55 全ての真相

「……な、なにがっ……」


 ネビル達は自分達の足元に現れた魔法陣に気を取られた次の瞬間、何処かに無理矢理飛ばされる様な浮遊感を感じた。そして、その直後、彼等の目に映る周囲の光景は地下の脱出通路から一変していた。


「……っ、ここは……一体どこだ……?」


 彼等の目の前には、先程の脱出通路から一変、まるで闘技場を彷彿とさせる様な光景が広がっていたのだ。中央には戦いの為の舞台があり、その周囲にはまるで円を描く様に観客席が並んでいる。

 そして、彼等が今いる場所も闘技場のその観客席の一角であった。だが、当のネビル達は今混乱の極致にいた。先程まで、自分達は地下にある脱出通路の中にいた筈だ。だというのに、なぜ今自分達がこんな所にいるのか、彼等には全く分からなかったのだ。

 そんな時、彼等の後ろから女性のものと思われる声が聞こえてきた。


「ようこそ、皆様、私の用意した復讐の舞台へ」

「「「「「っ!?」」」」」


 彼等全員がその声に聞き覚えがあった。その声の主は先程彼等の前に現れた侍女メアリのものだ。

 ネビル達が慌ててその声が聞こえてきた方を向くと、そこには微笑みを浮かべながら佇むメアリの姿があった。


「っ、メアリっ、ここは何処だ!?」

「あはははっ、先程も言ったでしょう。ここは私が貴方達への復讐を果たす為に態々用意した舞台です」

「復讐、だと!? ……お前が只の侍女ではない事は分かっている。お前は一体何者だ!? 答えろ!!」


 ネビルは脱出通路でメアリの姿を見てからずっと抱いていたその疑問を彼女に向かって投げかけた。それを聞いたメアリは満足げな表情を浮かべる。


「では、ご要望にお応えいたしまして、そろそろ私の正体を明かしましょうか」


 その直後、メアリは自分の顔の半分を覆っていた髪を後ろへと払う。そして、現れたメアリの素顔を見たネビル達は驚きの表情を浮かべて声を出す事すら出来なかった。


「さて、これで私が誰か分かりましたよね」

「お前は……、アメリア・ユーティス……か?」

「ええ、その通りです。大正解ですよ」


 そう言いながらメアリ、いや、アメリアは拍手をする様に何度も手を叩いていた。


「メアリという偽名も私の名前を少し捩っただけです。分かり易かったでしょう?」

「……お前の目的は一体なんだ?」

「目的、とは?」

「そうだ!! どういった手段を使ったのか分からないが、私達をこんな所まで連れて来て、一体何をするつもりなのだ!!」


 だが、ネビルのその言葉を聞いたアメリアはその口元に歪な笑みを浮かべた。


「ふっ、ふふっ、ふふふふっ、目的、目的、ですか……。そんなもの一つしかありませんよ」

「なん……だと……?」

「私の目的は貴方達も知っての通りたった一つ、貴方達への復讐のみです。それだけです、それだけが私の目的なのです」


 アメリアの抱いている憎悪、ネビルはその一端を垣間見てしまった。直後、彼は慌てた声色でアメリアを制止しようとした。


「ま、まて!!」

「なんですか? 今更、命乞いのつもりですか? ……まぁ、いいでしょう。一応聞いてあげますよ」

「お前が私達に復讐するなどと言っている理由、それはあの魔女の一件が原因だろう!?」

「ええ、その通りですよ。それがどうかしましたか?」

「あ、あの一件は全てディラン・マルチーノ子爵が単独で仕組んだ事なのだ!! 我々はあの件には一切関与していない!!」

「ええ、全て知っています」

「な、なら……」

「私は全て知っていますよ。貴方達がそうやってあのディランという男に全ての罪を擦り付けようとしていた事も、ね」

「……っ!!」


 その瞬間、この場にいるアメリア以外の全ての者が思わず息を飲んだ。彼等の顔には、何故その事を、と言わんばかりの表情が浮かんでいたのだ。


「何故その事を、とでも思っているのでしょう?」

「……っ」

「私は貴方達全員があの一件に関わっていた事を知っているのです。あの一件に関わる全てがこれに書かれていますよ」


 そして、アメリアは何処からか取り出した書類をネビル達に向かって投げ捨てる様に放った。その書類はディランが隠し持っていたアメリアの魔女裁判の一件に関するすべての事が記された物だった。

 ネビル達は投げ捨てられた書類を拾い上げて、それを読み進めて行った。


「ほら、この書類には貴方達があの一件に関わっている事がハッキリと書かれていますよ?」

「……ど、何処でこんなものを手に入れたのだ!?」

「これらの証拠は貴方達が全ての罪を擦り付けようとしていたディランが隠し持っていた物です」

「なんだと……、……まさかディランが行方不明なのも、お前の仕業か!?」

「はい、その通り、大正解ですよ。あはははっ」


 それを聞いたネビルは思わず苦虫を噛み潰したかのような表情を浮かべた。無論、ネビル自身も当初はアメリアが関わっているのではないか、とは考えていた。だが、流石にそれは無いとその可能性をすぐに捨て去っていたのだ。


「あの男は良い物を隠し持っていてくれていましたよ。そのお陰で私はあの一件に関わった全ての者を知る事が出来たのですから」

「くっ!!」

「……後、もう一つだけ良い事を教えて差し上げます。私はディラン・マルチーノ子爵を殺した時、彼が持っていた教会の不祥事の証拠を全て頂いたのです」

「なん……だと……?」

「彼は、自衛のために教会の不祥事の証拠を手元に置いていた様ですね。先程の私の魔女裁判の一件が記された書類もその一端です。私はそれを手に入れた後、その殆どをアルバート司祭に渡しました。すると、それらの不祥事の数々に憤った彼等はすぐに一致団結して、その後、今のこの状況に至るという訳です。

 まぁ、貴方達に分かり易く言うのなら、貴方達が今恐れているアルバート司祭率いる反乱軍、それが動き出した発端は私という事ですね」

「なっ……」


 アメリアのその言葉にネビルは驚きの表情を浮かべた。しかし、ネビルの内心は、その表情とは違い怒りで溢れ返っていた。それは、なんてものを隠し持っていたのだ!? というディランに対しての怒りだった。

 だが、アメリアはそんなネビルの内心に構う事も無く言葉を続ける。


「反乱軍に追われた貴方達は再び返り咲く事を考えている様ですね。ですが、それは絶対に叶う事はありません。何故なら、貴方達はここで最期の時を迎えるからです!!」

「……っ!!」


 アメリアの狂気が混じった様なその言葉を聞いた瞬間、彼等の額からは冷や汗が流れ落ちる。直後、彼等は思わず息を飲んでいた。


「さて、長話やネタばらしもこれぐらいにしましょうか。

 さぁ、今回の演目のタイトルを発表いたしましょう!! 演目のタイトルは『血塗れの闘技場』です!! 今こそ、私の貴方達への復讐を始めましょう!!」


 そして、今ここにアメリアの告げた演目『血塗れの闘技場』、その幕が上がるのだった。

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