第2話 狂ったお茶会


ガッザザザザザザザザザザザザザザザッドサッ


ボク「うぅ・・・いったあ。え、何ここ?」


真っ暗闇をひたすらに下へ落ちていったかと思えば、いつの間にか木の枝に引っかかり、草の上に落ちた。真上は青空も見えない程に鬱蒼と木が生い茂っている。辺りは草木や大きな岩、見た事もない花がある。


ボク「ボクの体感だと100kmは落ちた気がするけど、ここがマントルか?いや、だとしたらここに草木がこんなに生い茂っているのはおかしいし...」


ウサギ「わかったわかった。明日はあなたの好きなようにしていいから、しばらく14:55で止まっていておくれ。」


どこかで聞いたような騒がしい声がしたと思ったら、あの二足歩行の喋る白うさぎがボクの前を駆け抜けて行った。


ボク「あー!喋るウサギ!」


奇妙なことにこの見知らぬ地で、唯一の手掛かりはアイツしかいない。ボクは、咄嗟にウサギを追いかけて走り出した。


ボク「え、何あのウサギ足速っ。ちょっ待ってって...」


確かにボクはあまり運動が得意ではないけれど、それにしたってあのウサギ足が速すぎやしないか?まるでボクだけがずっと同じ場所に取り残されているような感覚に・・・


木・岩「カサカサカサカサ...」

ボク「うん?」


ボクが起き上がった時、すぐ横に岩があった。そして、今も横に岩がある。別の似たような岩か?いや、ボクは、今、走っている。・・・それなのに常に横に岩がある。


ボク「・・・はああああ!!??なんで周りの景色が変わんないの!お前らボクに付いて来るなああ!!」

木「そんなこと言われても...」

ボク「うぇえ!?喋った!?」

岩「君が遅いのがいけないんだよ。」

ボク「はぁ?」

木「君は本当に先に進みたいの?」

岩「同じ場所に留まるってことは結構難しいんだ。必死で走らないと留まってはいられない。」

木「先に進みたかったらせめてその倍の速さで走らないと!」

ボク「そんなこと言われても!」


何だ何だ何なんだコイツら!?それっぽい正論を言われたってボクは今全力で走っているっていうのに!こんなヘンテコな奴らを追い抜けないことが、悔しくて、どうにか走る速度を更に上げると、急に辺りの木々が無くなり、拓けた場所に出た。



ボク「あっ!!いた!ウサギ!はぁーー疲れた。」


そこには、外だというのに大きくて豪華な椅子と机があり、さっきのウサギを含めた3人組が座っていた。走り疲れたボクは、椅子の一つに座ろうとした。


「満員!満員!ここは満員だよ!!」


キャップ帽の上に中折ハット、そしてその更に上に麦わら帽子を被った謎の男が、ボクに文句を言った。


ボク「え?席、余ってるんだからいいじゃん。ちょっとだけ休ませてよ。」


あまりの疲労に、男の言葉を無視して着席した。目の前の席には、黄色くて、三角耳が二つ付いたようなヘンテコな帽子を被った少女が声をかけてきた。


「およよ?お疲れですか??ワインでもいかがかな?」

ボク「いや、ボク未成年なんで。ってか、ワインなんて見当たらないけど?」

「そりゃあ、無いからね。」

ボク「え?全く。無いものを勧めるなんて失礼だな。」

ウサギ「招待されてないのに座る方が失礼じゃないか。」

ボク「それは...」


ウサギの尤もな言い分に言葉を失くした。


ウサギ「しかも、名乗りもしないなんて!」


そう言われて、名乗ろうとしたボクよりも先に元気な声が響き渡った。


「はいはいはいはいはーい!アタシはキツネさんだよ~」

ボク「え、どの辺が?君は人間だろう?」

キツネ「......。っべーだ!」


見たままのことを告げると、そのコはボクにあっかんべーをしてこちらに背を向けていじけ出した。しかし、どうしたものかと考える隙もなく、男が喋りだした。


「俺様は帽子屋をしているマッドハッター!世界中の帽子を愛し、帽子に愛される男!そんな俺はゆくゆくは世界一の帽子になるだろう!以後お見知り置きを。」

ウサギ「ボクは三月ウサギ。三月のウサギみたいに頭がおかしい。」

ボク「ボクは・・・ボクは!・・・・・・あれ?ボクの名前は?」


帽子屋とウサギに続いて、自己紹介をしようとしたが、ボクは、自分の名前を言うことが出来なかった。名前・・・名前を忘れるなんてことあるはずが無いのに。どうして。


帽子屋「あははキミには名前が無いのか!かわいそうなやつだ!」

キツネ「名前が無いなんて、意味が無いね!」

ウサギ「キミには生きてる意味が無い!」

ボク「あれ?なんでわからないんだ??」

ウサギ「まぁまぁそのうち機嫌を直して戻ってくるさ。」

ボク「名前が?」

キツネ「かんぱーーーい!」

帽子屋・ウサギ「かんぱーーい!」


焦るボクを置いてきぼりに、3人がカップを掲げた。


ボク「え?何にかんぱいしてるの?」

キツネ「今日は、私たちの生まれなかった日なんだ!」

ボク「生まれなかった日?」

帽子屋「そうさ!めでたいだろ?」

ボク「いや、生まれなかった日なんてほぼ毎日じゃん。」

ウサギ「だから?」

ボク「いや、ほぼ毎日だから、別にそんなにめでたくないじゃん。」

帽子屋「はーーキミはどこまでもかわいそうなやつだ。」

キツネ「わかってないね。」


ボクを憐れみ、やれやれといった様子で、ウサギが説明し出した。


ウサギ「1年に1度しかない日を祝ってどうするんだい?生まれてない日は365日中364回も祝えるんだ!ステキでしょ!」

ボク「はぁ」

キツネ「そんなかわいそうなキミの生まれてない日もワタシたちで祝ってあげよう!かんぱーい!」

ボク「ありがとう?」

帽子屋「せっかくだからキミにぴったりの帽子をプレゼントしよう!」


そういって帽子屋は、ズボンのポケットからくしゃくしゃになった赤い紙で作られた三角帽子を取り出した。

それをどうにか広げて形を整え、彼はボクの頭にその帽子を乗せた。


ボク「え、なにこれしょぼ。」

ウサギ「さっすが帽子屋だ!」

キツネ「すっごく似合ってるよ!」

ボク「......。」


バンッ


帽子屋「大ガラスが書き物机と似ているのはなーぜだ!?」

キツネ「おっいいね。楽しくなってきた!」


帽子屋が突然机を叩き、謎々を出した。コイツらの感情の流れを読むことは諦めることにしよう。


ボク「あっボクそれならわかると思う!」

ウサギ「それはつまり、その答えがわかると思うって意味?」

ボク「うん。」

ウサギ「それなら、それ通りの意味を言ってよ。」

ボク「え、言ってるじゃん。」

帽子屋「何が同じもんか!そしたら"食べるものを見る"と"観たものを食べる"は同じ意味だ。」

ウサギ「そりゃ"好きな物を貰える"と"貰えるものが好きだ"が同じってことだ。」

キツネ「じゃあ"私はキツネである"と"キツネは私である"も一緒だね!」

帽子屋「それはなんかちょっと違う。お前の願望。」

ウサギ「あっ願望といえば!この間おもしろい話を聞いたんだ!」

キツネ「なになに?」

ウサギ「エメラルドシティってとこにいるオズってやつは、すっっっごい魔法使いで、何でも願いを叶えてくれるらしいよ!」

帽子屋「ひょー!マジか!じゃあ俺様は世界一の帽子に!」

キツネ「ワタシはキツネに!」

ボク「やっぱキツネじゃないんだ。」

キツネ「あぁ?」

ボク「いや...」

ウサギ「じゃあボクは立派な六月ウサギにしてもらおう!」

帽子屋「おぉ!いいね!」


何故、帽子を作ることではなく帽子になる事が夢なのか。

何故、そこまでキツネに憧れているのか。

何故、三月ウサギと六月ウサギに差があるのか。


ボク「あっ!何でもできる魔法使いなら、ボクの名前も思い出させてくれるかな?」

ウサギ「きっとオズなら朝飯前さ!」

キツネ「そしたらみんなで行くしかないね!エメラルドシティ!」

帽子屋「あぁ!そうと決まれば出発だ!」


謎しかない3人組だが、とりあえずボクは、名前を思い出すため、3人と共に偉大なる魔法使いオズがいるというエメラルドシティを目指すことにした。

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