後日談3 マイの日記帳

・○月○日

 私たちがこの村に来てから数日が経った。今のこの日々の事を忘れない為に私は今日から日記を書く事にした。どんな些細な事でも、どんなに小さな事でも日記に書くつもりだ。


・○月△日

 この村で暮らし始めてから五日が過ぎた。この村の人たちは全員優しくて、今の私はとっても幸せだ。だけど、自分がこんなに幸せでいいのだろうか、と私は思ってしまう時がある。実はまだ私はあの牢屋に閉じ込められていて、現実を忘れる為にありえない幻を見ているのではないか、そんな風に考えてしまう時がある。

 あの地獄の様な毎日の事を忘れる為には時間が掛かりそうだ。


・○月×日

 今日、昔の事を夢で見た。あの人に救われる前、あの牢屋に閉じ込められていた時の夢だ。

 朝起きた時、私はあれが夢で本当によかったと安堵した。だけど、寝汗がびっしょりと出ていたみたいで、隣で寝ていた友達にとても心配された。

 この村で過ごし始めてからもう十日以上が経ったけど、今でもまだあの日々の事を忘れられそうにない。


・×月○日

 今日の朝の事だ。何者かによって村の作物が荒らされていた。痕跡から恐らくは野生動物の仕業だろう、と村の人達は言っていた。また、村の人たちは、このままではまた荒らされてしまうかもしれないとも言っている。だけど、この村には野生動物を退治できるような若い男の人は居ない。だから、明日は大きな街まで出て若い男の人達にこの村に来てもらう事が決まった。ついでに、今回荒らされた分の食べ物も街で買う事になったので、私たちも村の人達と一緒に街に行くつもりだ。


・×月△日

 今日はこれから街に出かける。この日記は村に置いていくつもりなので、帰ってくるまでは日記を書けない。帰ってきたらこの日記に街での出来事を書くつもりだ。


・×月×日

 昨日はとっても幸せな出来事があった。買い物に出かけたあの街であの人と偶然再会したのだ!!


 昨日のお昼頃、街で買い物をしていた時、私はあの人の姿を偶然見かけたのだ。その姿を見た私達はあの人の事を必死に追いかけた。そして、私たちはあの人との再会を果たす事が出来たのだ。

 再会したあの人に私たちがこの村で幸せに暮らしていると言うと、あの人はまるで自分の事のように喜んでくれた。

 その後、私はあの人からは色々な事を聞かされた。自分が何者なのか、今迄何をしていたのか、自分がどれ程の罪を犯してしまったのか、それらを語るあの人の姿は私には自らの罪を懺悔する罪人の様にも見えた。

 そして、全てを話し終えたあの人は私たちの元から去ろうとした。その時、私は無意識の内にあの人に抱き着いていた。あの人は自らの死を望んでいる、もしここであの人を止めなければ、私はもう二度とあの人に会えない、私たちの元から去ろうとしたあの人の目を見たその瞬間にそう感じてしまったからだ。

 すると、あの人は言った。自分は罪深い存在なのだと、自らが犯した罪を清算しなければならないのだと。

 でも、私はあの人に生きていてほしかった。あの人かどれほど多く人から恨まれていたとしても、あの人がどれほどの大罪を犯した罪人であったとしても、私たちはあの人に救われた。そこに嘘偽りは無い。だからこそ、私たちはあの人に死んでほしくなかったのだ。

 その想いを言葉にすると、あの人はまるで全てを吐き出すかのように泣き出してしまった。私たちに出来たのはあの人の事をそっと受け止める事だけだった。

 その後、この村で一緒に暮らしてほしい、とあの人にお願いすると、あの人は嬉しそうに私の言葉に頷いてくれた。今日からあの人もこの村で一緒に暮らす事になる。あの人と一緒に暮らせるなんて、これほど嬉しい事は無い。私は本当に幸せだ。


・△月○日

 あの人がこの村に来てから数日が経った。村の人たちはあの人の事を快く受け入れてくれた。あの人はすごい魔術の使い手でこの村で作物を荒らしていた野生動物を一瞬にして退治していた。あの人は本当に凄い人だ。

 あの人は本当に凄い人なのにとても優しい人でもあった。あの人にそっと頭を撫でてもらうと、それだけでも私はとっても幸せな気分になれる。私は本当に本当に幸せだ。


・△月△日

 朝、あの人を起こしに行った時の事だった。あの人が何かつらい事に耐えている様な表情を浮かべているのを私は見てしまったのだ。だけど、それは本当に一瞬の事でわたしの顔を見ると、すぐに笑顔を浮かべていた。

 あの人の辛そうな顔を見ると私は悲しくなってしまう。でも、あの人は私達の前でそれを表に出す事は無い。私たちに心配を掛けさせたくないのだろう。

 私たちはあの人に救われたのに、私たちではあの人の力になる事が出来ない。その事に私はどうしても無力感を覚えてしまう。

 だから、私はあの人に力になりたいと言った。すると、あの人は私達が傍にいてくれるだけでいい、と言ってくれた。たったそれだけでも私には十分だ、と。

 その言葉はあの人が本当にそう望んでいるように私には聞こえた。だから、その時に私は決心した。私はあの人から決して離れない、ずっとあの人のそばにいると。


 ――――だから、だから最後まであなたの傍にいさせてください、アメリア様。

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婚約破棄を告げられ、処刑されかけた悪役令嬢は復讐令嬢になりました ~古代魔術で裏切り者達を断罪する復讐劇~ YUU @YUU9321

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