117 『宝探しゲーム』②
この『宝探しゲーム』でジグムントが初めてのハズレの金貨を見つけ出してから早一時間が経過していた。金貨の反応を頼りに森を進んでいたジグムントがいるこの場所はこの森の中でも特に草木が生い茂る場所であった。
「くそっ、邪魔だっ!!」
足元に生える草木が邪魔で思うように動けない事に対してジグムントは苛立ちを隠せない。足元に生い茂る草木の高さはどれも彼の足の関節部までの高さがあるのだから動きづらいのも当然だろう。それでも、金貨の反応が唯一の手掛かりであるこの現状ではその反応を頼りに進むしか道は無い。
そして、ジグムントが生い茂る草木を必死に掻き分けて進み続けると、目の前に突如として草木が殆ど生えていない広場の様な場所が現れたのだ。また、その広場の中央部には大きな宝箱の様な物が置かれている。
「……あった」
その宝箱はこんな辺鄙な森には不釣り合いな程に豪華に飾り付けられており、いかにも中に何かが入っているだろうという外観をしていた。
あれもアメリアが設置したものであるのは間違いない。手元にある金貨もあれに反応している。だが、アタリかハズレか、あの中にどちらの金貨が入っているか、それは分からない。しかし、それでも自分が生き残る為には宝箱を開けなくてはならないだろう。
そして、その宝箱の元へと向かうべく足を踏み出した、その次の瞬間だった。
「ぐっ、がああああああああああああああああああああ!!!!」
突如として、カチッ、という音と共に彼の右足に正体不明の激痛が襲い掛かったのだ。その痛みに思わず地面へと跪き、慌てて自分の右足の足元を見る。すると、そこにあったのは所謂トラバサミと呼ばれる物であった。
周囲に多数の光源があるとはいえ、その光源が足元まで照らしてくれている訳では無い。草木が特に生い茂るこの辺り一帯では尚更だ。足元が不注意になりがちなこの場所においては最も適した罠といえよう。
また、そのトラバサミは彼の右足の足首に綺麗に食い込んでおり、その足首からは夥しい量の血が流れ出ている。
「ぐっ、ぐううぅぅ!!」
ジグムントは痛みに苦悶しながらも、慌てて足首に食い込むトラバサミを必死に外そうとするが、トラバサミはそんな簡単に外れる物ではない。
「ぐっ、ぐぐぐぐぐぐっ!!!!」
それでも、痛みを堪えながら力技で少しずつトラバサミを開けて必死の思いでトラバサミの罠から足を抜く。
「がはっ……」
だが、トラバサミから足を抜いた所で足の怪我が治る訳では無い。彼は思わず地面に倒れ込むが、それでも何とか気合で立ち上がる。
「ぐっ……」
治療を優先するか、それとも目の前にある宝箱を優先するか、数秒悩んだ彼は治療を後回しにして先に宝箱を開ける事を選択した。
それは、どうせここで治療をしてもあの宝箱の中身が外れだった場合、再び大怪我を負う事になるのだから、先に宝箱の方を確認した方がいい、治療はその後でも問題ないだろう、という彼なりの考えから来るものだった。
そして、怪我をした右足を引きずりながらもジグムントはすぐ傍にあったその宝箱に手を伸ばす。だが、彼がその宝箱に触れようとしたその次の瞬間だった。
「なっ……」
つい先程まで自分の目の前にあった筈の宝箱がまるで夢幻の様にその場から姿が消えたのだ。
そう、先程までジグムントが見ていた宝箱はアメリアが用意した幻影だったである。しかし、彼はそうとは知らず、まんまと幻だった宝箱に釣られ、足元に仕掛けられていたトラバサミに引っかかったのだ。
ジグムント自身も事ここに至ってトラバサミと幻だった宝箱の二つこそアメリアがこの場に仕掛けた罠だと分かったのだろう。アメリアに弄ばれている、そう感じたジグムントは屈辱から思わず苦虫を噛み潰した様な表情を浮かべる。
そして、地面へと膝をつき、そのまま先程のトラバサミで負った怪我の治療を始めた。
因みに、トラバサミの罠は宝箱を円で囲う様に多数配置されており、あの宝箱に近づく事があれば、確実に罠に引っかかる様になっていたりするのだが、そんな事など彼は知る由もない。
「くそっ……」
そして、それから十数分後、足の治療を終えたジグムントはアメリアに対して思わず悪態を零しながらも、再びトラバサミに引っかからない様に足元に注意を払い、森の探索を再開するのだった。
あれからも、金貨を探し出す為にジグムントは森の中を彷徨っていた。
だが、アメリアの仕掛けた無数の罠はそんな彼に対して容赦なく襲い掛かってきていた。ある時は右腕が炎に包まれ大火傷をしてしまう罠に遭遇し、またある時は深く掘られた落とし穴に落ちて左腕が複雑に骨折してしまう事もあった。中型の野生動物に襲われ左足を噛まれる事もあったりした。
その度にジグムントは大怪我を追っていたのだが、まるでアメリアが死なない様に手心を加えたかの様に即死級の罠に遭遇する事は無く、未だに彼はしぶとく生き残っていた。
だが、事ここに至っても未だ彼が森の探索を続けている事からも分かる通り、ジグムントは当たりの金貨を見つける事も出来ていなかったのである。
「くそっ、何処だ、何処にある……」
それでも、ジグムントは諦める事無く、必死に金貨を探して森の中を進み続けている。しかし、ゲーム開始時に比べると空がかなり明るくなってきている。日の出が近いのだろう。つまり、アメリアの指定した刻限が迫っているという事だ。
そして、それからも彼は森の探索を続け、日の出も直前というその時だった。
「っ、あった!! あったぞ!!」
運が良い事に、彼は刻限が間近というこのタイミングで森の中にポツンと置かれていた大きな木箱を見つけたのだ。間近に迫っている刻限の事を考えれば、これが最後のチャンスなのは間違いないだろう。
――――もう、あれに縋るしかない。
ジグムントはそんな思いを抱きながらも慌てて木箱の元へと駆け寄り、勢いよくその木箱を開ける。
だが、彼がその木箱を開けた次の瞬間だった。
――――バゴゴゴゴゴゴゴゴゴオオオオオオオオオオオン!!!!!!!!
そんな大きな音と共に木箱の中に入っていた爆弾らしきものが大爆発を起こしたのだ。
その爆発の規模はこのゲームの最初に彼が体験した偽物の金貨が起こしたあの爆発の比ではなかった。爆発の爆風を至近距離で一身に受けたジグムントが吹き飛ばされ、後方にあった木へと背中から叩き付けられている事からも爆発の威力がどれ程の物だったかが分かるだろう。
そして、その爆発の威力の強さを表すかの様に彼の全身は見るも無残な有様になっており、爆発の影響で粉々に吹き飛んだ木箱の無数の破片が彼の体の至る所に突き刺さっている。
「あっ、がああああああああああああああああああああああああああ!!!!」
何も知らない者が見たら思わず目を背けたくなる様な有り様のジグムントは全身に走る極度の痛みで最早立つ事すらままならず、そのまま地面に倒れ込み、痛みで悶え苦しむ。
また、こんな状態になっている今の彼が唯一縋れるであろうアメリアから与えられた金貨だが、それも先程の爆発の衝撃で手元から離してしまい、そのまま爆風に煽られて何処か遠くへと飛んで行ってしまった為にその金貨の治癒の恩恵も受けられない。
「ぐっ……、ががががががががっ……」
あまりの痛みに気絶する事も出来ない彼は痛みを堪える為に地面に対して必死に爪を立てるが、焼け石に水でしかない。
すると、その直後の事だった。アメリアがジグムントの元へと転移して現れたのだ。
「ふふっ、本当に貴方は運が悪いのですね。まさか、最後の最後で一番の大外れを引くなんて、想像もしていませんでしたよ」
そして、アメリアは膝を曲げてしゃがみ込み、地面へと倒れ込んでいるジグムントを見下しながら、クスクスと嗤う。
「ぐぅぅぅ、ア、アメリアァァァ!!」
自分の事を見下すアメリアの姿を見たジグムントは屈辱から全身に今も走る痛みを一瞬だけ忘れ、彼女を睨みつけるが、ボロボロの体になり、動く事もままならないだろう彼にはそれ以上の事が出来る筈も無いだろう。
「さて、と。では、日も昇った事ですし、今この時を以ってゲーム終了といたしましょうか」
そして、アメリアはおもむろに立ち上がりクスリと笑みを浮かべた直後、ゲーム終了という無情な宣告をジグムントへと告げるのだった。
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