういうことか。ちっ……潰走する部隊とすれ違うとか、巻き込まれて混乱したらどうすんだよバカエリート共め」

『それぐらいで混乱するようなデリケートなやつ、2Cうちに居たっけ?』


 ククッ、と喉で笑いながら尋ねたミコトに、


「……良く考えれば、そんなやつ居る訳ねーな!」

 カエデは豪快に笑って答えた。


「ミコトはいつも通り、好きにやってくれて構わねーよ。信頼してるからな」

『任せれましょ。……フロントのみんな、無事で帰ってきてよね』

「あたいが誰も死なせねーから安心しな」

『ええ。私も全力であなたたちを守るわ。……幸運を、カエデ』

「てめぇもな!」

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