最終章
122 最終章プロローグ
時はアメリアがあの招待状を受け取る前にまで遡る。
その日、エルクート王国の次期国王であるヴァイス・エルクートは王城にある自身の執務室にて待ち人が来るのを待っていた。
「さて、そろそろ時間だな……」
ヴァイスがそう呟いた直後の事だった。突如、彼の目の前に一人の老人が転移して来たのだ。そう、彼こそがヴァイスが来るのを待っていた人物であった。
そして、その老人は彼の前に現れた直後、ヴァイスに向かって恭しく頭を下げる。
「数日振りですな、ヴァイス・エルクート次期国王陛下」
そして、その老人はそんな事を言いながらも、ヴァイスと向かい合う様におもむろに執務室に置かれているソファーへと腰掛けた。
「では、約束通り、あの時の返事を聞かせて頂きましょうか」
「カーンズよ。お前の欲する物はあの女の遺体、だったな」
「ええ、出来る事ならば、生きたまま確保したいのですが。まぁ、それは欲張り過ぎというものでしょう。
どうなさいますか? 私に協力していただくか、否か、その返事を聞かせて頂きましょう」
ヴァイスにカーンズと呼ばれたその老人はそう問いかけるが、既に彼の答えは決まっていた。
「いいだろう。お前の提示した条件を飲もう」
「では、取引成立という事でよろしいですかな?」
「ああ」
そして、ここに二人の密約は交わされた。
「だが、どうするつもりだ? お前には何か策があるのか?」
「ええ、勿論。その策の為に用意しているモノもございます」
「用意しているモノ、だと?」
「はい」
「なんだ、それは?」
「それに関しては、今は準備段階の為にまだ言う事は出来ませぬ」
「……私はお前に協力する事を約束したのだ。だというのに、お前は手の内を晒さないというのは不平等ではないか。お前も少しは手の内を明かしてくれてもいいのではないか?」
ヴァイスのそんな言葉にカーンズは少し悩んだような仕草を見せた。そして、それから少しすると、彼の中で何か答えが出たのか、おもむろに顔を上げる。
「……いいでしょう。本来ならば、もう少し後にするつもりだったのですが、ここで殿下に例のモノを見せても問題が起きる事はないでしょう。殿下には我が手の内を明かす事に致しましょうか」
そして、カーンズはそう言うとおもむろに立ち上がり、ソファーに立て掛けていた杖を手に取り、そのまま床に杖を一突きする。
すると、その次の瞬間、二人の姿はこの執務室から消えたのだった。
彼等が執務室から姿を消した直後、ヴァイスとカーンズの二人の姿は先程までいた王城の執務室からは遠く離れた場所にあった。
だが、当のヴァイスは転移した直後、その先にあった異様な光景に思わず呆然とする。
「なんだ……ここは……」
ヴァイスがカーンズの転移魔術で辿り着いたこの場所には至る所に何らかの実験に使うのであろうと思われる数多の器具が置かれていたのだ。また、この場所に置かれている器具の殆どは何かしらの動きをしており、今現在も何かの実験を行っているのだという事が容易に想像できる。
この場所を一言で表すならば、実験室や研究室という表現が適切であろうとヴァイスは感じていた。
「ようこそ、我が研究室へ。ここに私以外の誰かを招き入れるのは数十年前振り、いや百数十年振りといった所でしょうか」
そう、ヴァイスの感じた印象通り、ここはカーンズの研究室であったのだ。
だが、ここでカーンズが行っているであろう研究が一体何を目的とした物なのか、ヴァイスには想像もつかない。彼に唯一分かる事は、この場所で行われているそれらの実験の数々があまりにも高度な物ばかりであるという事だけだろう。
「さて、例の物があるのはこちらですぞ」
そして、この研究室の主であるカーンズに案内されるまま、ヴァイスは例の物があるというこの研究室の奥にある一室へと向かっていく。
「さぁ、この中に例の物があります。どうぞ、お先に中へとお入りください」
「……分かった」
カーンズの言葉に従う様にその部屋の中に入っていく。
「なっ、なぁっ!?」
だが、その直後の事だった。部屋の中に入ったヴァイスがその部屋の中央に安置されていた物を見た瞬間、驚愕の表情を浮かべたのだ。
そして、その直後、彼は慌ててその視線を自らの後方にいるカーンズへと向ける。
「どっ、どういう事だ!? 何故、これがここにあるのだ!?」
ヴァイスがそう叫ぶのも当然だろう。部屋の中央に安置されていたそれらのモノが、既に処分されていると思っていたモノだったのだから。
しかし、彼もヴァイスのそんな言葉を予想していたのか、ヴァイスの言葉に対して冷静に返事を返す。
「ひひひっ、我が研究に使う為に、と思いましてな。処分される前にあらかじめ確保していたのですよ」
「なん、だと……」
「ああ、一応言っておきますが、貴方達が処分したと思っているアレは私が用意した偽物だったりします。まぁ、貴方が処分を任せた者達も、アレが私の用意した偽物だという事には全く気が付かないでしょうがね」
「なっ……」
カーンズの言葉を聞いたヴァイスは思わず驚愕する。あの時に処分させた筈のあれらが偽物だったとは全く想像すらしていなかったからだ。
だが、自分の傍にいるこの男が何者か、それを考えればあれらのモノが偽物とすり替わっていたとしても不思議ではないだろう。
「……で、先程言っていた策とは、これを使ったものなのか?」
「ええ。これならば、あのアメリアという女性に対して大きな動揺を与える事が出来るでしょう?」
「ああ、そうであろうな」
「そして、これらには、とある細工を施します。これで確実にかの者を亡き者へと変える事が出来るでしょう」
「細工、だと?」
「ええ」
すると、カーンズはこれらのモノに施す細工の内容も含めた、自らが用意した策の全容を喜々として話し始めたのだ。
そして、それらの話を聞き終えたヴァイスは納得の表情を浮かべる。
「……なるほど、確かにそれならば、目の前にあるこれらを使えば確実にあの女を亡き者に出来るな」
「ええ、そうでしょうな」
自らの策に絶対の自信を持っているのか、ヴァイスのそんな言葉を聞いたカーンズは満足げな笑みを浮かべる。
「すると、残るはあの女をこちら側の用意した舞台へと誘い出す方法だけ、か」
「それについても考えがあります。ですので、殿下には一つ用意して頂きたい物がございます」
「用意して欲しい物、だと?」
「ええ、それは……」
そして、二人の話し合いは続いていくのだった。
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