第十七話 ユージ、エルフの少女・リーゼと旅を続けることが決まる
王都の冒険者ギルド、その一室。
ユージは、王都を拠点に活躍する冒険者のエルフとようやく対面したのだった。
ユージに同行しているのはアリス、コタロー、リーゼ。
護衛役のサロモンとエンゾ、そしてケビンとその専属護衛である。
エルフの少女・リーゼを里まで送ることを請け負ったエルフの冒険者・ハル。
それだけではなく、ハルは稀人であるユージをエルフの里に誘う。
稀人の情報があると聞いて、行くことを決めたユージ。
ユージは、これまでエルフの言葉で会話していたため、所在なく佇んでいたケビンやサロモンたちに説明したのだった。
「それでユージ殿、エルフの里はどのあたりにあるんだ? 場所によっては護衛を続けるが……」
「あ、たしかに。ありがとうございますサロモンさん、ちょっと聞いてみますね」
予想外だったハルのテンション、そして稀人の情報があるということ。
驚いたユージは、いまだエルフの里の場所を確認していない。
『ユージさん、ボクはニンゲンの言葉もわかりますよ。それに……ふふ。ユージさん、エルフの里は…………開拓地の近くです!』
『え?』
エルフの冒険者・ハルの言葉に目を丸くするユージ。
だが、考えてみれば近いのは当然である。
リーゼは里を出て道に迷い、モンスターに捕らえられた。
気絶しているリーゼを抱えてモンスターが移動したにせよ、開拓地から遠いわけがないのだ。
『ちなみにボクは、エルフの里から開拓地まで三日かかりました!』
『は? あれ? ハルさん、開拓地に行ったことあるんですか? え?』
続けて告げられたハルの言葉でさらに混乱するユージ。
『ええ! のどかでいいところですねえ。まあユージさんとお嬢様とは行き違いになっちゃいましたけどね!』
『あ、俺たちが出発した後ですか』
『そうです。王都に行ったってことはブレーズさんから聞きました!』
『え? ああそうか、ハルさんは人間の言葉もしゃべれますもんね』
『ええそうです! まあね、エルフの言葉しかしゃべれない里の人たちのせいで行き違ったんですけど……』
そう前置きして、ハルはリーゼを探していた里のエルフたちの情報を話していく。
『お嬢様を探してたら、エルフの文字が書かれた木の板を見つけたんですって! それが冬のはじめだとか……』
『ああ、あの看板が役に立ってたんですね! あれ? じゃあなんですぐ迎えに来なかったんですか?』
『それがねえ……お嬢様の無事は確認したけど、里の人たちはニンゲンの言葉がわからないんですよ。遠目で見たらリーゼもニコニコしてたし、とりあえず大丈夫そうだからボクを呼び出そうって』
『は、はあ……あ、それでハルさんは王都にいなかったんですか?』
『そうです! で、里に帰ったはいいものの、今度は本格的に雪が積もっちゃって。まあ勝手に里を抜け出したお嬢様と、ちゃんと監督してなかったご両親への罰ってことで、春に迎えに行こうと』
『……え? ずいぶんのんびりしてませんか?』
『うーん、そのへんはエルフですからねえ。数百年単位で生きるボクらエルフにとって、季節一つ分は、すぐって感覚なんですよ』
『はあ……』
『でも、たまに遠くから見てたみたいですよ? あ、ユージさん! ボクも木の箱に乗ってみたいです! 引っ張られて雪の上を進むヤツ!』
『木の箱……ああ、ソリですかね?』
『それです! なんか楽しそうだったらしいじゃないですか! 遠くから見てもお嬢様がはしゃいでるのがわかったって!』
『冬でよければいいですけど……大人が乗っても引けるかな』
『やった! でも冬か……。それにしても、稀人がいるってわかってればすぐに声かけたんですけどねえ』
『あれ? その頃にはハルさんはエルフの里にいたんですよね?』
『あ、はい』
ユージの問いかけに目を逸らすハル。
なにやらやましいところがあるようだ。
『ああそっか、罰だって言ってましたっけ?』
『そ、そう、それです! だから冬に行かなかったんですよええ!』
『ハル? 本当はどうなのかしら?』
『……雪が積もっててすごい寒いじゃないですか。それにほら、エルフの女性と会うのはひさしぶりで……その、たまには、ねえ?』
リーゼの詰問に視線を泳がせて答えるハル。
ワフワフッと鳴いて首を振るコタロー。こいつ、おとことしてだめなたいぷなのね、と言っているかのようだ。
ユージは引きつった笑みを浮かべていた。
『で、でも! お嬢様が安全で楽しそうだったから! 危なさそうならそれはもうすぐに、ええ!』
『はあ……あいかわらずね。まあおかげで楽しかったからいいんだけど』
『ですよね! いやあ、おてんばお嬢様はいろいろ経験して立派に成長されたようで! ボクと長老たちの判断は間違ってなかった!』
勢いで押し切ろうとするエルフの男・ハル。
リーゼどころか、ユージさえも呆れ顔である。
「ユージさん、それで里はどのへんですか? アリスちゃんは開拓地、近いって聞き取ったって言うんですけど……」
「あ、ああ、ケビンさん。そうです、開拓地の近くで、三日ぐらいらしいです」
「そうですか。じゃあプルミエの街までは、行きの人員にシャルルくんとドニさんを加えて、それからジゼルですね! ハルさんは同行されるんですか?」
「ケビンさん、さっそく連れて帰るんですか!?」
開拓地に近いと聞いて、さっそく帰りの算段を立てるケビン。どうやら結婚が決まったジゼルも一緒に連れていくようだ。
その熱々っぷりに、アリスはうわあ、と目を輝かせている。9才の少女はすでに恋愛話に興味津々のようだった。
「あ、ボクも一緒に行っていいかな? 馬車の旅とかひさしぶりなんだ!」
同行するかというケビンの質問に、ハルはキラキラと目を輝かせて答える。
『え? 馬車がひさしぶりって、どうやってエルフの里まで……?』
『ユージさん、ナイショです! いずれわかりますから!』
『そうよユージ兄、ナイショなの! レディには秘密が多いんだから!』
『そうですか……いえ、エルフの秘密なら無理には聞きませんよ』
深くは聞かずに遠慮するユージ。
だが、二人のエルフは笑っていた。まるでイタズラを企んでいるかのように。
ともあれ。
王都からプルミエの街へ、そして開拓地へ。
開拓地から、エルフの里へ。
エルフの少女・リーゼとの旅はまだ続くようだ。
□ □ ■ ■ □ ■ ■ □ □
「そういえば……あなたがケビンかな? ゲガスの娘と結婚するんだって?」
ユージやリーゼとの話が一段落したところで、エルフの冒険者・ハルが現地の言葉でケビンに問いかける。
「はい、そうです。会頭と知り合いなんですか?」
「気づけば長い付き合いだね! そっか、ケビンはまだ聞いてないのか」
「えっと、秘密みたいでしたし俺からは言わない方がいいのかなって……」
「ユージさん、ありがとう! じゃあゲガスのところに行くかなー」
「ゲガス商会に……ええ、まあ案内しますけれども」
いつもは察しが良いケビンだが、いまは首を傾げている。
当たり前だ。ゲガスがエルフとの繋がりについて話したのは、ユージとリーゼだけなのだ。
ケビンは昔なじみの従業員に囲まれ、ジゼルとの結婚を認められたことを祝福されており、まわりを観察する余裕はなかった。
ゲガスがユージたちに明かした場にはリーゼの護衛としてサロモンが同席していたが、会話はエルフの言葉。そのためサロモンも話の内容を知らなかった。もっとも、理解できたとしてもサロモンは口外しないと誓っていたが。
『それにしても……お嬢様のおてんばが、稀人の発見とお役目に繋がるなんてなあ』
『リーゼの日頃の行いがいいからね!』
『お嬢様……開拓地のブレーズさんから、けっこう危ないところだったって聞いてますけど?』
『う……ご、ごめんなさい』
『無事だったからよかったものの……自分の身は自分で守れるよう鍛えてくださいね』
調子に乗ったリーゼを睨むハル。
その迫力にしゅんと小さくなったリーゼは、素直に謝罪していた。
そういえばこの男、現役の1級冒険者だと自己紹介していた。
人里でエルフとバレたら狙われる。
ユージはそう聞かされ、リーゼがエルフだとバレないように気を遣ってきた。そもそもプルミエの街ではなく開拓地で一冬リーゼを保護したのも、それが理由の一つだった。
だが、ハルはエルフと明かした上で王都を拠点に冒険者をしているのだ。
それはつまり、身に掛かる危険を自分の手で振り払えるということである。
『まあお説教はボクの柄じゃないしね! あとは里のみんなに任せよっと!』
『うう……』
『大丈夫大丈夫! 説教小屋も慣れれば快適だから! あ、抜け道教えてあげようか?』
ニヤニヤと笑いながらリーゼに追い打ちをかけるハル。
抜け道を知っているあたり、どうやら説教小屋の常連のようだ。
『あの……』
『ああごめんごめん、ユージさん! さ、じゃあゲガスのところに行こうか!』
エルフの男・ハルはさっと立ち上がる。
が、後に続いたのは、ワンッ! と勇ましく吠えたコタローのみ。
エルフの言葉を理解できる者は数少ないのだ。
リーゼは落ち込んでおり、ユージは察しが悪い。
「おっと、ついつい。みなさん、ゲガス商会に行きましょう!」
あらためて現地の言葉で言い直すハル。
しまらない男である。
こうして、ユージたちは冒険者ギルドからゲガス商会に向かうのだった。
エルフは穏やかで神秘的な性格という、ユージの幻想をぶち壊して。
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