56 血塗れの闘技場
「さぁ、今回の演目のタイトルを発表いたしましょう!! 演目のタイトルは『血塗れの闘技場』です!! 今こそ、私の貴方達への復讐を始めましょう!!」
アメリアは自らの復讐の為に用意した舞台、『血塗れの闘技場』の始まりを高らかに告げる。だが、彼女のその言葉が何を意味しているのか分からないネビル達は困惑の表情を浮かべていた。
「血塗れの闘技場、だと?」
「ええ、闘技場という名の通り、貴方達にはこれからあの舞台で私が用意した敵と戦ってもらいます」
「……それでは、まるで……」
「はい、ご想像通り貴方達にはこれから剣闘士と同じ事をしてもらうのです」
剣闘士、それは闘技場で敵と戦い賞金を稼ぐ者達の総称だ。だが、彼等にしてみれば剣闘士という存在は戦う事でしか金を稼ぐことが出来ない自分達よりも劣る下賤な者達であった。自分達が観客として戦いを楽しむならまだしも、自分達が剣闘士として戦う事などは彼等にとっては屈辱でしかないだろう。
「闘技場、だと!? 我々が敵と戦うだと!? 私達が剣闘士の真似事をしろというのか!? ふざっ、ふざけるなああああああ!!」
案の定、ネビルと共にいた男達の内の一人が怒り狂った表情で懐から護身用と思われる短剣を取り出した。そして、その短剣を構えてアメリアの方へと走っていく。だが、アメリアは予想していたと言わんばかりで、動揺した様子を見せることは無い。それどころか、彼女は呆れた様な表情を浮かべて、「はぁ……」と溜め息をついたのだ。
その直後、アメリアが手を横に振うと、彼女に襲い掛かろうとしていた男が次の瞬間にはまるで何かに囚われたかのようにビクリとも動く事が出来なくなってしまっていた。
「はぁ、まだルール説明の途中ですよ。……いいでしょう、決めました。貴方は一番最初にサンプル、見せしめとして使ってあげます」
「うぐっ、これは一体どうなっているんだ!? 体が動かん!! アメリアっ、これはお前の仕業か!? 早く私を解放しろっ!!」
だが、アメリアは襲ってきた男の言葉を無視し、彼の方からネビル達のいる方へと向き直った。彼女の表情には何処か楽し気な笑みが浮かんでいる。
「さて、邪魔が入りましたが説明を再開しましょうか。これで、もし貴方達が私を殺そうとしても無駄だという事が分かってもらえたかと思います。ですが、これだけでは貴方達が私に感じる恐怖が足りないと思います。ですので……」
そして、その直後、アメリアが手を横に振うと、男の両腕がまるで鋭利な刃物で切り裂かれたかの様に切断されてしまったのだ。切断された両腕は地面にポトリという音を立てて落下し、その切断面からは絶え間なく血が流れ出続けていた。
「ぎゃあああああああああああああああああああああああああああ!!!! うっ、腕がっ、私の腕があああああああああああああああ!!!!」
男は両腕が突如として切断された事による痛みから絶叫を上げるが、アメリアはそれを無視するかのように、再びネビル達の方へと向き直る。
「ふふふっ、勿論これは手加減をしていますよ。私がその気になれば、貴方達全員の首を一瞬にして切り落とす事も簡単なのですから。
これで、貴方達の生殺与奪の権利が私にある事が分かってもらえたかと思います。貴方達が生き残る方法はただ一つ、先程の私の言葉に従い、これから私が用意した相手との戦いで生き残る事だけです」
アメリアの言葉にネビル達は思わず息を飲む。彼等は、自分達の生殺与奪の権利がアメリアの手にあるという事をこの時に初めて思い知った。
「ですが、どうせ貴方達の事です。戦わずに逃げて時間を稼ぐ、などという興醒めな事をしかねません。なので、もう一つ面白い仕掛けを用意しました」
そして、アメリアが指をパチンと鳴らすと、彼等の先にある中央の舞台を覆うような巨大な結界が展開された。
「今、あの場所に結界を張りました。あの結界は時間経過とともに少しずつ収束していくように仕掛けてあります。そして、もう一つ、あの結界には面白い仕掛けが用意してあります。早速実例をご覧に入れましょう」
そして、アメリアは先程両腕が切断された男の方を向き、彼に向けて手を横に振った。その瞬間、その男の体が突如として空中に浮き上がり始めたのだ。
「なっ、なんだっ!?」
その男は突如として浮き上がる自分の体に驚愕を隠すことが出来なかった。だが、彼が体をどう動かそうとも浮き上がり続けるのが止まらない。男には、自分がまるで何か強力な力で持ち上げられているかのように感じられた。彼の体がある程度、空中に浮き上がったかと思うとゆっくりとした速度で闘技場の中央の舞台へと移動していく。
そして、先程アメリアが張った結界の真上まで彼が移動した直後だった。男の体を持ち上げている力が突然消え去ったのだ。その直後、彼の体を支えていた力が消えた事で男の体が落下していく。そして、男の体が結界へと触れた直後だった。
「あがあああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!」
その様な絶叫と共に男の体は結界に触れた部分からまるで灰になるかの様に消滅していったのだ。その絶叫を観客席で見ていたネビル達は思わず息を飲んだ。彼等の額からは一往に冷や汗が流れ落ちている。
「先程ご覧になった通り、あの結界には触れた者を消滅させる力があります」
「なっ……」
「もし、戦わないというのなら貴方達はあの結界の餌食になるでしょう。貴方達には、相手を殺して自分が生き残るか、戦わずに逃げ回り縮小していく結界によって消滅するか、その二つしか選択肢はありません。
ですが、もし、貴方達がこれからの戦いで生き残る事が出来たのならば、貴方達を解放する事をここにお約束いたしましょう!!」
そして、アメリアはまるで舞台女優のように両手を広げて歪んだ笑みを浮かべた。
「さて、ルール説明も終わったので早速開始と行きましょうか。さぁ、貴方達の足掻きを私に見せてください!!」
そして、アメリアは勢い良く指を鳴らした。すると、次の瞬間、ネビル達の姿は消え去り、その直後には闘技場中央の舞台に現れていたのだった。
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