第2話
「楪さんって、彼氏居るの?」
ホームルーム終了後、楪さんの元に我先にと集まる生徒達をやんわりと退けて開口一番そう告げたのは、クラス1のイケメンこと
容姿もさることながら、運動神経抜群、学力も常にトップ10を維持しており、かつ人当たりも良い。
欠点らしい欠点は無く、それ故に女子人気がズバ抜けて高い。
おまけに男子からも尊敬の眼差しを向けられる程だ。
そんな彼が、恐らくクラスの誰もが聞きたいであろう質問を投げかけた。
最初の質問がそれなのはどうかと思うが、まぁいずれは誰かが聞いていただろう。
注目の集まる中、彼女が出した答え、それは。
「居ないわ。今まで一度もね。というか、恋をした事がないの。私」
その答えに安堵、または歓喜の声を上げる男子。反対に女子の大半は疑念の眼差しを向けている。
俺も正直、彼女の答えに疑念を抱いていた。
昨今のアイドルに引けを取らない容姿をしていて、一度も彼氏が居ないなんて。
恋愛に興味が無いのならそれまでだが、思春期にある健全な女子がそういったことに関心が全くないというのは、どうなのか。
まぁ、それは個人の自由だから他人が口を挟む事ではないのだが。
「そっか。じゃあ、さ。俺と付き合ってみない?」
──言った。出会って速攻で告白しやがった。
これが陽キャの頂点に君臨する男の為せる技か。
あまりの手の早さに驚きを隠せない生徒達の動揺を他所に、楪さんはクスリと口元を隠して笑う。
「ごめんなさい、まだあなたの事よく知らないから……お友達からで良いかしら?」
そしてあえなく撃沈するクラス1のイケメン。
慣れたあしらい方からして、初めてでは無いのは確かだ。
これまでもこうやって言い寄られて来たのが容易に窺える。
「お、おう。まぁそうだよね! じゃあ友達からってことで!」
表情は崩さず、しかし内心落ち込んでいるのだろう。若干笑顔が引きつっていた。
そんなこんなで始まった彼女への質問タイム。
その内容はごく普通なもので、特に面白味も無く質問が続く。
その間、俺はというと。
──寝てました。
しかも、次の授業が始まるまで。
「……しまった。次は移動教室だったっけ」
やってしまった。
友達が居れば起こしてくれそうなものだが、残念ながら俺はぼっち。
起こしてくれる友達は居ない。
ちくしょう。徹夜でエロゲーするんじゃなかった。
目を擦りながら立ち上がり、ふと誰かの視線を感じてそちらに目をやった。
「……?」
しかし、そこに人の姿は無い。
何だ。勘違いか。
そう思い、机から教科書を取り出して──再び視線を感じて顔を上げる。
「何だ、起きてたんだ。残念」
そこにはいつの間にか楪さんが居た。
何でここに?
ていうか残念ってどういう意味だ。
無言のままの俺を見つめたまま、彼女は机の間を進みながらこちらへ向かって来る。
「貴方と話がしたいと思って。さっきまでは周りに邪魔が居たけど、今は二人きりだから」
机に腰掛けて、怪訝な表情をしていた俺を見上げた。
「ねぇ、どうして何も言ってくれないの? 一方的な会話って、寂しいと思わない?」
それには同意する。だが、話したくても話せない訳が俺にはある。
「──なーんて、全部知ってるから気にしなくて良いわ」
「……は?」
その言葉に思わず声を上げてしまい、慌てて口を塞ぐ。だが、遅かった。
「っ……凄いわね、その声。少し聞いただけでゾクってする」
ほんのり頬を赤く染めて、顔を逸らす楪さん。
俺のOSの効果が如実に現れている様だ。
知っている? 何を? 俺の事を?
……どういう事だ。
もしかして、過去にどこかで会っていたのか?
「私ね、貴方に……教えて欲しい事があるの。その為に、わざわざ転校までしたんだから」
微笑みは妖艶に、けれど純粋な思いを打ち明ける様に俺との距離を詰め、耳元で、こう囁いた。
「──私に、恋を教えて頂戴?」
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