第七話 ユージ、行商人とファーストコンタクトする
「
おそらく行商人のものだろう声が聞こえたユージは、玄関へ向かう。
左手には『ユージにもわかる! 行商人との交渉マニュアル』をしっかりと握りしめている。
玄関に着くと、内側に立てかけておいたスコップを右手に持つ。
リビングから出てきたアリスとコタローと合流する。
「アリス、行商人のおじさんでも、門の外に出ちゃダメだよ。しっかりお話ししてからね。コタローも警戒よろしくな」
「うん! あぶないかもしれないから、お庭からこえをかけるんだよね!」
アリスにも駆け出さないよう注意しているようだ。
ウォンッ! コタローも力強い鳴き声で、まかせなさい、と伝えてくる。
よし。気合いを入れるかのようにひとつ頷いて、ユージは決戦の場へ向かって行った。
「おお、アリスちゃん、アリスちゃん! 無事だったんだね!」
年の頃は30代半ばぐらいだろうか。軽く贅肉のついたアゴと腹を持った恰幅のよい男が、泣きながらアリスに声をかける。
門の前に立ったまま、家の敷地に入ろうとはしていない。どうやら冒険者から話を聞いていたようだ。
ここまで背負って来たのだろう。足下には大きな背負子が置かれている。
行商人を連れて来た冒険者三人組は、門から離れた場所で野営の準備を進めている。
「
どうやら例の冒険者たちはきちんとアリスの知り合いの行商人を見つけ出し、連れて来たようだ。
ふう、まずは第一段階はオッケーかと呟き、手元のフローチャートに目を落とすユージ。
チャートでは、まず本当にアリスの知っている行商人かどうか確認することが最初の段階だったらしい。
「森に逃げ込んだアリスをたまたま見つけて、家で保護しているんですよ。いまでは俺の妹です。アリス、いったん家の中で良い子で待っててくれるかな? ちょっとおじさんと商売の話があるんだ」
わかった! おじちゃん、あとでお話しよーね! と言い残し、ぐずることなく家に戻るアリス。聞き分けの良い子である。
コタローはユージの横に立つ。が、冒険者たちの時とは違い、あまり警戒していないようだ。目は離さないが、うなり声もなく、歯もむき出していない。
「引き離しちゃってすいません。でも、先にアリスの家族の消息を知りたくて、いちおうあの子には離れてもらいました」
「そうですか……。まずは、アリスちゃんを助けていただきありがとうございました。私も知らない仲ではないですし、アンフォレ村があんなことになったので……心配していたんです。ありがとうございました」
「いえ、俺の方こそアリスには助けられてばかりです。それで、アリスの家族なんですが、行方を知りませんか? 最悪、生きているか死んでいるかだけでも……」
おそるおそる行商人に質問するユージ。もし死んだとわかれば、自分がアリスに伝える。そんな覚悟を持って、アリスに家で待ってもらっているのである。
「定期的に行商していた村ですから私も気にかけていますし、この話を聞いてあらためて情報を集めました。ですが、アリスちゃんの家族は行方知れずで……」
「そうですか……」
ユージも半ば予想していたことではあった。
盗賊に襲われ、家族がそれぞれ手を尽くしてアリスを一人で逃がした以上、捕まったか殺されたか、いずれにせよ盗賊から逃げられてはいないだろうと。
沈み込み、うつむくユージ。だが、下を向いたことで手に持つ紙束とコタローの姿が目に入る。
コタローもクゥーンと悲しげな声を出した後、ユージの手に鼻面をこすりつけている。ほら、まだはなしはあるでしょ、と言いたいようだ。
そうだな、しっかりしなきゃなと深呼吸して頭を切り替えるユージ。
「自己紹介が遅れてすいません。俺が森の魔法使いユージです。アリスの家族のことのほかにも、いろいろとお願いしたいこともあるんです」
「こちらこそ、商人なのに動揺してしまって……。私がアンフォレ村に行商していた商人のケビンです。冒険者から話を聞き、鏡を見まして。アリスちゃんの無事を確認するだけではなく、私自身もユージさんと話がしたいと思って来たんですよ」
さすがに行商人、鏡の価値を理解し、商売の機会だと思って行動したようだ。もっとも、そうでなくてはコンパクトミラーを先に一枚渡した意味がないのだが。
おそらくケビンの足下に置かれた背負子には、ユージに売れるか物々交換できるかもと予想した品々が入っているのだろう。
ここまでは、ユージが手にしたマニュアルでも予測されていた流れである。
だが、行商人ケビンの次の質問は。
可能性は示されていたが、「その場合は何も答えず話だけ聞き、とにかく掲示板に戻ってくること」とされている内容であった。
「やはり、直接見て確信しました。ユージさん……あなた、別の世界からやってきた
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