閑話 異世界に暮らすある生物のお話

-------------------------前書き-------------------------


残酷な表現や胸糞な描写があります。

苦手な方はご注意ください。


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 あたまがすっきりしたのは、いつだっただろう。

 いきものをたくさん殺してからだろうか。

 くらくなって、体がいたくてねむれなかった。

 あかるくなって、あたまがすっきりしたことは覚えている。


 それから、いろいろ考えられるようになった。

 それから、いろいろがんばった。


 うえないように。


 なかまが死なないように。


 むれが大きくなるように。



  □ □ ■ ■ □ ■ ■ □ □



 おれの横で、なかまがフゴーッと鳴く。


 おなじ形だけど、おれよりすこし小さくて、おれより弱い二ひき。

 でも、おなじ形のなかまはもっと弱い。

 おれと、この二ひきがむれの中心だ。


 むれには、おれとちがう形のヤツらがいっぱいいる。

 殺して、食ってたら、いつのまにかおれたちに食べものを持ってくるようになった。

 べんりだから、おなじむれに入れてやった。

 ヤツらは弱いけど、すぐ増えるからべんりだ。

 もりじゃなくてみずがあるここをみつけてから、ヤツらはもっと増えていった。

 食べるものがなくなったら、おなじ形のなかまを食べているようだ。

 やばんなヤツらめ。



  □ □ ■ ■ □ ■ ■ □ □



 ある日、おれたちとちがう形をしているヤツをみつけた。

 へんなけがわで、木よりすごいぶきを持っておれたちをおそってきた。

 殺した。

 うまかった。


 ぶきは、おれとおなじ形でおれより弱い二ひきにくれてやった。

 おれのぶきは、このこぶし。

 ひつようなら木だってある。

 むれを、こどもたちを守るためなら、みんな殺してやる。

 うまれた時からしっていた。

 このもりは、弱ければ死ぬんだ。


 むれが大きくなったから、食べものをとるのがたいへんになった。

 ぶきをくれてやった二ひきは、いろいろさがしてくる。

 あたまもいいし、おれとアイツらがいれば、このむれはあんぜんだ。


 このまえ、一ぴきがみちを見つけた。

 おれは知っている。

 みちの先には、えもののすみかがあるものだ。

 おれたちとおなじ形をしたヤツと、ちがう形をしたヤツ、なかまを連れておそいにいかせた。

 もう一ぴきはべつのほうだ。


 アイツらがかえってきたら、さむくなってもむれを小さくしなくていいだろう。

 たのしみだ。



  □ □ ■ ■ □ ■ ■ □ □



 かえってこない。

 アイツらが、かえってこない。

 死んだのか。

 おれのほかに、アイツらより強いヤツがいるのか。

 しかたない。

 このもりは、弱ければ死ぬんだ。



  □ □ ■ ■ □ ■ ■ □ □



 ねていると、あつくなった。

 知っている。

 これは、ひだ。

 そとにでろ、とさけんだ。

 おれとおなじ形をしたヤツらがでていった。

 そとから、フゴーッという声とゲギャグギャきこえてくる。


 てきだ。


 おれとおなじ形で、おれより弱い二ひきはいない。

 おれが、むれを守らなければ。

 おれが、こどもを守らなければ。



  □ □ ■ ■ □ ■ ■ □ □



 そとにでた。

 おれとおなじ形をしたなかまが、ちがう形をしたむれのヤツらが、死んでいく。

 まえにみた、へんなけがわで強いぶきをもったヤツらがたくさんいる。


 おれは知っている。

 まえにいたヤツは、よわかった。

 たくさんいるが、おれなら殺せる。

 かんがえている間に、おれとおなじ形をしたなかまが、ちがう形をしたむれのヤツらが、死んでいく。


 さけぶ。

 いかりをこめて。


 よくも、よくもなかまを。


 へんなけがわのヤツらの一ひきが、おれに向かってくる。

 おまえがさいしょのあいてか。

 木をふりかぶる。


 死ね。


 木をふりおろす。

 木をふりおろしたのに、木がない。

 いや、おれのうでがない。


 さけぶ。

 くやしさをこめて。


 おれはむれを守れないのか。

 おれはこどもを守れないのか。

 おれはここで死ぬのか。

 おれは弱いのか。


 向かってきたヤツが、うでをふった。

 おれは、たおれた。

 あしがなくなった。


 うでがない。

 あしもない。

 おれはただ、なかまが殺されるのをみていた。

 おれはただ、こどもが殺されるのをみていた。


 すまない。

 おれが、守れなかったせいで。


 すまない。

 おれが、弱かったせいで。


 さけぶ。

 ねがいをこめて。


 にげろ。

 にげて、生きてくれ。



  □ □ ■ ■ □ ■ ■ □ □



 きがつけば、しずかになっていた。

 なぜなのか、かんがえたくない。

 うごけないおれのまえに、向かってきたヤツが立っていた。


 殺せ。


 このもりは、弱ければしぬんだ。

 おれは、むれを守れなかった。

 おれは、こどもを守れなかった。

 強いヤツが、弱いヤツを殺すのはあたりまえだ。

 おれは、弱かった。

 おまえは、強かった。

 強いヤツに殺されるのは、しかたない。


 それにまだ、おれとおなじ形でおれより弱い一ぴきと、なかまがもりにいる。

 生きてくれ。

 おれは、ここまでだ。


 おれをたおした強いヤツよ。

 おれはおまえに殺される。

 おれを殺したことを、ほこってくれ。

 このもりで、おれより強いとほこってくれ。


 おれをたおした強いヤツのよこに、ちがうヤツがきた。

 強いヤツとそいつが、はなしている。

 ちがうヤツがうなずいている。


 おい。

 まさか。

 やめろ。


 おれは、おれをたおした強いヤツに殺されるんじゃないのか。

 ソイツはだれだ。

 おれより強いのか。

 このもりは、弱ければ死ぬんだ。

 おまえは、おれより強いのか。


 いやだ。

 せめて、強いヤツに殺されたかった。


 なぜだ。

 なぜ。


 わかってる。

 おれが、弱かったからだ。


 むれよ。

 こどもたちよ。

 おれとおなじ形でおれより弱いもう一ぴきよ。

 生きてくれ。


 そとにいるのはおすばかりだが、だいじょうぶだ。

 めすをさらえば、おれたちはまた増える。


 生きろ。

 さらっておかしてはらませろ。

 またむれをつくれ。


 とがったぼうが、おれのむねにささる。


 ああ。

 ああ。

 せめて、強いヤツに殺されたかったなあ。


 おれを殺したヤツよ。

 せめて、強くなってくれ。

 このもりで、おれたちを殺したことをほこってくれ。


 ああ。

 むれよ。

 こどもたちよ。


 すまない。

 おれは、弱かった。


 すまない。

 おなじ形のめすとしかこうびさせられなかったな。


 すまない……

 つぎは、ちがう形のめすとこうびしたいなあ……

 さらって……おかして…………

 ……はらませたかったなあ…………



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