第2話「2C小隊出撃」

 学校から出撃した車両は四台だ。

 戦闘指揮車両CCVと呼ばれる中型の車両が一台。

 荷台に二機の陸戦用強化外骨格ランドギアを搭載したトレーラーが一台。

 そして装甲兵員輸送車が二台がその内訳だった。

 車両はそれぞれが戦術情報ネットワークで接続されており、車内に居たとしてもまるで隣に居るかのように会話することができた。

 他にも少女たちが纏う服――第十三高等戦闘学校正式戦闘服――には様々なコミュニケーションツールが標準装備されている。

 その一つである通称『T-LINK』と呼ばれるシステムは片めがねのように装着し、戦場で軍隊が連携するために必要な情報を共有するデバイスだ。

 正式名称は『戦術情報相互共有端末』。

 通信機能は言うに及ばず、網膜投射によるモニター展開、撮影機能などを有し、装着者の生体情報のモニタリングなども行う優れた装備だ。


『リオンより各員へ。T-LINK接続開始コネクト


 車両のスピーカーから流れてくる指示に従い、少女たちは耳に装着されたスカウターの電源を入れた。

 起動したシステムはいくつかの自己診断プログラムを走らせ、少女たちの網膜にその結果を表示する。


『リオンちゃん、T-LINKシステム全接続確認したよー』

『ありがとうリリィさん。……では改めまして。2C小隊隊長、リオン・タカギより今回の任務の説明を致しますわ。各員、T-LINKに送った資料を確認願います』


 端末から聞こえてくる声に従い、少女たちは網膜投射されたモニターを視線で操作して資料を展開する。


『2C小隊が達成すべき任務は二つ。一つは発見された非正規品イレギュラーの回収を行う途中、インセクターの襲撃によって半壊した第四高戦1D小隊の撤退援護。もう一つは非正規品の回収の引き継ぎ。それが今回の任務の内容ですわ』


 リオンの説明を受けて、端末に別の少女の声が飛び込んでくる。


『質問なんだけどよ。第四高戦といや、第十三のあたいらみたいな寄せ集め集団とは違う、前線のエリート部隊だろ? いくら一年のガキどもと言ったって、実戦じゃあたいらよりかは上の実力があるんじゃねーのか?」

『確かに第一高戦から第四高戦は戦闘に特化した教育を行っているエリート校。ですが今回は保護対象に接触する際、奇襲を受けたらしいですわ』

『奇襲~? 周辺警戒してなかったのかよ?』

『ド素人じゃん!』


 装甲輸送車の搭乗する少女の一人が、悲鳴にも似た非難をあげた。


『その辺りの詳細は不明ですわ。とにかくエリート校の小隊が全滅の憂き目に遭っているということ。それは事実です』

『そりゃそうだが……うーん、出撃のときにばあさんが出てきたってのが、あたいには引っかかっちまうんだよなぁ……』

『何かを察してなのかもしれませんが、確たる言葉が出なかった以上、今のわたくしたちには関係ありませんわ。目の前の任務を遂行する。それこそが第十三高等戦闘学校2C小隊に課せられた使命です』

『使命、ねぇ。矢面に立って体を張るのはあたいらフロントチームなんだが?』


 通信越しでも分かる剣呑な響きだったが、リオンと名乗った少女はその威圧を敢えて無視して話を続けた。


『使命と人命、どちらを優先するかについての議論は、後ほどカエデさんと徹底的にやると致しましょう。しかし今は任務が優先です。良いですねカエデさん?』

『……チッ』


 カエデと呼ばれた少女は、心中の不満を表明するように盛大に舌打ちをしたあと、リオンに応えずに口を閉じた。


『あー……アンカーから一言良いかな小隊長』

『ケイコさんですわね。どうぞ』

『敵の数と編成の情報が欲しい。どの程度の規模なのかが分からなければ、フロントチームにうまく指示を出せない』

『当然の質問ですわね。……リリィさん、追加の資料を』

『ほーいよ』


 間が抜ける声で応えた少女は、端末を通して小隊員たちに新しい情報を届けた。


『リリィが1D小隊の端末をハッキングしてゲットした、ホヤホヤ情報だよ♪』

『おわー! さすがリリっち、電子の女神ちゃん♪』

『でしょでしょー♪ まっ、部隊規則違反なんだけどね♪ てへっ♪』


 朗らかで明るい声の少女が弾むような声の称賛に、リリィと呼ばれた少女は自慢げに応えた。


『……ゴホン。違反行為についてはこの際、目を瞑るとして……皆さん、敵勢力の情報については確認できましたか?』


 曖昧な声音で続けたリオンに、先ほど質問した少女が噛みつくように言葉を放った。


『ちょっと待って! 敵に甲虫丙型が居るとか聞いてない!』

『1D小隊からの報告には入ってない情報だねー。このリリィちゃんのお陰ってやつ? えへへー♪』


『笑い事じゃないってリリィ。丙型と言えばテントウムシでしょ? あいつの高速ホバリング、対空兵装が無ければランドギアに搭乗したアンカーなんてタダの的よ!』

『そこはRBライトバックのお二人に任せるしかありませんわね』

『カザにっ!? あー、私死んだわ……みんな今まで仲良くしてくれてありがとう』


 盛大に嘆いた少女に対し、別の車両に搭乗してるカザリと呼ばれた少女の抗議が、端末から聞こえてくる。


『カザリさん、喧嘩は後にしてくださいまし。……情報は逐次更新をかけていきます。今はひとまず、この情報を元に小隊を指揮致しますわ。では各員装備の確認と報告を。まずはフロントチームからお願いしますわ』


 リオンの指示を受け、少女たちがそれぞれの装備の確認を行った。


『フロントチーム、ストライカーA、カエデ・タカマチ。B装備』

『同じくストライカーB、ミト・ツキノワ。B装備』

『フロントチーム、アタッカーA、ヒマリ・カドマでーす! アサルトライフル他、標準のA装備で出撃中ー!』

『ヒマリさんはしゃぎすぎです。バカですか。ああ、バカでしたね失礼。……アタッカーB、サヨ・アマシタ。A装備です』

『アタッカーC、ユイナ・ニイナ。あーしもA装備だけど、弾倉がなんでか一本しか無かったのでちょっと困ってまーす』

『はっ? ちょっと待ってユイナ! 弾倉が一本しかないって、昨日、チェックせずに帰ったのっ!?』


 ケイコが驚きと怒りを器用に混ぜた声でユイナを詰る。


『あー、そうみたい? まー、何とかなるっしょ』

『ならないでしょ、そんなのッ!?』

『んもーケイコはうるさいなー……まぁサキが何とかするっしょ。ねー、サキ♪』

『ほれ、あたしの予備弾倉、使っとけ』

『ありー♪』

『って訳でアタッカーD、サキ・カサキ。A装備。マガジン一本をユイナに強奪されたんで継戦能力が無くなりましたー。早期後退希望でーす』

『はぁ……まぁ良いですわ。次、アンカーですわケイコさん』

『くっ……フロントチーム、アンカーA、ケイコ・ハイモト。ランドギア標準装備で出撃。ユイナ、あんた、無事に戻ったら説教してやるから覚悟しときなさい』

『ベーっだ』

『あ、あのお二人とも喧嘩しちゃ駄目ですよ……。アンカーB、アキ・スズサキです。ランドギア標準装備で出撃してます』

『甲虫丙型の足止めはアンカーのお二人が鍵を握ります。頼みましたわ』

『ふぇぇ、が、がんばりましゅ……』

『次はカザの番だよね、よねよねよねっ! バックスチーム、ライトバック、カザリ・ハヤシダでーす♪ フリーガーファウスト改で出撃してまーす!』

『バックスチーム、ライトバック、リンカ・シズカ。今日も今日とてカザリに疲れさせられることになるでしょう。ケイコさん、骨は拾います』

『骨を拾う前に、ちゃんとカザの手綱を操って援護して欲しいんだけど……』

『善処します。確約はできませんが』

『確約して……!』

『甲虫が相手ですから、重火器を携行するカザリさんの行動次第で、部隊の死亡率が変わります。リンカさん、しっかり手綱を握っておいてください。頼みますわよ』

『善処します。確約はできませんが』

『お願いだから確約してよぉ……!』

『ケイコご愁傷様。まぁ私の方でも気をつけておくけわ。気をつけるだけは……。という訳でバックスチーム、レフトバック。ミコト・ククリ。いつもの対物ライフルを持ってきてるけど、甲虫相手にどこまで通用するかは分からないなぁ』

『同じくレフトバック、ユリィ・ククリ。観測手スポッターとして姉さんに同行します。ユリィたちはやれることをやるだけです』

『そう願いますわ。では最後にクォーターバックの確認をします。デヴィ』

『はっ! クォーターバック、デヴィ・ヘンダーソン。衛生兵及び小隊長補佐。怪我の処置は致しますが、あなた方のオツムのバカさ加減は治せないので、そこは注意してください。それとお嬢様をバカにするような発言をした人は、その発言に後悔しながら死ぬことになりますので、その点にもご注意を』

『クォーターバック、通信・戦闘管制担当のリリィ・ククリだよー。1Dについては引き続き探って行くんで、何か分かったらみんなに共有シェアするねー♪』

『規則違反は褒められたものではありませんわよ、リリィさん』

『でもリオンちゃんは止めないんでしょ?』

『小隊が生き残るために必要なら、華麗に耳目を塞いでご覧に入れましょう。2C小隊隊長、リオン・タカギ。陸戦歩兵A装備ですわ。さて、これで全員の火器情報は共有できましたわね。ではそろそろ現着しますので、皆さん準備をお願いしますわ』

「うぇーい」

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