第六話 ユージ、アリスとコタローとお花見をする

「おー、きれいに咲いたなあ。ほらアリス、こっちに座って。コタローはここでいいか?」


 ユージが厨二病を発病し、魔法の練習をはじめてから時が経ち。桜は蕾が開き、いまでは満開の花を咲かせている。

 今日はアリスの魔法によって土が見えるようになった庭にブルーシートを広げ、二人と一匹でお花見である。

 ちなみに、森の魔法使いユージはいまだに魔法が使えない。


「ユージ兄、さくら・・・ってきれいだね! なんでさくらは一本だけなのかなあ? もっとたくさんあったらもっともっときれいなのに!」


 シートの上に足を崩し、女の子座りでニコニコとアリスがはしゃいでいる。


「アリス、この桜はね、アリスのお姉ちゃんになったサクラが生まれた時に、記念に植えたものなんだよ。それにほら、一本だけ咲いているのもキレイだろ? 桜はひっそり咲いて、パッと散るのも美しいもんさ……」


 遠い目をしながら何やら語るユージ。もちろん特に思い入れなどない。なんとなくかっこつけてみただけである。

 アリスはそーなんだ、すごーい! と素直に喜んでいるが、コタローは吠えることもなく冷たい目でユージを見つめるのみである。


「さあアリス、乾杯しようか! 俺がここに来てから今日で一年。それに一昨日は誕生日だったんだ」


「うん、アリスかんぱーいってやる!」


 ふたりで声を揃え、かんぱーい、とグラスを合わせる。コタローは乾杯に参加できない。さすがに犬の手でグラスは持てないのだ。


 一周年と誕生日を祝うつもりで、ユージはこの世界に来てから初めてビールを口にする。まあビールではなく、父親が冷蔵庫に残していた発泡酒だが。

 ユージ自身はお酒に強くもなく弱くもなくといったところで、一缶分では酔うこともない。妹のサクラはザルだが。

 さすがにユージも酔い潰れるまで飲むほどボケてはないようだ。


「俺もこれで31才か……。そういえば、アリスの誕生日はいつなの?」


「たんじょうび……? うーんと、村ではしゅーかくさい・・・・・・・が終わると、みんなひとつ上になってたよ?」


「うーん、一斉に祝うスタイルなのかな。アリスが生まれたのはいつだったの? 聞いたことある?」


「うん! アリスね、秋に生まれたんだって! しゅーかくのじきに生まれたからたいへんだったってお父さんが言ってた! でもね、そう言うとね、お母さんが、アナタが冬がきてすぐにしこんだからじゃない、まちなさいって言ったのに、って言うの! アリスよくわかんないけど……」


 抜群の記憶力である。なぜ子供は覚えていてほしくないことこそ覚えているのか。


「そ、そっか、アリスは秋に生まれたんだねー、へー、そっかー、じゃあ今度の秋にお祝いしようね!」


 仕込む云々うんぬんは触れることなく話をそらすユージ。目が泳いでいる。

 ごまかすようにコタローがアリスにじゃれつく。ここはまかせなさい、と言っているかのようだ。

 どうやらコタローもまだアリスに性教育するのは早いと考えているらしい。気づかいのできる女である。犬だが。



ゲギャーッ!


 突然の鳴き声につられて、音がした上空を見上げる二人と一匹。


「わ、わいばーんだ! ユージ兄、コタロー、見えないところに隠れなきゃ!」


 そう、ユージが異世界にきて初めて外に出た時に目にした、空を飛ぶ怪鳥である。


 アリスが声を上げ、さっとユージの手を引いて家の中に駆け出していく。ときどき振り返りながら、コタローもすぐ後ろをついてきていた。


 今年もまた、鋭い後脚には緑色の人型の何か、おそらくゴブリンが掴まれていた。

 去年見たときと同じように、家の東の空から北の山々へ向けて飛び去って行く。


「はあはあ……。一年見なかったのにな……。アリス、わいばーんは春にしか出ないのかな?」


「うーん、アリスわかんない! でも、わいばーんが出たら、家の中に入って見つからないようにかくれるの。子どもはとくにあぶないんだって」


 こうして、楽しかったお花見は早めにお開きとなり、おとなしく家の中で昼食となるのであった。


「あ! くっそ、またワイバーンの写真撮れなかった!」


 一年前の雪辱を果たせないユージであった。



  □ □ ■ ■ □ ■ ■ □ □



【ポンコツ交渉人は】10年ぶりに外出したら自宅ごと異世界に来たっぽいpart9【生き残れるか】


1:名無しのトニー


ここは、ポンコツ交渉人であることが判明した「ユージ」がアップする異世界の情報や画像、動画を楽しむスレだ!

ホントに異世界? どうやって加工してんの? は検証スレで。


ついにはじまりそうな異世界人との交流。

ユージは果たして生き残れるかッ!

おまえらがなんとかしてやらなかったらしゅんころだぜッ!

ハート○ン軍曹のごとくユージを鍛え上げるのだッ!


次スレは>>900を踏んだクソ虫が宣言して立てるよーに!



311:名無しのニート

それでも鏡4枚に追加報酬1枚は多かったんじゃね?

もう手に入らんのよ?


312:元敏腕営業マン

すまん

俺のミスだ

仲間割れを避けて

迅速に・確実に交渉を成立させることを

優先しすぎた


313:物知りなニート

>>312

日本と違って売り切りじゃないんだ

文明のレベルがまだわからないが

国王がトップの封建制があり、

権力がある勢力がいることはわかっているんだし


314:名無しのニート

>>312

ホントに敏腕だったのかな?


315:名無しのトニー

>>314

シッ!


316:名無しのミート

>>314

( ホントに敏腕だったらこのスレにいないと思うの )


317:クールなニート

>>ALL

まあ終わったことは変えられないんだ

反省会はもう終わったことだし

次の行商人のパターンを想定して教え込んでおこう


そういえばALLとか何年ぶりに使ったか


318:名無しのニート

行商人の人となり次第だもんなあ


319:YESロリータNOタッチ

だいじょうぶ、アリスちゃんに計算おしえて

店番も手伝ってもらっていたぐらいだ


幼女好きに悪いヤツはいない!


320:インフラ屋

>>319

むしろ不安が増した


321:物知りなニート

アリスちゃんが店番した方が売上が伸びる

打算的な考えだったかもしれない


322:クールなニート

>>321

それならそれでやりようがある

パターン2が効くだろう


323:名無しのトニー

まあぶっちゃけユージ通して

知識は取り放題なわけだし

これほどの儲け話はないよな


324:名無しのミート

飼い殺しで行商人ウッハウハルートか!


325:名無しのニート

でも家族を捜してくれて

食糧とか必需品手配してくれるなら

飼い殺しで問題ないんじゃない?


326:名無しのニート

>>324-325

それでもokだって結論でてたろ

くりかえすなよ

低能なの?


327:ドングリ博士

春だな


328:カメラおっさん

ああ、春だな


329:ユージ

おい

またワイバーンが空を飛んでいった

去年に続いて2回目

そしてまた写真撮り忘れた


330:名無しのトニー

>>329

そっか、ユージ


331:名無しのミート

>>329

気を落とすなよ、ユージ


332:名無しのニート

>>329

またチャンスがあるよ、ユージ


生き残ればな


333:クールなニート

>>329

そういうことだ

行商人が来る前に予習復習をしっかり


334:ユージ

お、おう

なんかすまん


335:名無しのトニー

気にするなよ、ユージ


336:名無しのミート

いいから励めよ、ユージ


337:名無しのニート

そなえよつねに!


338:名無しのニート

>>337

ビーバーさん ちっす!


339:名無しのニート

>>338

しょ、しょうがくせいぢゃないし!



  □ □ ■ ■ □ ■ ■ □ □



 パソコンから目を離し、手元の紙束に目を落とすユージ。


 そこには『ユージにもわかる! 行商人との交渉マニュアル』の文字があった。

 全24ページである。

 もちろんユージが作ったものではない。

 掲示板の有志が作り、ユージに授けた秘策である。

 ただし、掲示板の有志の大半がニートであったが。


「がんばらなきゃ。もう一人じゃない。アリスがいるんだ。応援してくれるみんながいるんだ。俺はできる俺はできる俺はできる」


 紙束に目を向けたまま、ぶつぶつと呟くユージ。


 その時である。

 外から声が聞こえてくる。


アリスちゃん・・・・・・、ここにいるのかい、アリスちゃん・・・・・・!」


 冒険者が家に来てから、12日目。

 ユージが異世界に来てから、ちょうど一年。


 ユージは、勝負の時を迎えたようである。



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