第3話 王子様と砂浜

 人魚姫が王子のもとへ向かって3日が経ちました。人魚姫は無事に王子に近づくことができたようで楽しげに王子と並んで砂浜を歩いています。その足は激痛が絶えずさいなんでいるはずですが人魚姫はおくびにも出しません。王子の顔はなんとなく懐かしいような気がしました。そしてその二人を困ったように見る人々にも見覚えがありました。魔女は人魚姫へ忠告しようと思いました。しかし人の足でなくましてや黒く傷んだ尾ひれでは浜に上がることができません。だからどうにか人魚姫が海へ寄ってきてくれることを願うしかないのですが人魚姫は父王を警戒してか海へは近づいてきてくれません。結局何も伝えれないまま人魚姫と王子は城へ帰ってしまいました。魔女は憎々しげに二人の去っていった方を暗くなるまで見ていました。


 魔女もかつて足があったとき、時の王子とこの浜辺に来たことがあります。魔女が浜からの海の景色の物珍しさにじっと彼方を眺めているとき彼は笑って隣にいてくれました。足は痛く語れぬ不都合さにやきもきすることはありましたがそれでも一番幸せなときでした。しかしその幸せは彼の側近たちの連れてきたお姫様によって簡単に壊されてしまいました。見目では負けていなかったと思います。けれど後ろ楯のなさと語ることのできないハンデは大きく彼はあっという間にお姫様の方へ転びました。家族を捨て声を捨て辛い痛みに耐えても人である姫にかなわなかったのです。人に産まれたかったと切に思いました。


 しばらく経ったある日人魚姫は一人で浜辺へ歩いてきました。その次の日もその次の日も一人でやってきました。王子もやってきましたがその隣には別の女性が寄り添っていました。顔は人魚姫の方がかわいいと思ったのですがやはり人と人魚は結ばれないのでしょうか。また最近人魚姫の姉たちが人となった妹の様子を伺いに浜の方へ出てきます。危ないからおやめと言ってもやはり聞く耳を持ちません。変に頑固なところはお兄様に似てしまったのでしょうか。

 そうこうしているうちに王子が人魚姫でない女性と結婚式を上げることになってしまいました。祝宴の船出はいついつと漁師たちがおめでたそうに話しているのを聞きました。こうなってはしかたがありません。魔女は姉たちに人魚姫が人魚に戻る方法を教えてあげることにしました。

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