60 見えた勝機
「ひいいいいいいいいいいいいいいぃぃぃぃぃ、嫌だ嫌だ嫌だああああああああぁぁぁぁぁ!!」
そんな声と共に自分達の仲間が喰われていく。これで怪物の餌食となった者は二人目だ。この光景は二度目だという事で一人目の時よりは、吐き気を催したりする者は少ない。
だが、それでも目の前で繰り広げられている光景は彼等の嫌悪感を煽るものだ。そんな彼等の嫌悪感など知る事も無い怪物は只管二人目の獲物をその腹へと収めていく。
「グギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!」
そして、二人目の肉を全て喰らった怪物は満足げな叫び声を再び上げた。だが、二人の人間をその腹に収めたというのに怪物の食欲は衰えることは無い。その鋭い視線は次なる獲物を見据えている。
「うっ……」
その視線を受けた彼等は一瞬だけ怯んでしまう。仲間が喰われているというのに、他の者達が動こうとしなかったのには理由がある。彼等の内心では怪物に立ち向かおうという気力は既に消え失せていたのだ。
その理由はただ一つ、彼等は怪物にどうやって勝利すればいいのか、それが分からなかった。
怪物の持つ能力の中で一番厄介なのはダメージを与えても瞬時に再生する程の回復能力だ。あの回復能力がある限り、彼等がいくら奮闘しても無駄に終わるだろう。
弱点の類があればいいのだが、怪物にそんな弱点は今の所見受けられない。更に言うならこの怪物はアメリアが用意したのだ。そもそも、目の前の怪物に弱点の類が存在するかどうかすら怪しいだろうと彼等は考えていた。
「どうやって、どうやって勝てばいいというのだ……?」
この場にいる誰かがそんな事を呟いた。そして、その呟きが聞こえたこの闘技場にいる者達の表情は一往にして絶望に染まっていく。
だが、そんな彼等の絶望に一筋の光明を齎す者がいた。
「いや、勝機はある」
そう言うのはこの場にいる者達のトップである教皇ネビルだ。その表情はこの場にいる他の者達と違い、絶望に染まってはいない。
「勝機、ですか?」
「ああ、そうだ。一瞬だけだが、あの怪物の腹に拳程の大きさがある美しく光る赤い宝玉の様な物が見えた。推測になるが、あの玉が怪物の核だろう。アレを壊すことが出来れば、奴は死ぬかもしれない」
怪物はその全身が禍々しい色に染まっている。だが、そんな怪物の腹に美しく光る宝玉が埋め込まれている事自体に違和感があるだろう。だからこそ、その宝玉の存在がネビルの目に留まったのだ。
ネビルはそこから、どうして怪物にそんなものが埋め込まれているのか、という疑問を抱いた。そして、そこから推測を進めれば、その宝玉の様な物が怪物の核となっている可能性に思い至る事も難しくは無い。
だが、ネビルのその推測に他の者達はすぐに賛同する事は出来なかった。更には、彼の推測に異を唱える者もいた。
「しかし、あれが怪物の核だという確証は何処にも……」
「そうです。その推測が的外れの可能性もあります……」
「……ならば、私の推測が正しいか間違っているか、それを知っている者に答えを聞けばいい」
そう言ってネビルはアメリアがいる観客席へと視線を向けた。そう、彼が言う答えを知っている者、それは怪物を用意したであろうアメリアの事だった。
彼の言葉はアメリアにも聞こえていたのだろう。観客席にいるアメリアはネビルの視線に対して露骨に嫌そうな表情をしている。そんなアメリアの表情を見たネビルは自分の推測が当たっている事を確信した。
「アメリア、あの宝玉が怪物の核なのだろう?」
「…………」
アメリアはネビルの言葉に無言を貫くが、それも彼の推測を補強する為の材料となる。
「そうか。やはり、私の推測は間違っていない様だ」
「……さて、それはどうでしょうか?」
アメリアはそう言ってネビルの推測に反論しようとするが、既にあの宝玉が怪物の核であるという確証を抱いたネビルからすれば、アメリアの言葉は苦し紛れに放った言葉の類にしか聞こえなかった。
そして、ネビルとアメリアのやり取りを聞いていた他の者達も勝機がある事を知った事で、その表情から絶望が消えていった。そんな彼等の最後の一押しをするべく、ネビルは口を開く。
「お前達も聞いていたな。怪物の腹にある宝玉を壊す事が出来れば、我々は勝つ事が出来るはずだ。行くぞっ!!」
「「「はっ!!」」」
そう言うと彼等は手に持った武器を構えて、怪物へと向かっていく。
「グギャアアアアアアアアアア!!」
そして、怪物も叫び声を上げながら、次なる獲物を食らうべく、彼等の元へと向かっていくのだった。
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