第4話:魔王の元へ?



運ばれて来た肉を食べながら、今後のバンク以外の行き先を決めることにした。


肉はソースに海産物を活かしたのか微かにエビの風味がして、レアの肉とは相性が良い食べた事のないものだった。

この世界では肉を素早く中まで焼く技術もあり、むしろ現代よりも早く焼き肉が出て来る。


その秘密は店主が調理の際に台の下へと放り込んでいた紅のルビーに似た石のようだった。


「なあ、コンロ?の下に放り込んでるのってあれ何だ?」


「ああ、説明してなかったかしら。あれはマナストーンって呼ばれているもので・・・・・・簡単に言うと私達の力の根源の塊ね。尿石みたいなものよ。私も詳しいわけじゃないんだけど」


「さらっとヤバい例え方したよな、お前」


この世界に現代魔術に類する魔術的な技術が存在することは聞いていたが、そのエネルギーとして活用されるものがあの宝石状のものか。

不思議な石炭といった捉え方をするのが良いかもしれない。


マナストーンが気になったのではなく、輪は自分の内側に違和感を覚えていた。


七つの文字盤の内、中央に置かれた紅の水晶がわずかに輝いた気がしたからだ。

この世界でも何度か似たような異変が起こっているので自分の現代魔術についても気になっていた。

もしかすると、という考えは自分の中に生まれつつあった。


「おじさん、美味しかったわ。また来るから」


「ご馳走様でした、凄く美味かったです」


「・・・・・・私に接する時より陽気かつ礼儀正しくないかしら」


膨れっ面の舞は本気で機嫌を損ねているわけではなさそうだったので、店を出て次の場所へと向かうことにした。


「ああ、ちょっと待ちな。あんたらに置き手紙があるんだよ。いつも来るこういう特徴の女が男を連れてくるからって言われてな」


「置き手紙・・・・・・俺達に、ってことは」


舞は何かを察したようで店主が手渡してきた便箋を開くと息を吐く。

筆跡も特徴はなく便箋も紙が普及しているらしい異世界では購入先の特定にも至らないありふれたものだ。


問題は、その手紙にしたためられた内容だった。



『アスガルト法立魔導院へ 魔王』



これで半信半疑だった二人とも完全に理解した。


二人が別世界から来たことを知っており、それでいて何かを企んでいる輩が同じ世界には存在しているのだ。

魔王がいないせいで力を振るえなかった輪にとっては皮肉もいい所だった。


「また、魔王様からか・・・・・・。さっきの店主に聞いても、ゲームの世界みたいな魔王はいないみたいだったしな」


「ええ、ここに来いってことかしら」


地図を広げると距離感は尺的にはメートルと誤差はあれど同じと考えていいレート、キロと同じキールで表現されているようだ。

所々が妙に現代日本と似ている所が何となく引っ掛かる。


距離にすれば二キロ、言い換えれば二キールは歩けない距離ではない。


「バンクに寄ってから行きましょう、通り道だから」


「でも、俺達に危害を加えようとしてないって保証はないんだよな」


「そうね、でも場所を魔導院・・・・・・ってことは公的機関に指定してるなら危害を加えられる可能性は低いんじゃない?」


「現代魔術も実質的に使えるのは、舞一人だしな」


「そうなのよ、輪が使えると大分楽になるんだけど。まあ、時間はあるし魔王とやらが敵と決まったわけでもないわ」


この世界は刃物等の暴行事件など生温い事件が起こせる力が存在しているらしい。

だから、本来ならば現代魔術が使えれば―――



ギシリ、とまた内側から文字盤の軋む音が響いた気がした。



「・・・・・・もう少しな気がするんだ」


「・・・・・・輪?」


「もう少しな気がしてるんだけど、針が持ち上がらないというか何ていうか」


イメージの話が咄嗟に口から出てしまい、怪訝そうな顔をする舞に力のことを簡単に話して聞かせた。

少し考えながらも結論は出なかったようで舞は一つ頷いた。


「放置して付き纏われるのも問題だから私は行きたいんだけど・・・・・・あなたはどうするつもり?」


「・・・・・・行こうか、確かにこのままってのも不気味だからな」


こうして意外と意見を聞いてくれるのも舞の良い所と言えた。

異世界の知識が舞の受け売りでしかない輪の意見など聞かずに進めた方が早いこともあるだろうが、決して彼女は友人や仲間をないがしろにはしない。


それは、独りの時間が長かった故の反動かもしれなかった。



何にせよ、魔王に会いに行く為に二人は歩き出す。



街中は石畳が敷き詰められている場所や土がむき出しになっている場所も多いが、石畳を隙間なく置ける時点で技術力は窺い知れる。

橋を渡す技術や街中に川を通す技術も普及していることからも、現代で言う器具に類するものがあってもおかしくない。

優れた機械技術と不可思議な動力を融合しながらも、どこか古いヨーロッパを思わせる不思議な町だった。


「そういえば、バス的な交通手段はないのか?それなら早いんじゃないか?」


「技術的にはさっぱりだけど、乗り物はマナストーンを埋め込む数が多すぎてコスト面で発達してないって聞いたわ。私も同じことを考えたけどダメだったのよ」


「へえ、何か今より発達してるものとしてないものの差が激しいな」


「発展途上らしいわ。私も現地民じゃないから何とも言えないわよ」


役割ではバスに類似するものはあるらしいが、交易都市においては商人の出入りが激しい時間になると混み合って乗れるものではないらしい。

それらの情報を総合して、舞は歩くという選択肢に辿り着いたのだ。


「じゃあ・・・・・・やっぱり歩きか」


「途中で休憩を入れればいいじゃない。それに、輪とお喋りしてれば時間なんてすぐだわ」


済ました顔でそう言っては来るが、さらりと最後に彼女を意識してしまう事を口にしてくる。

この世界に来る前、翔に言われるまでもなくわかっていた。

嫌われてはいないどころか、勘違いでもなく好かれているのは間違いない。


同好会メンバーに選んだのも誰でも良かったわけではなく、舞自身の意志で一緒に時間を過ごす相手と決めてくれたのも知っている。

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