第3話 再び学校へ

「これで良し。昌彦まさひこ、気を付けろよ」

「分かったよ。PCの電源は落とす。ルーターの電源も落とす。Lanケーブルは抜いておく」


 黒剣に言われた事を復唱する。そういえばリビングにあるPCはどうすればいいのだろうか。


「あっちも同時進行で初期化しておいた。後で誤魔化しておけよ」


 母が料理のレシピを検索したり、撮った写真をupしたりしてるだけだから特に影響はないと思うのだけど、色々言い訳が面倒だと憂鬱ゆううつになる。


「ところで、これからどうするのさ。本当におとり作戦を実行するの?」

「ああ、そうだ。学校に戻ろう」


 玄関から外へ出る。

 自転車に二人乗りで学校へと向かう。


 校門は閑散としていた。

 警察の車両は帰ってしまったようで人気は無かった。


 突然、黒剣は正門のゲートに向かって走っていき、それを簡単に飛び越えてしまった。たった1.5m程度なんだけど、その見事なフォームには感嘆してしまった。


「ボーっとするなよ。こっちに来い」


 黒剣に促されてゲートに掴まって乗り越える。何だか無様な感じがするが、黒剣の様なジャンプは自分には無理だ。

 やっとこさゲートを乗り越えた僕の手を掴み、黒剣は走り出した。


「もたもたするな。見つかるぞ」

「分かったよ」


 そのまま校舎の裏へ向かって走る。目指すは理科室だと思ったら、その横にあるプレハブの部室棟だった。そこには僕が所属している科学部の部室がある。黒剣は持っていた鍵で部室を扉を開けて中に入る。


「鍵?」

「気にするなって」


 いや、普通は気になるだろう。

 どうして部外者が鍵を持ってるんだ。


 黒剣は部室に備え付けてあるPCを触り始めた。それは既に起動済みで、モニターは自動で点灯した。監視カメラの映像が映し出される。


 マウスを操作し、監視カメラの映像を切り替える。警察の捜査は終わったようで、理科室は片付けられていた。


「お、お客さんがいる」

「誰?」

槙田まきただ。それと刑事だな」


 本当だった。そこには理科の槙田先生がいた。この人は科学部顧問もしていて僕とはそれなりに面識がある。そして刑事らしきスーツ姿の男性が二名立っていた。


「ここじゃ音を拾えない。昌彦、行くぞ」

「行くって?」

「理科室だよ」


 黒剣に手を引かれ部室を後にする。そのまま廊下を通り理科室を伺う。中で話す声が聞こえてきた。


「だから、ここで何をしているのかって聞いている」

「学校は捜査の為、今日一杯は立ち入り禁止にしていただいたんだ」

「期待していた人物ではありませんね。どうしましょうか?」

「質問に答えろ。何をしている」


 どうやら、槙田先生が二人の刑事に質問されているようだ。

 僕たちは教室後ろ側の出入口からそっと中を伺う。


「犯人は必ず犯行現場に帰ってくるってのは本当なんだな」

「何の事でしょうか?」

「話を聞かせてもらいたい。今朝ここで人が死んでいた。その件についてだ」

「さあ」

「とぼけるんじゃない。知っていることを話すんだ」

「面倒ですね」


 そう言った槙田先生がパチンと指を鳴らす。

 すると、白いもやが二人の刑事を包みこんだ。


 白いもやは徐々に固まり、石膏像のようになる。そして二人は動かなくなった。


「そこの二人出て来なさい」


 ドキッとした。槙田先生は僕たちの事に気づいてたんだ。


 僕は恐る恐る教室に入った。


 しかし、黒剣は消えていた。

 僕は辺りをキョロキョロと見まわしたんだけど、彼女の姿は何処にも見当たらなかった。

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