93 アメリアとリチャード
「ふふふっ、お久しぶりですね。さぁ、今より私の第五の復讐を始めましょう!!」
第五の復讐の始まりを宣言したアメリアはその視線を砦の屋上にいるリチャードへと向けた。彼女の表情には歪さすら感じさせる不敵な笑みが浮かんでいる。
「……っ」
アメリアの表情を見たリチャードは思わず息を飲んだ。そして、そんな不敵な笑みを浮かべる彼女は優雅に指を鳴らす様な動作をした。
そして、次の瞬間には彼女の姿はその場から消え去っていた。
「なっ、消えたっ!?」
つい先程まで自分の視界の内にいた筈のアメリアの姿がその場から消えた事でリチャードは困惑を隠せない。彼は慌ててアメリアの姿を探し始めた。
「何処だ、何処にいるっ!?」
しかし、リチャードが先程までアメリアがいた場所の周囲にどれだけ視界を巡らせても、アメリアの姿は一向に見つからない。それでも、リチャードは必死にアメリアの姿を探す。すると、突然、そんな彼の耳にアメリアの声が聞こえてきた。
「ふふっ、こちらですよ」
「っ!?」
アメリアの声が聞こえてきたのはリチャードの真後ろだ。アメリアの声が聞こえた彼は咄嗟に顔を後ろへと向ける。すると、そこには優雅に微笑むアメリアの姿があった。
「あれだけ離れていると碌に会話も出来ないので、こちらから出向かせていただきました」
「……なっ、なあっ!?」
突如として、自分の後ろにアメリアが現れた事でリチャードは狼狽を隠せなくなる。
「おっ、お前はあそこにいた筈だ!! 一体どうやってこの場所まで……」
そして、リチャードはそこまで言った直後、彼も参加していたあの王宮で開かれていた夜会の事を思い出した。
あの夜会の時も宣戦布告をした直後、あの場から忽然と消え去っていた筈だ。そこまでは思い至った。しかし、アメリアが一体何をしたのか、リチャードには全く見当がつかなかった。
だが、狼狽しているリチャードとは違い、彼の隣にいるロバートはアメリアに対して即座に反応していた。
「しっ、侵入者だ!!」
突然、自分達のすぐそばに現れたアメリアに対してロバートがそう叫ぶと、砦の中から数多の兵士が慌てた様子で現れる。すると、ロバートはその兵士たちに慌てて指示を出した。
「侵入者はあの女だ!! 奴を捕えろ!!」
「「「はっ!!」」」
そして、ロバートの指示を受けた彼等は侵入者であるアメリアを取り囲んでいく。アメリアにしてみれば、ここは敵陣のど真ん中だ。そんな中に一人で乗り込めばこうなるのも当然だろう。
今のアメリアの力を全く知らないロバートはこれで彼女の事を捕える事が出来るという確信を抱いていた。
しかし、当のアメリアには一切臆した様子は見られない。それどころか、表情一つ変える事無く、只々その表情には微笑みだけが浮かんでいる。
そう、今のアメリアにしてみれば自分を取り囲んでいる完全武装の兵士達であっても、只の有象無象と何ら変わりないのだ。
「邪魔です」
そして、アメリアはそう言った直後、手を横に振う。すると、ロバートやアメリアを取り囲んでいた兵士達は突如として激しい突風でも受けたかのように揃って吹き飛ばされた。
「なぁっ!?」
自分の身に何が起きたのか、状況が上手く呑み込めないロバートは困惑を隠せない。当のロバートは吹き飛ばされた勢いで屋上にある壁に背中から衝突している。
「な、何が……」
ロバートは辺りを見渡すが、そこにはアメリアの手によって吹き飛ばされた兵士たちが今も地面に這いつくばっている。その中には気を失っている者までいた。
また、この場に残っている兵士の数は先程よりも明らかに減っている。この場所は砦の屋上だった為、吹き飛ばされた兵士たちの一部が屋上から転落したのだろう。
そんな光景を目にした彼は慌てて体を起こそうとするが、何故か体は殆ど動かない。それどころか、無理に体を起こそうとすると体に激痛が走る始末だ。
「ぐっ……」
そう、壁に背中から激突した為か、ロバートは全身骨折のような症状に陥っていた。無理に体を動かそうとしても、体に激痛が走るだけだ。適切な治療を受けない限り、今の彼は体を動かす事すらままならないだろう。
そして、ロバートは完全に無力化したと判断したアメリアは改めてこの場にて唯一無事なリチャードへと向き直った。
「さて、と。これで無粋な邪魔者は全て黙らせました。復讐を始めましょうか」
アメリアはそう言いながら、優雅な足取りでリチャードへと近づいていく。それを見たリチャードは苦虫を噛み潰したような表情を浮かべた。
「くっ……」
すると、リチャードは自分の周りにいる倒れて気を失っている兵士達の一人から剣を奪ったかと思うと、その剣を構え、叫び声を上げながらもアメリアへと突貫する。
「うおおおおおおおおおおおおおお!!」
エルクート王国の第一騎士団長だけあってリチャードの構えは明らかに戦いに慣れた者の構えだった。
「無駄ですよ」
しかし、アメリアはリチャードのそんな突貫を一蹴するが如く、自身に向かって振り下されてくる剣の刃先へと優雅に手の平を向ける。
すると、彼が持っていた剣はアメリアの手の平に触れる直前、何故か彼の手元から消えてしまった。
「なぁっ!?」
つい先程まで自分の手の中にあった筈の剣が突如として消えるという、彼の人生において初めての経験から出た驚きにより、彼は不覚にも自分の体のバランスを崩してしまう。
そして、そのままアメリアはリチャードを躱す様に少し身を翻すと体のバランスを崩しているリチャードはそのまま地面へと倒れ込んでしまった。
「なっ、何が起きたのだっ!? アメリア、貴様の仕業か!?」
そう叫ぶリチャードの表情は困惑一色に染まっている。何がどうなっているのか、全く分からないと言わんばかりの表情だ。
「……はぁ、騒がしいですよ、少しだけ静かにしていてくださいな」
アメリアはそう言った直後、口からため息を漏らしながら、指を勢い良くパチンと鳴らす。
すると、地面に倒れ込んでいるリチャードはまるで自分の体が地面に縫い付けられたかの様に一切の身動きが取れなくなってしまった。
「ぐっ、ぐううううっ!! こっ、これも貴様の仕業かっ!?」
リチャードは地面を這い蹲り続けながらもその目に敵愾心と殺意を込めながら、アメリアを睨みつける。
だが、アメリアはそんなリチャードの敵愾心や殺気に臆する事もなく、飄々としていた。昔の令嬢時代のアメリアならいざ知らず、今のアメリアには第一騎士団長であるリチャードが放つ殺気であっても、脅威にすら値しないのだ。
そして、アメリアは今も地面に這い蹲り続けているリチャードの元へと優雅な足取りで歩み寄っていき、彼と向き合う様にしゃがみ込みながらおもむろに口を開いた。
「さぁ、此度の復讐の舞台の幕を上げましょう。これより、貴方の全てを奪って差し上げます」
そう告げるアメリアの口元は歪に歪んでいたのだった。
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