閑話9-12 エルフの少女リーゼ、保護されて開拓地に向かう

-------------------------前書き-------------------------


副題の「9-12」は、この閑話が第九章 十二話目ぐらいの頃という意味です。

中心がその頃であり、冒頭はそれより前のお話です。

ご注意ください。


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 お父さまもお母さまも、最近は忙しいって言ってちっとも遊んでくれない。

 ほかの人たちも忙しいって。狩りをしたり歌ったり布を織ったり、遊んでるみたいなのに。

 みんな、もっと子供を作ればいいのになあ。

 リーゼはもう12才のレディだから、面倒見てあげるのに。

 それにしてもヒマねえ……。


『そうだ! リーゼも果物を採りに行けばいいんだ! お父さまもお母さまも、自分で採ってこられるなんて、リーゼはもう立派なレディだなって言ってくれるわ!』


 我ながら名案ね!

 よーし、そうと決まったらさっそく準備しなくっちゃ!

 果物を入れる小袋を持って、森は危ないから弓矢を持って、そうそう、アレも持っていかなくちゃ!

 10才の誕生日にもらった、リーゼの宝物。

 これがあれば、里にも帰ってこられるんだから!

 失くさないようにって、お母さまが首から下げられるようにしてくれたお気に入り。


 うふふ。

 準備はできたわ。

 一人で森に行くのははじめてだから、ワクワクしちゃう。


 さあ、リーゼの冒険のはじまりよ!

 お話に出てきたレディみたいにかっこよくなるんだから!



  □ □ ■ ■ □ ■ ■ □ □



『どうしよう、どうしよう。ここ、どこだろう……』


 最初はうまくいってたの。

 誰にも見つからないように里を出て、果物もいっぱい!

 お父さまとお母さまが大好きなベリーの実も見つけたの!

 でも、気がついたら帰り道がわからなくなって……。


 でも、でもリーゼはもう12才のレディだから、こんなことで泣かないんだから!

 お話のだって、森で迷っても自分たちで家に帰ったんだもの!

 リーゼにもできるんだから!

 でも、小石もパンも落としてこなかったわ……。

 どうしよう、どうしよう。

 森にはゴブリンとかオークとか、ニンゲンがいるから危ないよってお父さまが言ってたのに……。


『泣いちゃダメよリーゼ! レディの涙は高いんだから! ……もうすぐ暗くなりそうね』


 そう言えば、お父さまが言ってたわ。

 森で迷ったら、そこから動いちゃいけないよって。

 必ず助けに行くからねって。


 リーゼ、お父さまを信じて待つことにする。

 夜は危ないから、隠れる場所を見つけなくっちゃ。

 朝になったら、きっとお父さまがリーゼを探しに来てくれるわ。

 お父さまとお母さまに、リーゼ泣かなかったのよ、って言わなくちゃ。

 ベリーの実、喜んでくれるかなあ。

 偉かったねリーゼって、褒めてくれるかなあ。


 今日は、あの木の根元に隠れて、明日、あした。

 お父さま、お母さま……。



  □ □ ■ ■ □ ■ ■ □ □



『う……ううん……』


 なんだか頭がぼんやりするの。

 すごーく揺れるお船に乗って大冒険する夢を見てたから、そのせいかしら。

 なぜだかお腹が苦しいけど、手足がブラーンブラーンってなって楽しかったわ。

 お船もいつか乗ってみたい!


 それにしても、ちょっとまぶしいな。

 もう朝なのかしら。

 お母さまが起こしにこないなんて、めずらし……


 え?

 きゃあ!

 ゴブリン!

 オークまで!

 どうしよう、逃げなくちゃ!

 足、足を地面につけて、走れば、うううー、下ろして!

 やだ、やだ、やだ!

 いたっ!



  □ □ ■ ■ □ ■ ■ □ □



 怖い夢を見たの。

 森で迷って、ゴブリンとオークにさらわれて、逃げようとしたけど、あれはうしろから殴られたのかしら。

 気を失って……。

 ううん、あれは夢じゃない。

 じゃあ、ここは!



『……え? ここはどこ? キャッ! ニンゲンね!』



 あれ?

 ゴブリンもオークもいない!

 リーゼ、助かったのね!


 え、でもこの人たち耳が丸い!

 リーゼ知ってるわ、この人たちはニンゲンよ!

 どうしよう、どうしよう。

 森でニンゲンにあったら逃げなさいって、お父さまとお母さまが言ってたのに。

 囲まれてるの!

 でも女の子も犬もいるし、大丈夫なのかしら。

 さらわれないかしら。


 わっ、ぼーっとした顔の男がリーゼに近づいてくる!


『だいじょうぶ、落ち着いて。君は助かったんだよ』


 え?

 うそ?

 なんで?


『アナタ、ニンゲンなのに言葉がわかるの?』


『え? ……えっ?』


 お父さまとお母さまは、ニンゲンはエルフをさらうし、言葉がわからないから見つかったらすぐに逃げなさいって言われてたのに。

 なんでこのぼーっとした顔の男はリーゼの言葉がわかるの!

 ……やっぱり、まわりのニンゲンはわからないみたいだし……。


『このおじさんが、エルフの里まで帰れるか? って聞いてるんだけど……。家の場所はわかるよね?』


『もちろんよ! リーゼはもうレディなんだから!』


 どうしよう、わかるって言っちゃった……。

 ホントはわからないのに……。

 お母さまからいっつも、リーゼは見栄をはるクセがあるから気をつけるのよって言われてたのに……。

 でも、リーゼの宝物があれば!

 きっと、お父さまも探してくれてるし、それに、アレがあれば里に入れるから……。


『えっと……ああ、ない、ない! ウソ、どうしよう……これじゃ帰れない!』


 うそ、うそ!

 どこかで落としたのかな、アレ、アレがないと里に入れないのに……。

 ううん、ここがどこだかわからないし、ニンゲンがいるのよ。

 帰れないのかなあ。

 お父さん、お母さん……。

 リーゼ、レディだから泣かないって、でも、でも、


『よくわからないけど、ちょっと落ち着こう! ね?』


 ぼーっとした顔の男が、あわててリーゼに話しかけてきたの。

 ニンゲンなのに、リーゼのことを心配してくれてるみたい。

 へんなの。

 それにリーゼの足にコツコツってなにか当たるから、見てみたら犬がいたの。

 この犬も心配してくれてるのかしら。

 小さな女の子も、リーゼのことを見てる。

 泣いちゃダメよリーゼ。

 ニンゲンに弱みをみせちゃダメなんだから!

 リーゼはエルフのレディなんだから!



 ぼーっとした顔のニンゲンの話を聞いて、安心したわ!

 そう、外には彼がいるの!

 もしエルフがニンゲンのところで困ったら、彼を頼ることになってるのよ!

 もうすぐ冬だから、春にならないと会えないけど……。

 でも、待ってれば帰れるの!

 お父さまとお母さまは心配してるかなあ。

 リーゼ、帰ったら怒られちゃうかなあ。

 でもいいの。

 リーゼがんばって、春になったら里に帰るんだから!

 またお父さまとお母さまに会えるんだから!

 お父さまもお母さまも探してるかもしれないし、街より森で春を待つわ。

 言葉がわかるニンゲンは便利だし、里にはいないリーゼより小さい子もいるしね!

 リーゼ、もっと大人になってお父さまとお母さまも驚かせてやるんだから!



  □ □ ■ ■ □ ■ ■ □ □



 リーゼの宝物は、見つからなかったの。

 悲しかったけど、でもしょうがないわ。

 ユージも犬もアリスちゃんも、一緒に悲しんでくれたから、リーゼは泣かなかったのよ。

 それから、森を歩いて、ユージが住んでる里に着いたの。

 みすぼらしいけど、まだ作ってる途中みたい。


 それより……。

 なにこの家……。

 ユージはニンゲンの魔法使いなのかしら。

 族長の家だってこんなに立派じゃないわ!

 それに……。

 これは、結界ね。

 里とおんなじ。

 エルフの言葉がわかって、立派な家に住んでて、結界まである。

 このユージとかいうぼーっとした顔のニンゲン、何者なのかしら……。



  □ □ ■ ■ □ ■ ■ □ □



 アリスちゃんがリーゼの手を引いて、ユージの家を案内してくれたの。

 リーゼ、たくさん驚いちゃった!

 レディなのに、はしたないところをアリスちゃんとコタローに見せちゃったわ。

 だって、しょうがないのよ。


 服を脱いで、アリスちゃんが棒をクイッて上げたら、お湯が出るの!

 ニコニコしながらリーゼの体を洗ってくれたのよ!

 リーゼより小さいのにお姉さんぶっちゃって。

 リーゼ、お返しにアリスちゃんを洗ってあげたわ!

 リーゼの方がお姉ちゃんなんだから!

 それにしてもニンゲンってぷにぷにして柔らかいのねえ。


 それだけじゃないのよ!

 アリスちゃんに連れられていった部屋には、見たこともない服がいっぱいあったの!

 たくさんあって、すごくて、リーゼ興奮しちゃったの!

 やっぱりレディはオシャレしなきゃ!

 いろんな色があって、形があって……。

 おっきな鏡まであるの!

 すごい、すごいわ!


 ああ、里で作ってる布があればなあ……。

 あの布で、こういう服を作ったらキレイだと思うんだけどなあ……。

 里に帰ったら、お父さまとお母さまに教えてあげなくちゃ!

 ニンゲンも捨てたものじゃないのね!


 春。

 春になったら、外にいる彼に手伝ってもらって里に帰るんだから!

 お父さま、お母さま、待っててね!

 リーゼ、いま、お話みたいな大冒険してるのよ!




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