44 一つの復讐の終わり
「やめっ、あぐっ、痛っ!! やめろっ、やめろっ、やめろやめろやめろっ、あががががあああああああああああああああああ!!!!」
「「「「「きゃはっ、きゃははははははは、きゃははははははははははははははははは、あはははははははははははは!!!!」」」」」
少女達は、ただ只管にディランの体へと短剣を振るう。ディランの絶叫と少女達の嗤い声、ディランの体に短剣が突き刺さる音だけがこの地下室に響き渡る。だが、今の状況はディランのプライドを大きく傷付けていた。
(くそっ、くそっ、子爵位を持つ私に平民のお前達がこんな事をするなど!!)
ディランは自分の中にある、私は貴族なのだ、というプライド故に頭の中でそんな傲慢な思考をしていた。そのプライド故に、平民である少女達が自分に剣を振るう事は、彼にとって到底耐えられない事だった。だが、鎖で縛られている彼には碌な抵抗は出来ない。やがて、そんな傲慢な思考も身体に走る痛みですぐに掻き消える。
そして、少女達はディランがそんな事を考えているなど知る由もなく、只々短剣を振り下していった。彼女達は、復讐を少しでも長く続けられるように致命傷となる部位を避けて、短剣を振るうが、ディランの体に増えていく刺し傷から流れ出る血はやがて彼を失血死へと導いていく。
「あ、ああ……」
そして、ディランの口からそんな呆然とした様な言葉が零れ、瞳から光が消えかけたその瞬間だった。
――――パチンッ!!
指を鳴らす様な音が聞こえたかと思うと、少女達の目の前にいたディランの体にあった筈の刺し傷は全てが消え去り、彼女達が短剣を振るう前の姿に戻っていたのだ。
「「「「「なっ……」」」」」
突如、ディランの体が元に戻った事に少女達とディラン本人が驚きの声を上げた。そうなると、彼の体が元に戻った原因は残る一人の仕業だろう。少女達が後ろを向くと、そこにいるアメリアは不敵な笑みを浮かべていた。
「この程度で終わらせませんよ。この子達が満足するまで貴方には死なれては困るのです」
そう、ディランを回復させたのは、少女達の後ろにいるアメリアだった。彼を回復させたのも全ては今短剣を振るう少女達の為だった。
人間の体は脆い。それこそ、心臓を刺されれば呆気なく死ぬだろうし、脳を刺されたとしてもそれは同様だ。或いは、人体に流れる血液が一定以上減っただけでも失血死をしてしまう。
だが、少女達はそんなものでは満足できないだろう。今迄、ディランが少女達に与えてきた痛苦の全てを合わせたならば、一度の死に至る程度の痛苦では到底足りないのだ。だからこそ、アメリアは少女達が満足するまで、ディランを回復させ続けるつもりだった。
「その男が死にかけたら、私が回復させるわ。だから、貴女達が満足するまで、その男に復讐なさい」
「「「「「……はいっ」」」」」
そして、少女達は完全に回復したディランに対して、再び何度も何度も短剣を振り下す。そのせいで、彼女達の体は血塗れだが、そんな些細な事など彼女達は最早気にしていない。
彼女達は自らの過去を拭い去る様に、或いは目の前の男の支配からの本当の意味での解放を希う様に、只々ディランに短剣を振り下し続けるのだった。
あれから、少女達は何度も何度も、それこそ数え切れない位に短剣を振り下していた。アメリアは、ディランの命が尽きかける直前で、彼を完全に回復させる。そして、回復したディランに少女達は再び短剣を振り下す。そんな事をもう数十回は行ってきた。
「た、頼む……。もう、もう殺してくれ……」
何度も何度も、それこそ十数回は死んでもおかしく無い様な刺殺の連続で、ディランの精神は完全に屈服し、途中からは自ら死を望む様に懇願をする様になっていた。だが、アメリアは容赦なく、死ぬ直前でディランを回復させるという事を続けている。彼女は、少女達が満足するまでこれを繰り返すつもりだった。
今も、ディランの体には無数の刺し傷があり、出血も酷い。このまま放っておけば間違いなく命を落とすだろうという所までの傷を負っている。これも何度目かは分からない位には行ってきた。
「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ……」
そして、そんなボロボロの状態のディランに短剣を振り下している、彼の周りにいる少女達の息は切れ切れになっていた。それも当然だ、あれから何度も何度も短剣を振り下していたのだ。体力に限界がきても、何もおかしくは無いだろう。
体力に限界が来た少女達は一人、また一人と最後に一度短剣を振り下して、短剣を手放して、ディランの元から離れてアメリアの元まで向かっていく。
「貴女達、もうこれで十分なのね?」
「は、はい……。もう十分、です」
「これで、満足です」
「そう、分かったわ」
そう告げる少女達の顔には復讐を遂げた復讐者特有の笑みが浮かんでいた。
そして、最後の一人が短剣を手放して、ディランの元から離れるのを確認したアメリアは少女達に向けて口を開いた。
「貴女達、ここから出た後は屋敷の外で待っていて頂戴。私はこの男にもう少しだけ用があるの。屋敷の中には今は誰もいないわ。見つかって再び捕まる事も無いから安心して」
「「「「「はいっ!!」」」」」
そして、少女達はアメリアの言葉に従い次々と地下室から出ていく。地下室に残ったのは体中がボロボロになったディランとアメリアだけだ。二人が残ってしばらくすると、アメリアがディランの元まで歩み寄っていく。
「さて、最後の仕上げと行きましょうか。ここからは私が貴方に罰を与えましょう」
「何を、何をするつもりだ……?」
「いえ、ね。この地下室は貴方の集大成なのですよね? ですので、貴方にはそれに相応しい最後を用意しました。貴方の集大成、その全てを壊しましょう!!」
アメリアはそう言うと一度指をパチンと鳴らした。
「では、ディラン・マルチーノ子爵。永遠に、永遠に、さようなら。あははははは、あはははははははっ!!」
そして、アメリアは嗤い声を上げながら、転移魔術を使って、地下室から脱出してしまった。
「……何だ!?」
その直後の事だった。ディランは地下室全体に大きな揺れを感じ取った。なにが起こっているのか、彼には分からず思わず困惑した様子で地下室を見渡した。
「一体何が起きているというのだ!?」
それはアメリアの起こした地震だ。彼女はこの屋敷に限定して巨大な地震を起こしたのだ。
その地震によって、石で出来た地下室の床や側壁に大きな罅が入っていく。この地下室ではアメリアの起こした地震には耐えられなかったのだ。
――――ピキッ、ピキピキッ!!
その音はこの地下室の崩壊する音、即ちディランの集大成であるこの場所が崩壊する音でもあった。
側壁だけにとどまらず天井の石壁に罅が入っていく。だが、鎖で縛られたままのディランでは逃げる事もままならない。ディランが思わず天井を見上げると天井に出来ていたその罅はやがて大きくなり、その直後、頭上にあった石壁が崩壊する。崩壊した石壁の欠片はディラン目掛けて一気に落下していった。
「あああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!」
――――ブチッ!!
そして、傷だらけでボロボロのディランの体は天井から降ってきた大きな石壁の欠片に押し潰され、やがては彼の集大成たるこの地下室諸共全てが崩壊し消え去るのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます