94 第五の復讐、その序章
「さぁ、此度の復讐の舞台の幕を上げましょう。これより、貴方の全てを奪って差し上げます」
アメリアはリチャードと向き合いながら高らかにそう宣言した。しかし、リチャードはアメリアが復讐だけを目的として行動している事を知っていたからこそ、その言葉に困惑を隠せない。
「復讐、だと? 私に復讐する事がお前の目的だと!?」
「ええ、私のお父様とお母様、そして私を守ってくれた使用人や護衛達、その全員が貴方の手によって殺められた人達です。私はそんな彼等の復讐の為にここまで来たのですよ」
「っ、あ、あれは全て命令だったのだ!! お前の父や母を処刑したのも、お前の言う使用人や護衛達を殺めたのも全て命令だったのだ!! お前が復讐するべき者達は私では無く私に命令を下した者だろう!?」
「……大切な人達を殺されて、唯一この世に残った私には『命令だった』なんていうそんな言い訳は関係ないのです。貴方は私のお父様とお母様、そして私を守ってくれていた使用人や護衛達をその手に掛けた。それだけで、復讐の動機としては十分でしょう?」
アメリアはそこまで言うと、リチャードが続けようとする反論を封じる様におもむろに立ち上がった。
「さて、と。貴方への復讐の第一段階として、まず貴方の誇りとなる物を奪いましょう」
「誇り、だと……?」
「ええ、その為の準備も既に用意しております」
そして、彼女は優雅に右手を横に振るう。すると、アメリアとリチャードの下に魔法陣が現れた。
「さて、では行きましょうか」
そして、アメリアは勢い良く指を鳴らす。すると、アメリアとリチャードの二人はアンダル砦から全く別の場所へと転移していた。
「っ、な、なにが……?」
アメリアが使った転移により、自分の目に映る周りの景色が突如として一変した事で、自分の身に何が起きたのか、状況に全く着いていけていないリチャードの困惑は今迄で最高潮なものになっている。
「こっ、ここは、一体……?」
そして、リチャードは困惑から辺りをキョロキョロと見渡すと、薄っすらとだが自分がどういった場所にいるのかを把握できた。
ここは、どうやら何処かの丘の上の様だ。
また、この丘の上はかなり見晴らしが良く、未だ地面に這い蹲っているリチャードでも辺り一面を見渡す事が出来る。
しかし、自分は今迄砦の屋上にいた筈だ。だというのに、どうして今自分はこんな場所にいるのか、とリチャードは困惑を隠せない。
そして、彼は全ての元凶であるアメリアへと顔を向ける。
「アメリア、貴様は一体何をしたのだ……?」
「ふふふっ、分かりませんか? 転移魔術です。それを使って貴方をここまで転移させたのですよ」
「転移魔術……。……そうか、そうだったのか」
アメリアの『転移魔術』という単語を聞いたリチャードは彼女がどうやってアンダル砦の屋上に一瞬で来ることが出来たのか、その理由を理解できた。
彼女は転移魔術を使い、砦の下から一瞬で砦の屋上まで転移したのだろう。
しかし、同時に何故アメリアが転移魔術などというものを扱えるのか、という疑問も浮かぶ。
そして、リチャードがその疑問を口にしようとした直前、アメリアはリチャードの方へと微笑みの表情を向けた。
「……っ」
だが、アメリアのそんな表情を見たリチャードは口にしようとしていた疑問を忘れて思わず息を飲む。
彼女が浮かべている微笑み、その裏にある彼女が今も抱えている狂おしい程の憎悪の念を彼は感じ取ってしまったのだ。
しかし、それは一瞬だけであり、次の瞬間には先程感じた憎悪の念は幻だったかの様に消え去っていた。
だからこそ、アメリアがあれ程の憎悪を抱えていながら、彼女が表面上は平静を保っている様にしか見えない事に対してリチャードは動揺を隠せない。
「さて、と。では、あちらをご覧ください」
リチャードのそんな内心の動揺を知ってか知らずか、アメリアはある方角を指差した。リチャードもそれに釣られる様にアメリアが指差している方角へと自分の顔を向ける。
「あれ、は……」
すると、彼女の指の先にあった物は彼にとって馴染み深い場所である城塞都市オーランデュであった。
しかし、彼の目に映る今の城塞都市では至る所で煙が上がっており、その煙は天高く舞い上がっている。
「な、なに、が……」
この丘の上からでは城塞都市に何が起きているのか、リチャードにはその詳細は殆ど見えない。しかし、天高く舞い上がる煙から城塞都市で何か尋常がない事が起きているという事だけは一目で分かった。
「ふふっ、ふふふふっ」
すると、リチャードの困惑が滑稽だったのか、アメリアは右手で口元を隠しながらクスクスと笑う。
「アメ、リア……?」
リチャードは思わず自分の隣にいるアメリアの方を向いた。そして、同時に今の城塞都市で起きている何かはアメリアが仕組んだ事ではないのか、という考えに至り、それを即座に口へと出した。
「アメリア、あれは貴様の仕業か!? 何をしたのだ、答えろ!!」
「まぁまぁ、そう慌てないでくださいな。その答えはすぐに分かりますから」
リチャードの怒鳴り声を軽く受け流したアメリアは何処からか懐中時計の様な物を取り出したかと思うと、その時計を見てクスリと笑みを浮かべながら口を開いた。
「さて、そろそろ時間ですね。さぁ、あちらをご覧ください」
そして、アメリアは城塞都市の中心部にある城を指差した。すると、その後、城の頂上に一本の巨大な旗が掲げられる。
しかし、リチャードはその旗に描かれている物を見た瞬間、あまりの驚愕から呆然とした表情を浮かべた。
「なっ、なぁっ!?」
そんなリチャードの表情が面白いのか、アメリアは口元を手で隠しながらクスクスと笑った。
「ふふっ、どうかしましたか?」
「なっ、何故城の上にあんなものがっ!? どうしてあの城の上にリンド王国の国旗が立っているというのだっ!?」
そう、城の頂上に掲げられた巨大な旗、その正体はリンド王国の国旗なのであった。
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