第21話:熟練の魔導士
森には夜中に訪れた神社の境内を思わせる不気味さで満ちていた。
太陽の光も霧で緩和されて完全には森を照らし出してはくれないせいで内部はやや薄暗く感じる。
所々に霧が薄っすらと立ち込める中を、巡回ルートを記載した地図を手にした四人は手探りで進んでいく。
「不気味ね、この森・・・・・・。暗いし、やけに静かだし」
「ああ、いかにも何かいそうって感じだ」
「とりあえず警戒だけはしておくわよ。
舞のような例外を除いて魔術に性質を持たせる為には
周囲の空気が変わったのが輪にも理解できると同時に、紫色の文字盤が微かに反応を示す。
サラからレクチャーされた基礎魔術は
距離や高度制限はあるが、近距離での強襲に対応できると考えると悪くはない。
「へえ、上手いもんじゃねーか」
「そりゃどーも。レイザードは見るからにこういうの苦手そうよね」
「確かに俺は戦闘以外は役に立たねーけど、魔術に頼りすぎると痛い目を見るぜ」
相変わらず二人は反りが合わなさそうだが会話自体は成立しているので時間が解決してくれると信じるしかない。
そして、
「・・・・・・何だ、それ?」
「随分と変わった形ね・・・・・・」
輪と舞が二人揃って怪訝そうな顔をした程に彼女が手にした
刃が先端に向かって数本重なっている様子はまるで閉じた傘のようにも見える。
剣にしては切断能力に欠け、槍にしてはリーチに欠ける奇妙な形状なのでどう戦いに用いるのかは想像が着かない。
「あんまり動かすと溜めといた動力が切れちゃうから見せられないけど、とんでもないわよ・・・・・・
「サラがとんでもないってことはこの辺り一帯が更地になりそうだな」
「・・・・・・あたしってどんなイメージなのよ」
各々が戦闘準備を済ませ、森の中をマップ通りに進むと所々の地面に埋め込まれたマナストーンが見受けられる。
これが最初に森を開拓した者が希望を託す為に埋め込んで行った目印なのだろう。
そこで輪とサラはほぼ同時に足を止めた。
さっきから内側の文字盤が光を放っているのは集中すればすぐにわかる。
「具体的な数はわからないけど何かいる気がするんだよな」
「・・・・・・えっ?あたしもそれで立ち止まったんだけど、わかるの?」
「何だよ、お前も
怪訝そうに首を傾げるサラとアルクに返答せずに内側へと意識を潜り込ませる。
サラに頼み込んで協力して貰った結果として得られたのは紅が三、黄色が四、緑が三、それが今の輪が持つ生体魔素の総量。
連続して同じ魔術を吸収すると変換効率が落ちるのが厄介な所だ。
一同で周囲に備えるが何かが襲ってくることもない。
「———
最も消耗とのバランスが良さそうな雷の槍を具象化して構える。
それでも明確に進む消耗を度外視して構えた判断が幸いした。
「・・・・・・・・・ッ!!」
茂みを蹴散らす音がその場で響き、黒い塊が近くの輪へと飛来する。
反応が間に合ったのは奇跡と言って良く、手にした二又の槍は甲高い音と共に襲撃者の攻勢を弾き返していた。
腕が痺れる程の衝撃を堪えながら、着地した敵の正体を視認する。
そこには豹程度の大きさであろう一匹の異形がいた。
半身が凍り付いたか、あるいは結晶から獣の姿を彫刻で掘り出したかのように生き物離れした姿を取っている。
半獣半晶の獣は低い呼吸音を零しながらも次の攻撃の機会を伺っていた。
そして、次の跳躍に輪が構えた瞬間。
獣は銅を切り捨てる刃の軌道と共にその場に叩き伏せられていた。
「珍しいな、こんなトコまで
その刃を操っていたのはアルクであり、その手には封印を解かれた三又の鉾が握られていた。
見失いそうな程に透き通る不可思議かつ幻想的な刃を備えた魔導器を操り、尋常ならざる速度と力で結晶化した獣をあっさりと叩き斬ったのだ。
現代においては薙刀や剣が競技としての名残を残す中で鉾は旧式の武器とされているが、アルクはあっさりとその形状を使いこなしていた。
「何か嫌な感じね。巡回ルートを回って戻りましょう」
「さっき言っていたけれど、この浅さに
「かなり珍しいわよ、浸食が濃い奴だったから余計にさ。まだいるかもしれないし、気を引き締めて行くからね」
四人は周囲を警戒しながら暗い森を進むが、異変は早くも森の中に見られていた。
歩む先の光景を見るとサラとアルクさえも驚いて立ち尽くしたので、いかに現状が異常かはわかった。
それも当然、森の草木が獣と同じく結晶化したように汚染されていたのだから。
「相当、濃い
汚染は歩くごとに激しくなっていく。
まるで森を
「おい、ルナフォーク。こりゃ相当な濃度の奴がいるかもしれないぜ」
「そうね、ルート変更するわよ。失敗にはなるけど、ここは退くべきだわ」
二人が初心者ということもあって、熟練者達の下す判断は冷静だった。
アルクとサラは強力な魔導士であるかもしれないが、敵の本拠地とも言える場所では退くべきだろうと輪も賛同する所だ。
だが、気になっているのは何かに追われているかのように輪の文字盤は黒の輝きを失っていないことだった。
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