第4話 魔女と風

 100余年前の祝宴の日、魔女も王子とお姫様を祝うために船に乗って欲しいと言われました。魔女は王子の結婚を祝う気になれませんでしたがさりとて王子の頼みは断れず言われるがまま船に乗りました。船上での祝宴はなごやかに行われ魔女も二人へお祝いのキスをしました。ありがとうと言われましたがちっとも嬉しくありませんでした。むしろふつふつとした煮えたぎるような憎しみが沸いてくるのを感じました。その夜皆寝静まった後で魔女はこっそり王子と姫の寝室へ忍びこみました。そして仲睦まじく眠る二人にナイフを突き立てました。ナイフは血に染まり返り血を浴びた魔女はその心のように黒く傷だらけの尾びれを手に入れました。そうして魔女は海底へ戻ったのです。


 人魚姫の姉たちは人魚姫へナイフを渡しに行きました。船の上には王子と姫、あのときと全く同じです。魔女は海の底で人魚姫が姉たちと帰ってくるのを待っていました。


 けれど人魚姫は


 帰ってくることはありませんでした。



 海底に戻った魔女ですが人魚の掟を破った罰として人魚ではなくなってしまいました。一人暗い海底で傷に薬を塗りながらいつか水泡に帰すときを懐かしい歌を歌いながら待っていました。しかし姪子達が産まれると姪子達は魔女のもとへ遊びに来るようになり魔女は一人ではなくなりました。魔女はそれを嬉しく思っていたのです。

 


 魔女はぽろぽろ泣きながら帰ってきた姪たちを順繰りに抱きしめ慰めました。そして人魚姫のすぐ上の姉を抱きしめた後いつものように末の姫へ手を伸ばそうとしました。しかし姫は居らず代わりに水がふわりと動きました。

「あの子は風になったのよ。」

 姉の一人がそう言ってまた皆で泣きました。もう二度と会うことのないあの子のために。

 



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