15 マーシア達への罰ゲーム③

 罰ゲームから少し後、マーシアとその取り巻き達は公爵邸の最初の部屋に眠る様にして横たわっていた。


「うっ、ここは……?」


 マーシアは目を覚ますと、体を起こして辺りを見渡した。そして、この部屋はゴミ廃棄場に送られる直前にいた部屋だという事に気が付いた。彼女の隣には、取り巻きであったエルザとマーシャの姿もある。そして、落ち着きを取り戻すと頭の中に大きな疑問が浮かび上がってきた。


「わたくしは、死んだはずでは……?」


 そう、マーシアは確かに一度死んだはずだった。自分でも不思議とそれが確かなものだという確証がある。

 また、彼女の中には今もあのゴミ廃棄場での生き地獄の記憶も鮮明に残っている。だからこそ、今自分が生きているのが不思議でならなかったのだ。


 そしてマーシアが呟いた直後、隣にいるエルザとマーシャが目を覚ました。


「私は自害した筈では……?」

「あの時マーシア様に刺されて……」


 二人にも話を聞いたが、二人共、死ぬ直前までの記憶しか残っていない様だった。そして、彼女達も自分が一度死んだという確証を抱いていた。だが、何故生きているのかは分からないという。結局、何故彼女達が今も生きているかは現状不明だった。


 その後、今の自分達の状態を確認しようとした彼女達は呆然とした表情を浮かべる事になった。


「えっ……?」


 何故なら、ボロボロになっていた筈のドレスも、痩せ細った体も、まるで時間が巻き戻ったかのように全てが元に戻っていたからだ。同時に、今迄感じていたはずの空腹感、飢えが綺麗サッパリ消え去っているのを感じていた。


「…………まさか、先程までの出来事は幻覚……?」


 その事から先程までのゴミ廃棄場での出来事はアメリアが見せた幻覚だと一瞬は疑った。だが、彼女達には先程までの生き地獄が到底、幻覚などとは思えなかった。死の直前までの記憶もある。死の感覚は細部に至るまで記憶に残っている。それ程までにリアルすぎたのだ。


「一体どういうことですの……?」


 今自分達に起きている異常の原因はアメリアにあるとしか思えなかった。


「あら、目覚めたようですね」


 そんな時、全ての元凶であるアメリアがこの部屋へと戻ってきた。彼女は目覚めた三人を見て笑顔を浮かべている。そして、マーシアはアメリアにこの異常を問い詰めようとした。


「アメリア、貴女、わたくし達に何をしたの……?」

「何を、とは?」

「とぼけるのもいい加減になさい!! わたくし達はあそこで死んでいた筈でしょう!? わたくし達に何をしたのか教えなさい!!」

「知りたいのですか? なら教えて差し上げましょう。時間回帰の魔術を使用し、貴女達の時間を巻き戻して、蘇生させたのです」

「時間を巻き戻して、蘇生……?」

「ええ、今の私にはそんな御業にも手が届くのですよ。代償として私の寿命の内、約一月分程を支払う事になりましたが、まぁ何の問題も無いでしょう」

「なっ……」


 アメリアの言う事が真実だとするなら、それは正真正銘、神の御業の域だ。普通の人間に行使できるはずがないだろう。だが、今のマーシア達はアメリアが嘘を言っているとは到底思えなかった。

 マーシアは今のアメリアの事を、彼女の姿をした別の何かとしか思えなくなっていた。


「アメリア、貴女、一体何者なんですの……?」

「ふふっ。私は私ですよ。私はアメリア・ユーティス、本人に間違いありませんよ?」


 そして、アメリアは不気味な笑みを浮かべた。


「それと、もう一つ。何故、私が貴女達をゴミ廃棄場に送ったのかその理由を教えて差し上げましょう。マーシア様、あなた自身があのゴミ廃棄場を選んだのです」

「……それは、どういう事ですの……?」

「マーシア様、貴女がゴミ捨て場に隠れたから、私は貴女達をゴミ廃棄場に送ったのですよ?」

「……つまりは、わたくしが別の場所に隠れればあのゴミ廃棄場には送られずに済んだ、という事ですの……?」

「ええ、その通りですよ。まぁ、別の場所に隠れていればそれ相応の場所に送りましたけれど……」


 それを聞いた彼女達はもう一つ、残酷な真実が残っている事に気が付いた。自分達三人は別々の所に隠れていた。つまりはまだ罰ゲームは二回残っているという事だ。


「もしかして、まだ続きますの……?」

「ええ、残り二回。エルザさんとマーシャさんの二人が隠れた武器庫と客間、その場所に相応しい罰ゲームを用意しています」

「ひっ、嫌っ、止めてっ、もう許してっ!!」

「あんなものが後二回もあるだなんて、私達には耐えられないわ!!」

「わ、わたくし達が何をしたというんですの!?」


 確かに、自分達はアメリアに嫌がらせをして、イジメの偽証もした。だが、それだけだ。それだけだというのに、なぜここまでの罰を受けなければならないのか。自分達に与えられる罰は一度の死だけでは許されないというのか。

 それを聞いたアメリアは怒りとも呆れとも取れない表情を浮かべる。


「貴女達は本当に自分の罪がそれだけだと思っているのですか?」

「……え?」

「よく言うではありませんか。親が罪人であっても生まれた子供には何の罪もない、と。ですが本当にそうなのでしょうか? その親に養われている以上、子である貴女達も連座で罰を受けるべきではありませんか?」

「何を、何を言っていますの……?」

「……ああ!! そう言えば貴女達は知らないのでしたね。貴女達の父親が何をしたのかを」


 実は、何故アメリアがマーシア達を最初の復讐対象に選んだのか、何故アメリアがマーシア達にこれほど苛烈に当たるのか、その理由の一つには彼女達の父親も関係している。詳しく言うなら、アメリアの両親が処刑された件にマーシア達の父親が大きく関わっているのだ。


「ふふふっ、娘がこれだけ酷い扱いをされたと知ったあの男達は一体どんな顔をするのでしょうね。今からその顔を見るのが楽しみで仕方がありませんよ」


 そう言ってアメリアはその表情を酷く歪めた。だが、それを聞き、困惑するのはマーシア達の方であった。彼女達は自分の父親が何をしているのか、殆ど関心を持っていなかった。だからこそ、父親の罪とやらに全く心当たりは無かったのだ。


「教えて……、お父様が一体何をしたというの……?」

「ふふっ、その話は後にしましょうか。いずれは分かる事ですからね。今は罰ゲームの最中です」

「「「ひっ!!」」」


 今の彼女達は罰ゲームという言葉を聞いただけで怯え、体が震える様になっていた。彼女達は怯えから、知らず知らずの内に自らの体を抱きしめている。


「大丈夫です。残り二回は記憶を多少弄って、罰ゲームの事や私に関する事を一時的に記憶から消して差し上げますから、安心してください。さぁ、罰ゲームの再開と行きましょうか」


 ――――パチン!!


 アメリアが指を鳴らすと前回同様、彼女達の足元に魔法陣が現れる。直後、三人の意識は暗転し、バタリと倒れ込んでしまった。


「まぁ、発狂して精神が完全に壊れてしまうと今後色々と困るので、残り二回は多少手加減して幻覚で許して差し上げますよ。ただし、現実と何ら遜色のない幻覚ですけれどね……」


 そして、一人残ったアメリアは口元を不気味に歪めて嗤うのだった。

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