第2話 足を得て地上へ

 魔女のもとへ末の人魚の姫がやって来ました。人間の王子に恋をしたから人の足が欲しいというのです。彼女の夢見がちな性格は前々から少し心配していたのですが残念なことにあたってしまいました。人と人魚の恋など叶うはずがないと説得しても聞きません。それどころか何と引き換えにしてもいいからと余計必死になって頼むのです。足の代わりにその美しい声を失ってもいいのかと聞いてもはいと答え、歩く度針に刺されるような痛みがすると言っても構わないと答えるのです。魔女はしまいに人魚姫の熱意に負けて人の足を手にいれる薬を末の姫に渡してしまいました。人魚姫はその薬を受け取ると一目散に王子のいる砂浜へと泳いで行ってしまいます。

(これはお兄様に叱られてしまうわね。)

 魔女は人魚姫の泳いで行った方を見ながら眩しそうに目を細めました。しかしここは深い海の底ですから太陽の光は届きません。それでも魔女にはとても目映まばやく見えたのです。魔女はしばし考えて自分も人魚姫の後を追うことにしました。彼女が海底から出るのはかつて彼女が人に恋して以来、実に100余年ぶりのことでした。


 魔女は前の人魚の王の娘でした。今の王は兄、姫たちの叔母にあたります。彼女もある日時の王子と出会い恋をしました。初めは姿が見えるだけでも声が聞けるだけでも満足だと思っていました。しかし望みは膨らんでついに彼女は人になりたいと思うようになりました。そして魔女は魔法で作ってしまったのです。禁断の人の足を得る薬を。しかしそれには人魚姫に与えた物と同じリスクがありました。それでも恋とは恐ろしいもので魔女はその薬を使ってしまいました。そうして声と引き換えに人魚の掟も放り捨てて魔女も王子に会いに地上へ向かったのです。

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