116 『宝探しゲーム』①

 この『宝探しゲーム』が始まってから数十分後、ジグムントはアメリアから与えられた金貨の探知の効果を使いながら森を彷徨っていた。


「何処だ、何処にある……」


 彼はゲーム開始時にアメリアより与えられた金貨の探知の機能を使い、必死にこの『宝探しゲーム』の『宝』を探すが、金貨の反応は今迄と殆ど変わらない。この森は中規模の街とほぼ同サイズ、或いはそれよりも少し大きいほどの広さがあるのだ。幾ら、金貨に他の金貨を探す為の機能があったとしても、すぐに反応が出る訳がないだろう。

 しかし、それでもジグムントは目的の物を見つける為に森の中を歩みながら手に持っている金貨を四方八方へと向ける。


「こっちか……? いや、こちら側、か?」


 そして、森の奥まで入り込んだ彼が金貨をある方角へと向けた時だった。その瞬間、今迄一定間隔でしか点滅しなかった金貨の反応がほんの少しだけ増したのだ。


「……来たか!!」


 金貨の反応が強くなった事でジグムントは思わず口元に笑みを浮かべる。そして、その反応を頼りに、より反応が強い場所を手探りで探しながらも必死に森の中を探索する。


 そして、それから数十分後、彼は金貨の反応に導かれるままに、森の中にあるとある茂みの前に到着していた。

 金貨の反応もこの茂みがより一層強くなっている。この茂みの奥に目的の物があるのは間違いないだろう。


「ここだな……」


 そして、ジグムントがそう呟きながらその茂みを掻き分けると、そこにあったのは手の平サイズの小奇麗な小箱だった。


「っ、間違いない、これか……」


 その小箱は森の中に生い茂る草木の中に上手く隠されていた為、普通に探していれば見つける事はまず不可能だっただろう。

 また、右手にある金貨の反応もこの小箱に一番強い反応を示している。この小箱の中に目的の物があるのは間違いない。

 そして、ジグムントはその茂みの奥にある小箱を手に取り、その箱を開け、中にあった物を目にした瞬間、思わず笑みを浮かべる。


「見つけた、見つけたぞ!!」


 その箱の中に入っていたのはゲーム開始時に与えられたあの金貨にそっくりの金貨だったのだ。これが、アメリアの言っていた『宝探しゲーム』の『宝』なのだろう。

 そして、彼はその箱の中に入っていた金貨を取り出すと、まるで誰かに見せびらかす様に天へと掲げる。


「……はっ、はははははは!! あははははは!! どうだ、アメリア!! あははは!! ははははははは……」


 だが、金貨を掲げた事でその金貨の裏面が見えたジグムントは妙な違和感を抱いた。


「……待て。この金貨、裏面の刻印が少しだけ違う様な……」


 そして、彼が手元にある二つの金貨の裏面を見比べようとしたその直後の事だっただった。先程、彼が見つけ出した金貨が突如として激しい光を放ち始めたのだ。


「なっ、なんだ!?」


 その激しい輝きを見て嫌な予感が脳裏を過ったジグムントは急いでその金貨を手放すが、時既に遅し。


 ――――バゴゴゴゴオオン!!


 彼が金貨を手放したその次の瞬間、そんな音と共に手放した金貨が爆発を起こしたのである。


「あっ、がああああああああああああああ!!!!」


 金貨の小ささ故か、爆発の規模はそれほど大きくは無く、彼が咄嗟に右腕で身体を庇った為か、ジグムントの体には大きな傷は見られない。

 だが、その分、爆発の衝撃を一手に引き受けたであろう右腕はもう見るも無残な状態になっていた。

 右腕に走る今迄の人生で味わった事の無い激しい痛みに彼は思わず絶叫を上げる。


「なっ、なんだこれはああああああああ!!!!」


 何が起きたのかを理解できず、右腕の痛みを少しでも紛らわせる為にジグムントは必死に叫ぶ事しかできない。

 すると、その直後、何処からともなくアメリアの声が森全体に反響するかのように聞こえてくる。


「ふふっ、残念、ハズレを引いてしまったようですね」

「っ、アメリア!! ハズレとはどういう意味だ!?」 

「先程、このゲームは『宝探しゲーム』だと言った筈です。 ならば、森の中に隠されている金貨の中にはハズレの物があるのも当然でしょう?」

「だっ、だったら今のは一体なんだというのだ!?」

「それは、ハズレの金貨を見つけてしまった者への一種の罰ですね」

「なん、だと!?」

「ゲーム開始時にも言った筈ですよね? このゲームは甘いものではない、と」


 そう、この『宝探しゲーム』は森の中から目的の金貨を見つけるというだけの簡単なゲームでは無い。この森の中には彼を追い込むための仕掛けが随所に仕掛けられているのだ。


「ですが、その傷ではこの森の中から金貨を探すのも少し難しいでしょう? ですので、救済措置を一つ用意してあります。ゲームの開始時に差し上げた金貨を傷口へと当ててください」


 アメリアのその言葉にジグムントは慌てて左手に持っていた金貨を右腕の中でも傷が深い部分へと押し当てた。

 すると、その直後、金貨が輝きだしたかと思うと、その光は右腕全体を覆うように広がっていく。そして、その光に触れている部分にあった数多の傷が少しずつだが元の状態へと戻っていった。


「これ、は……?」

「それは、その金貨に付与してあるもう一つの効果です。その金貨には傷口に当てるだけでその傷がある程度は治るという便利な回復効果が付与されています。今の貴方のその怪我程度ならば十数分程度で完治するかと思いますよ」


 そして、アメリアの言葉通り、回復が始まってから十数分後には先程の爆発で出来た怪我はある程度回復し、右腕も問題なく動かせるようになっていた。


「ぐっ……」


 それでも、先程までの痛みが完全に引いた訳では無い。また、今も右腕に少しだけ残る怪我の痛みにジグムントは思わず顔を歪める。


「ふふっ、どうやら、先程の怪我は完治したようですね。さぁ、ゲームはまだ始まったばかりですよ。この森の中にはまだ沢山の仕掛けが用意してあります。是非、最後までお楽しみくださいな」


 そして、その言葉を最後にアメリアの声は聞こえなった。


「くっ、くそっ……」


 アメリアの声が聞こえなくなると、ジグムントは思わず苦虫を噛み潰した様な表情を浮かべる。だが、ジグムントはアメリアに生殺与奪の一切を握られている。

 結局の所、彼に残されている選択肢はゲームを続行する事しか存在しないのだ。


 そして、ジグムントは数多の罠が仕掛けられているこの森を再び彷徨い始めるのだった。

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