73 勝者と敗者
アメリアとヴィクトルのゲームは予想外の逆転など起きる筈も無くアメリアの勝利で呆気なく終わった。
勝利した事で満足げな笑みを浮かべているアメリアとは対照的に、ゲームに敗北したヴィクトルは呆然自失と言わんばかりの表情を浮かべている。
「さて、と。これで余興は終わりました。先刻言った通り、敗者である貴方には罰ゲームを受けてもらいます」
「罰ゲーム……」
「ええ、それがこのゲームのルールでしょう?」
「ふざっ、ふざけるなっ!! お前っ、最初から私が何処にいるのか把握していたな!?」
ヴィクトルのその言葉は正解だった。そもそも、彼が何処にいるのか、アメリアが把握していなければあれ程タイミング良く現れる事は出来ないだろう。だが、アメリアはヴィクトルからの指摘に動じる事は無い。
「ふふふっ、ええ、貴方の指摘通りですよ。私は最初から最後まで貴方が何処にいるのかを全て把握していました」
「ひっ、卑怯だぞ!?」
「卑怯? 一体何が卑怯なのですか? まさか、私が貴方をすぐに捕まえなかった事が卑怯だというつもりですか? 私はそんなルールを設けた事は一切ありませんよ? それに鬼ごっこにだってそんなルールは一切ありません」
アメリアの言葉はなに一つ間違ってはいない。鬼ごっこといっても追う方が逃げる方を早く捕まえなければならない、というルールは無いのだ。ルール違反をしていないアメリアが責められる謂れは一切ない。
それでも、ヴィクトルは「卑怯だっ、卑怯だっ!!」と喚き続ける。
だが、それを見ていたアメリアは呆れた様な表情を浮かべながらヴィクトルの喚きを無視して、自分の手の平をヴィクトルの額へと当てた。それを見たヴィクトルは思わず喚くのを止めて閉口しながら、これからアメリアが自分に何をするのかと戦々恐々とした様子を見せる。
「貴方には私からの罰ゲームを受けてもらうつもりですが、その前に一つやっておかなくてはならない事があります。これから、貴方の記憶を見せて貰いましょうか」
「記憶……? なにを……、なにをするつもりだ……?」
「いえ、ね。私は貴方のもう一つの罪についての確証が欲しいのです」
「確証、だと……?」
「その辺りは気にしないでください。早速始めましょうか」
そして、アメリアがヴィクトルに悟られぬ様に魔術を行使した次の瞬間、彼の頭には激しい痛みが走った。その痛みはアメリアがヴィクトルの記憶を覗いている事で発生する痛みである。
「あっ、があああああああああああああああああああああああああああっっっっ!!!!!」
あまりの痛みに、ヴィクトルは他の事を何も考える事が出来ずに、只々叫ぶ事しかできない。その叫び声にアメリアは少しだけ嫌な表情を浮かべた。流石に、鼓膜的によろしくはない為に大の大人の絶叫をこの超至近距離で聞きたくはないのだろう。
それでも、記憶を覗くこの作業では大の大人の絶叫を超至近距離で聞かなければならない事が前提となっている為、聞こえてくる絶叫を我慢する。
そして、アメリアは知るべき事を知る為に、聞こえてくる絶叫を堪えながらヴィクトルの記憶を漁り続けるのだった。
アメリアがヴィクトルの記憶を探り始めてから数十分後、彼女はヴィクトルの記憶から必要な情報を知る事が出来ていた。
「はぁ、やっぱり私の思った通りでしたか……」
そして、ヴィクトルの記憶から必要な情報を知った直後、アメリアは呆れた様にため息をついた。
アメリアが知りたかった事、それは彼女の親友だったマルティナの事だ。彼女が何故アメリアを裏切る様な真似をしたのか、それを知りたかったのだ。彼女がアメリアを裏切った理由、その一端がヴィクトルの記憶にはあった。
ヴィクトルの記憶には娘のマルティナにアメリアの事を切り捨てるようにと言っていた場面があったのだ。それが、彼女がアメリアを裏切った理由に繋がっているのだと、この時のアメリアは推測していた。
(まぁ、彼女が私を裏切った理由、他にもまだある様な気がしますが……)
また、そうも思うアメリアだったが、今はそれよりも重要な事がある。彼女には先に決着を着けなくてはならない事があるのだ。
そう、それは彼女の目の前にいる男、ヴィクトル・エステリア伯爵への断罪である。彼の記憶から知りたかった事の一部を知れた為、彼女はヴィクトルから手を離して、彼の記憶を漁るのを止めた。
「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ……」
一方のヴィクトルはアメリアが記憶を探る事で発生していた痛みから解放された事で、息を荒げながらも平静を取り戻そうとしていた。
「アメリア、一体、私に、何をした……?」
「先程も言ったでしょう。貴方の記憶を探らせてもらいました。先程まで貴方が感じていた痛みはその副作用といった所です」
「記憶を探る……? 副作用……?」
先程まで感じていた痛みの名残から頭を抱えていたヴィクトルにはアメリアの言葉の意味を正確に理解する事は出来なかった。それでも、彼は言葉を続ける。
「これが、お前の言う罰ゲームとやらか……?」
先程、彼の頭に走った痛みは想像を絶するものだった。それこそ、彼がその痛みをアメリアの言う罰ゲームだと勘違いしてもおかしくない程である。
だが、それを聞いたアメリアは呆れた様な、或いは愚かな者を見たかの様な複雑な表情を浮かべた。
「あはははっ、あれが罰ゲームですか? あの程度で、ですか?」
そう、ヴィクトルは根本的な勘違いをしていた。アメリアの罰がこんな程度で終わる筈がない。そもそも、あれは罰ゲームですらないのだ。
「あ、あの程度で……? な、何を言っているのだ?」
「そもそも、貴方への罰ゲームはまだ始まってすらいないのですよ?」
「……なん、だと……?」
「あの程度で? あの程度で罰ゲームだと勘違いしたのですか? あの程度で勘違いしてもらっては困ります。貴方にはこれから死より恐ろしい苦痛をこれから未来永劫味わってもらうのですから!! あはははっ、あはははははははははははははははははっ!!!!」
アメリアのその狂気が混じった様な言葉を聞いたヴィクトルは今更ながらにアメリアがその身に秘めていた狂気を本当の意味で感じ取ってしまった。
「あっ、ああああ……」
ヴィクトルはアメリアが抱えている全てを失い復讐に狂った者特有の狂気に怖気づいてしまう。それは顔にも表れ、ヴィクトルの表情は恐怖で歪んでいた。
そんな恐怖で怖気づくヴィクトルを横目に、アメリアは両手の手の平を合わせる様に、パンッ、と手を叩く。それが、アメリアがヴィクトルへの断罪を始める合図となった。彼の記憶から得られる情報を得た以上、アメリアにとってヴィクトルはもう用済みである。残すは彼に対する断罪を行うのみなのだ。
「さぁさぁさぁ!!!! ここからです!! 貴方への罰ゲームはここから始まりの時なのです!! さぁ、今こそ貴方が犯した罪、その断罪を始めましょう!!」
そして、遂にアメリアがヴィクトルへの断罪を執行する時が訪れるのだった。
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