第一話 ユージの妹サクラ、家を確かめに行く
「ににんがし、にさんがさん、にしがはち、にごじゅう、にろくじゅうに、にはちじゅうろく、にく、にく……おにく食べたい!」
「よーし、じゃあイノシシ肉を解凍するか。お昼はステーキだ! あとアリス、にくじゅうはち、な。お肉が食べたいからってわざとだろー」
えへへ、とはにかむアリスをぐりぐりなでまわすユージ。義妹に激甘である。
もうしかたないふたりなんだから、という目で見ながらコタローも許容している。
頼れる愛犬も、妹分には甘いようである。
アリスの教育は大丈夫か。
プルルルルルップルルルルッ!
リビングに鳴り響く呼び出し音。電話である。
そう、ネットはもちろん、電話も通じるようなのだ。
ただし……
「はい、北条です。……またか。やっぱりキュルキュル変な音しか聞こえないんだよなあ。これたぶん日本からかかってる電話なんだろうなあ……」
そう、電話はかけてもかかってきても、まるでテープを早回ししたかのようなキュルキュルという擦過音しか聞こえないのだ。
「テレビも電波拾わないしなあ……。家がこっちにあって、日本の家はどうなってるんだろうか。妹に連絡とろうにも、メールアドレス知らないしなあ……はあ」
□ □ ■ ■ □ ■ ■ □ □
「着いたー! 12時間も狭い空間の中とかホント拷問よね。そして日本さむっ!」
成田国際空港に降り立ったのは、ユージの実の妹 サクラ・フローレス、旧姓 北条サクラである。
まずはレンタカーよね、でも今からじゃ陽があるうちに着かないなーなどとブツブツ呟きながらカウンターへ向かうサクラ。
独り言の声の大きさは兄ゆずりなようである。
「宇都宮でしたら、圏央道が開通してますから二時間ほどで行けると思いますよ。大栄から圏央道に乗っていただいて、久喜白岡JCTで東北自動車道に乗継ぎできるようになりました」
「おー、私がアメリカ行ってる間に繋がったんだ圏央道。教えてくれてありがとうお姉さん!」
左側通行だから気をつけなきゃなーとまた独り言を言いながら、一路、北条家へ向かうサクラであった。
「なんじゃこりゃー!!!」
松田○作ではない。
サクラが北条家のある場所にたどり着いた時、待っていたのは空き地であった。
家がない。
門もない。
それどころか家を囲う生垣もない。
北条家があった場所は、ぽっかりと周りの地面から50cmほど低くなったただの空き地になっていた。
「え、ほんと、ナニコレ。お兄ちゃん、引っ越ししたのかな。いや、私が場所を間違えてるのかな。そうよね、アハハハハ」
とりあえず、だいぶ離れてるけどお隣の藤原さんのところに行ってみよう。明かりついてるし、おじさんかおばさんか誰かいるでしょ、でもホントにあそこに藤原さんがいたらウチはどうなっちゃったの。
ブツブツと呟きながら、300メートルほど離れたお隣さんの家へ歩いて向かうサクラ。車があるのに。
錯乱しているようである。
そして。
お隣は、藤原さんであった。
北条家は、元の場所からなくなっていた。
「あ……今日泊まるところないや」
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