115 ゲームの始まり

「では、ネタバラシも終わった事ですし、今宵のゲームを始めましょうか」


 アメリアは今宵の復讐の舞台に置いてのゲームの始まりを宣言する。


「さて、まずはゲームの舞台を整える事にしましょう」


 そう言いながらアメリアはおもむろに右手を横に一度振う。すると、次の瞬間、二人のいる場所のすぐ傍に広がっている森の中の至る所に小さな無数の淡い光を放つ光球が現れた。その光球が光源となる事でこんな真夜中だというのにこの森の辺り一帯がハッキリと見渡せるようになっている。


「さて、次は……」


 すると、アメリア次に懐から硬貨の様な物を取り出すと、それをジグムントに向かって放り投げた。

 それを見た彼は思わずその硬貨の様な物を受け止める。だが、アメリアから投げ渡されたその硬貨の様な物を一見したジグムントはその顔に思わず疑問符を浮かべた。


「……これは、なんだ?」


 それは複雑な刻印が刻まれただけの只の金貨の様な物だったからだ。ジグムントは何故アメリアがこんなものを自分に渡したのか、それが分からなかったのだ。

すると、アメリアは彼の疑問に答え始める。


「それは、これから始めるゲームに必要な道具であり、貴方の助けになるであろう道具です」

「……ゲーム、だと? それに、必要な道具だと? お前は一体何を言っているのだ!?」

「その辺りはこの後に始めるゲームの説明で分かりますよ。予め、一つだけ忠告しておくと、その金貨はこれから始まるゲームでは肌身離さず常に持っておく事をお勧めしますよ。

 さぁ、これで準備が整いました。早速、ゲームのルール説明を始めましょう」


 そして、アメリアは手をパンと叩き、不敵に微笑みながらゲームの説明を始める。


「さて、今宵のゲームですが、貴方にはこれからこの森の中に隠されているある物を探してもらいます。簡単に言うなら、所謂『宝探しゲーム』ですね」

「宝探しゲーム、だと? 何故、そんな子供の遊びの様な事を私がしなくてはならんのだ!?」

「……あら、そんな事を言ってもいいのですか?」


 怒りを露わにするジグムントに向けてアメリアはおもむろに右手の爪先を向ける。そして、彼女はその手をゆっくりと握り締めた。

 すると、次の瞬間、彼の首がまるで何かに締め付けられたかのように強烈な圧迫感に襲われる。


「がっ、がああああ!! いっ、一体何が起きているのだ!?」

「それは貴方の首元にあるその首輪が段々と締まっているのですよ」

「くっ、首輪だと!? いっ、何時の間にそんなものを!?」

「貴方が反抗的な態度を取るのも予想できましたので、つい先程、貴方の首元に首輪を転移させたのです。

 また、その首輪は私の行動一つで状態が変化します。首輪を締め付けるのも緩くするのも私の意思一つですよ。つまり、今の貴方の生殺与奪の権利は全て私が握っているのです」


 そして、アメリアが手を更に強く握り締めるような仕草を見せると、それに合わせるかのように首輪もドンドンと縮小していく。

 このままでは、ジグムントの首は千切れ飛んでしまうだろう。それを悟った彼は一瞬にして焦った表な表情へと変貌した。


「さて、貴方に残された選択肢は二つだけ。ここでゲームに参加せずに死ぬか、ゲームに参加するか、そのどちらかです」

「ああああ!! わ、分かった!! お前のそのゲームとやらに参加する!! だから、だからこの首輪をっ!!」


 そして、ジグムントがアメリアに助命を願うと、その直後、アメリアは溜め息をつきながら、先程まで握り締めていた右手を広げた。すると、それに合わせて彼の首を絞めつけていた首輪がゆっくりと緩んでいく。


「はぁ、はぁ、はぁ……」


 首輪の拘束が無くなった事でジグムントは息を荒くしながらも、なんとか平静を取り戻していた。そして、その一連の光景を見ていたアメリアは呆れた様な表情を浮かべるばかりだ。


「素直でよろしいですね。最初からそう答えておけば、余計な苦しみを味わう事も無かったでしょうに」

「ぐっ……」

「では、ルール説明を始めましょうか。

 今、私達の傍に広がっているこの森の中には先程、貴方に差し上げたその金貨と全く同じ金貨が一つだけ隠されています。

『宝探しゲーム』という名前の通り、その隠された金貨を見つける事が出来たら貴方の勝ち。

 ですが、私が指定したされた刻限までにその金貨を見つける事が出来なければ貴方の敗北となります。

 どうです? 子供でも分かる単純明快で分かり易い簡単なゲームでしょう?」


 確かに、アメリアの言葉通りならば、このゲームは子供でも分かる簡単なゲームだ。しかし、彼等の目の前に広がる森は広大だ。この中から一枚の金貨を探すというのはかなり無謀な話だろう。


「ですが、この広大な森の中から一枚の金貨を探せと言うのも流石に酷な話ですよね。ですので、特別サービスを用意しました。先程差し上げた金貨を掌の上へと置いてください」


 その言葉にジグムントは一度息を飲んだ後、彼はアメリアの言葉に従う様に懐から先程彼女から渡された金貨を手の平の上へと置いた。


「貴方が持っているその金貨ですが、それには二つ程の効果が付与してあります。まず、一つ目は目的となる金貨を探知する効果です。その金貨を右手で持ちながら、金貨を探す様に念じてください」


 ジグムントはアメリアの言葉の通りに、金貨を探す様に念じる。すると、彼が持っている金貨が淡い光で数度ほど点滅した。


「それには森の中にある金貨を見つける為の探知機能が備わっているのです。金貨の在り処が近くになればなるほど、その光は眩しくなり、点滅の頻度も増していきます。

 どうです? 便利な物でしょう?」


 アメリアの言う通り、この探知機能があればこの広大な森の中から一枚の金貨を探すという無理難題の難易度も一気に下がるだろう。


「そして、その金貨の二つ目の効果ですが……。まぁ、それは内緒にしておきましょうか。その硬貨が必要になった時に説明する事にしましょう」


 アメリアのその言葉に何やら不穏なものをジグムントは感じるが、彼女はそんなものはお構いなしといわんばかりに、ルール説明を続けていく。


「そして、ここからが一番重要な事なのですが、貴方がこのゲームに勝つ事が出来た時、つまりはこの森の中から金貨を見つけ出す事が出来た場合は貴方の事を見逃してあげましょう。また、今後も貴方に一切関わらない事もお約束いたしましょうか。

 どうですか? これでこのゲームに対してもやる気が出てきたのではないですか?」

「……私の事を見逃す、だと? お前の望みは復讐では無かったのか? こんな手の込んだ事までしておいて、私を見逃すというのか?」

「ええ。これは、いわば試練を踏破した挑戦者に対する褒美の様な物です。ですが、このゲームはそんな簡単に勝利できる様なそんな甘いものではありません。覚悟しておいたほうがよろしいかと思いますよ」


 アメリアのその言葉にジグムントは一瞬だけ嫌な予感が脳裏を過るが、先程の首輪の件もある以上、彼はこのゲームに参加せざるを得ない。

 また、ジグムントにしてみれば、半強制的に参加させられるとはいえ、ゲームに勝てば自分の事を見逃すとアメリアは言っていたのだ。そこに利はあれども、彼にとっての害はないだろう。


「最後にもう一つ。ゲームの敗北条件となる刻限は日が完全に沈んだ時までとしましょう。

 もし、日が完全に沈むまでにゲームの勝利条件である金貨を発見出来なかった場合、貴方にはこのゲームの敗者として私からの罰ゲームを受けてもらいます」

「罰、ゲーム……?」

「はい。ですが、その内容は内緒です。趣向を凝らした罰ゲームを用意しておりますので、ぜひ楽しみにしていてくださいませ。

 では、早速、ゲームを始めましょう」


 ゲームの開始を告げた直後、アメリアは勢い良く指を鳴らす。すると、次に瞬間には彼女の姿はこの場から消えていた。


 そして、一人この場に残されたジグムントは一度だけゴクリと息を飲み、ゲームの勝利条件となる金貨を見つける為にこの森の中を進んで行くのだった。

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