第5話 廃墟にて

 槙田先生の運転するピックアップは郊外へと向かう。川沿いの道を山間部へ向かって走っていく。


 何処へ行くのだろう?

 一抹の不安がよぎるのだけど、それはすぐに消えてしまった。先生と一緒の方が安心できる。怪しいのは黒剣の方なんだ。理由は分からないけど、僕の中で彼女は物凄く腹黒い感じがしていた。


 山間部に入り、古ぼけた病院みたいな建物に到着した。


 古い病院跡。


 精神病院だったと聞いたことがある。地元の怪奇スポットとして有名な場所だ。

 僕たちは車から降りて、その建物の中へと入っていく。荷台に積んであった白い石膏像のようなものも、ふわりと宙に浮かんで後を付いて来た。

 

 僕たちは建物の奥へと向かった。

 中は埃だらけで、木の葉も積もっていた。もう何年も手入れされていないのは明らかだった。


 最奥の病室らしき部屋へと入った。


「鳴田君。そのベッドで横になってくれ」


 先生の言葉に従い、僕はベッドに腰かけ、その上で仰向けになる。


 二体の石膏像は部屋の入口で立ちすくんでいた。そのうちの一体がコトリと音を立てて揺れたのだが、傍には何もいなかった。


 先生は笑いながらロープを取り出し、僕の手足をベッドのパイプへと括り付けた。


「鳴田君。少し待っていてくれ」


 そう言って先生は部屋から出て行った。


 その途端、僕の思考が活性化した。


 しまった。

 先生に嵌められた。


 手足を縛られているじゃないか。

 これじゃあ逃げられない。


 記憶はある。


 何故か先生の言う事を信じてついてきてしまった。何か不思議な力で思考を操作されていたに違いない。


 しばらくして先生が戻って来た。ビデオカメラと三脚を抱えていた。先生はそれをベッドの脇へ設置して撮影を開始した。


「これで良し。じゃあ君の事、調べさせてもらうよ」


 そう言って手に取ったのは大きな裁断鋏だった。先生は微笑みを浮かべながらそれを僕の方へ向ける。


「大丈夫。痛い事はしないから」


 僕は止めてと叫んだつもりだったけど声は出なかった。何か不思議な力で体の自由を奪われている。

 先生はその大きなハサミを使って僕の服を切り取っていく。上着、ズボン、ベルト、全部切られて体から剥がされていった。靴下だけはそのまま脱がされた。そして下着にも手が伸びて切り裂かれ、剥ぎ取られた。


 そして僕は一糸まとわぬ全裸となっていた。


「ククク。素晴らしい。全く非の打ち所がない」


 そんなに褒められるような裸なのか。先生は顔を近づけ、僕の裸を間近で観察する。息が吹きかかってくすぐったいし、匂いまで嗅いでいる。


 まさか、先生は変態だった!?

 僕は羞恥と恐怖にさいなまれた。でも、体は動かないし助けを呼ぼうにも声も出なかった。


 その時、窓ガラスが割れて中に何かが飛び込んできた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る