第2話 秘密のお家デート?

物事には準備が必要。そんな訳で3年F組では、そこそこの忙しなさで文化祭の準備が行われていた。

ただ問題は俺が何もできていない事で...明日からは自分も忙しくなると分かっていても、周りが忙しなく動いている中、暇してるのは流石に心苦しい。こんなことを平気でやってのけるプロデューサーって人種はまさか天才なのではっ!

「ねえ、倫也っ」

なんて現実逃避をしていたが、同じ境遇の隣人によって現実に引き戻される。

「ちょっと何をすれば良いか聞いて来てよ」

「いやさどう考えても、俺よりクラスに馴染んでるんだから、お前が聞けよ。」

「倫也だって昔よりも扱い良くなったんだから聞いても問題ないじゃない!」

「扱い良くなったって、もうちょっと言い方ないのかよ。」

「とにかく、聞いて来てよ。」

どう考えても聞き耳を立てていたクラスメイトに声を掛ける。

「何か出来ることある?」

「うーんと、あっ、買い出し行って貰ってもいいかな?」

「もちろんいいけど、何を買ってくれば良い?」

「テーブルクロスとかの内装系で、まだ買ってないのがあるからそれを買って来て貰えるとありがたいかなぁ。リストを今作るからちょっとだけ待ってて。」

「うん、分かった。」

「えーっと、じゃあこれがお金でこっちがリスト。今日は買い出しが終わったら、そのまま帰って貰っていいからね。で明日から接客関係のことお願いします。」

「了解です。まあ、バイトの経験なんて参考になるかは分からないけど。」

「やっぱり経験者は違うと思うよ。それじゃ」

「また明日」


「買い出しに行くことになったんだけど、大丈夫か?」

「あーうん、大丈夫。」

「じゃあ行くか」



「近場のショッピングモールで揃うようなものなの?買い出し内容は」

「テーブルクロスとかの買い物だから大丈夫じゃないか多分。その辺のものを売ってそうな店あったし。」

「そう、あーでも、ショッピングモールで買い物だったら丁度良かったなぁ」

「なんか買いたい物があったのか?」

「いや、買いたい物っていうか、今日はパパとママが居ないから夕飯買って帰らないとなぁって」

「一人だったのか......なら今日は家で夕飯食べて行かないか?近くだしそんなに遅くならないだろ」

「えっ、でも悪いよ」

「大体去年なんて、結構な頻度で色んな人が泊まりに来てたんだから今更だろ。」

「アンタそれ言ったらだいたいのことが今更になるじゃない......」

「良いじゃん、母さんだって英梨々だったら喜ぶって」

「う、うん」

まだ遠慮気味の英梨々を尻目に電話をかける。

「今日の夕飯なんだけどさ、英梨々が来てもいいかな?」

「えっ、今日は帰れそうにない!?」

「分かった、うん、頑張って」

英梨々の件で電話して良かったな、目的は達成されなかった訳だけれども

「ごめん、なんか家の両親も今日は帰れないみたいで、俺も自分で食べて〜って言われたわ」

「お互い大変ね、なら帰りにどこかで食べればいいんじゃない?」

「そうするか」

なんだかんだたどり着いたのは、出来て便利になったなとは感じるものの、そこそこ特別な用がない限り訪れないと言う微妙な頻度でしか行かないショッピングモール。

ただ、たまに行くとショッピングモールって楽しいよなぁ。

本命の用事をこなしつつ、ゲーセンや本屋で時間を潰しているうちに気が付くと、そろそろ夕飯を食べても問題なさそうな時間になっていた。

「結局どうする?」

「倫也は食べたいものって何かある?」

「特にはないな。だから英梨々の好きなものでいいぞ」

「うーん、まあ強いて言うなら鍋かなぁ」

「鍋の店はここにないだろ。そもそも、今の手持ちじゃそこまで高いものは食えないし。

「だからさぁ、家で鍋にしない?食材はここで買ってうちで食べればいいじゃない。」

英梨々は気付いて居るんだろうか、たった今両親がいない家に俺を招こうとしていることを。

「流石にマズいだろ、それは。」

「そんなこと言ったら、今までだってマズいじゃない。今日アンタは私の家に来て夕飯を食べるだけ、それだけのことよ。」

俺の周りの女の子はみんな俺のことを信用してるのか、男として軽く見てるのか定かではないけれどそれにしたってどうなんだよ。確かに手を出せるかと言えば出せない気しかしないから、何ら問題もないだろうけど。

とは言っても、普通だったら完全にokの状況を作り出されてその場に立っても、理性的で居られるほどの自制心がある自信はない訳で...

「わかった。じゃあ食材買って帰るか」

でもまあそもそもの話からして、考え込んでいる間にどんどん不安げな顔になっていっている彼女の頼みを断ることなんて出来るはずも無かった。


「なあ英梨々」

「何よ」

「さっき好きなようにしてもいいって言ったけど、ほとんど肉しかカゴに入って無いってどういうことだよ!」

「いいじゃない別に。どうせ食べるのあたしたちだけなんだし」

「いや、そのあたしたちの中に俺が入ってることを忘れてると思うんだけど」

「高校生の男子なんて肉食べれば満足でしょ」

「確かにそうだけども、それをしても大丈夫なのは日々運動してるやつだけなんだよ。

俺みたいなのがそんな食生活送るのは許されないの!」

「あーもう、わかったから。まああたしはそんな食生活でも問題ないけどね」

「お前いつか絶対体にガタが来るだろ...」

いや来ないと世の中不公平過ぎる!とは言え俺が英梨々が体を壊すことを望む事なんてあるはずもないけれど。


そんなこんなで俺は緊張気味に、英梨々は近頃じゃお目にかかれないほどの上機嫌で家に向かった。そんな様子を見ていたら緊張は嬉しさに塗り替えられていった。

「制服汚れるとマズいしこのエプロン付けなさいよ」

「ありがとう。にしても男もののエプロンって、スペンサーおじさんって料理するのか?」

してなさそうって訳でも無いけど、忙しそうだしな

「パパってばお料理系アニメのクールになるとちょこちょこ作り出すのよね」

「見てるとめちゃめちゃ作りたくのはわかるけど、なかなか実際に作るとなるとハードル高いのに流石だなあの人」

「それで倫也は料理するの?」

「しっかりした料理なんて調理実習以来だぞ。まあでも鍋なんてほとんど具材切って買って来たスープ入れるだけだし楽勝だろ」

「楽勝だったら倫也、よろしく!ってことであたしテレビ見とくから」

「いやいや手伝う素振りくらいしようか、せめて」


「...何よ」

「うんもう良いです、包丁から手を離して下さい英梨々様」

「ちょっと、諦めないでよ。これぐらい私にだって出来てるじゃない」

「見てるこっちが怪我しないか見ててヒヤヒヤさせられるんだよ!英梨々が手に怪我したら絶対ブチギレて来る人が居るし、流石に仕事に支障が出たら良くないだろ」

「私が怪我するの前提なのはともかくとして、確かに迷惑かける訳にも行かないか」

「じゃあさ、この仕事が終わったらまた一緒に料理の練習してくれる?」

「そんなの加藤とするのが一番良いだろ。親友だし、知り合いの中じゃ料理出来るの加藤くらいだし。それとも小百合さんとするとかさ、あの人なら絶対喜んで教えてくれるだろ。」

「アンタ女心が分かって無いのよ、食べさせる相手も居ないのにわざわざ練習なんてする訳ないじゃない」

「そういうのって普通練習してから食べさせるもんなんじゃないのか...」

「今更取り繕ったところで意味ないでしょ」

そりゃこれだけヒヤヒヤさせられる光景見せられたら、料理上手だと思わせてくれるようになるまでにどれほどの月日がかかるか想像もつかないな。

「それに裏で努力して上達するよりも、上達する様子を日々見せた方が効果的だって身をもって教えてくれたしね。」

「それは創作に関してだから嫉妬しただけで、別に知らない間に料理が上手くなってて嫉妬するはずないだろ」

「でもさ倫也、もしあたしが突然料理が出来るようになって自立したら嫌よね?嫌とは言はないまでも思うところくらいあるわよね?」

嫌だった。思うところなんてかなりあった。でも、それは嫉妬なんてものよりもっとかっこ悪い独占欲だった。英梨々の成長を見ていたい、それを見て惨めになって嫉妬してしまうのに、英梨々を障害から守ってあげたい、そんな力も無いのに。そして何より酷いのがそこまで英梨々にこだわるのに、彼女が一番好きな人なのか分かって居ないことだった。

「嫌じゃないし、思うところも無いけど付き合うよ。怪我なんてされたら後悔してもしきれない。」

そんな心うちを打ち明ける事なんて出来るはずもなく、もっともらしい理由をつけていた。


「料理出来ない二人でもこんなのに美味いなんて鍋凄いな」

「あたしの選んだ食材がよかったんでしょ」

「確かに変なアレンジをしちゃうタイプの料理下手よりは、種類少なめの選び方で良かったかもな。そこまでドヤることかはともかくとして」

「シメの雑炊も食べるよな?」

「もちろん、鍋ってシメの為に食べてると言ってもう過言じゃないし当然よ。」

「えーっと、そんなに楽しみするほど大したもの作れないんですが...」

「アンタに料理に関して過度な期待してる訳ないでしょ。普通で良いのよ」

「その言い方それはそれでなんかイラッとするな。まあ普通に作るから少し待っててくれ」



とまあ料理出来ない二人でも何とか鍋を堪能した訳なんだけども、何故か英梨々の部屋に来ていた。本当はカゴに大量に入っていたお菓子類を見た時に、ただ夕飯食べて終わりじゃないんだろうなと気付いてた。けれどそれを口に出してしまえば英梨々のささやかな企みが消えてしまうのを残念に思う自分が居た。

俺今日何時に家に帰れるんだ...なんて口に出そうものならお前が言うなって絶対言われるな。

「それで、今日はなんか観たいアニメとかプレイしたいゲームとかあるのか?俺は何周目でもいけるし、英梨々が好きなのでいいけど」

「それもあるんだけどさ、ラノベの感想の言い合い、とかしてみたくて」

「確かに英梨々とラノベの話をすると機会ってほぼなかったよな」

霞詩子作品もしっかり読んでるくせに恥ずかしがって全然話そうとしないもんなぁ

「でさー最近有名なラノベが何シリーズも最終巻迎えたじゃない、それとその後に出た外伝とか短編集の話がしたくて!」

「確かにいくつか心当たりがあるけど、どの作品も幼なじみヒロイン出てこないぞ」

「アンタ私が幼なじみヒロインが出るラノベしか読まないと思ってる訳?」

いや絶対その傾向あるだろ。セルビスルートしかプレイしてるの見たことないし。

「流石にそれだけだとは思わないけどなぁ、だいたい最近のラノベってあんまり幼なじみヒロイン出て来ないし、それだと読む本なくなるだろ」

「幼なじみヒロインの不遇っぷりとか、最近の少なさについて話すと熱くなり過ぎるからとりあえず置いておかない?」

「いや俺は好きなんだけどなぁ、幼なじみ。」

「ぐっ、それでこの作品なんだけどさ」

「あーそれか、終わり方が個人的にめっちゃ好きなんだよな、まだまだ妄想の余地があるところとか」

「そうなのよ!このヒロインとずっと寄り添って行くんだろうなっていう物語としての完成感もいいけど、他のヒロインにもチャンスがある感じも好きなのよねー。しかもこの作品のキャラ達なら憎しみあわずに幸せにバトってくれそうな雰囲気も最高で。」

「ドロドロの愛憎劇も、もちろん面白くて好きなんだけど、あの幸せな世界を作れるのはあの人しか居ないよな!」

昔はよく同じ作品に触れて語り合って来ただけあってお互い共感出来て、けれど離れていた期間に出来た価値観の違いも話を盛り上げるスパイスにしかならなくて、それはきっと友達としての同じ時間の過ごし方では最高のもので、一緒に創作する次くらいには楽しかった。

こんなふうに英梨々と作品について語り合うのは、オタクとしての自分の原点だったのかもしれない。スペンサーおじさんから教えてもらった作品達は、俺にとっては初めてのものばかりで刺激的で面白いものばかりだった。でもそれだけではここまでハマってしまったかは分からなくて、きっと隣に高嶺の花なのに距離の近い仲間が居たからなのだと思った。

ただそんな思い出や今日の時間を二番目にしてしまうくらいに英梨々との創作は楽しかったのだと、寂寥感に覆われてしまう。

「あのさ倫也、またこんなふうに一緒に遊んでも良いかな?お互い時間がある時でいいし、もっと短くなっちゃってもいいからさ」

そんな英梨々の言葉は暗い気持ちを消してはくれなかったけれど、前向きにはしてくれた。だったらこう返すしかないだろ。

「もちろん、楽しみにしてる。また遊ぼうな」


帰り道は寒かったけれど、そのおかげで空気が澄んでいて星空が綺麗に見えた。そんな空を見上げながら明日以降の準備やサークルのこれからに思いを馳せていた。





あとがき

季節設定からしてどれほど遅れたかよく分かりますよね。約半年なのでもはや失踪です。

映画観たら英梨々に幸せになって欲しい気持ちに溢れていたんですが、特典小説読んでいたらなんだか満足してしまって全然手がつきませんでした。

学園祭という題材が、ネタがありそうで自分が書けるネタが全然無かったのでこのシリーズは多分このお話で畳みます。本当にすいません。

というのもこの題材を思いついた時に一番書きたかった話が今回のでして。

一応加藤がミスコンに出るとか、そこそこ面白そうな案はあったんですが書ける気がしませんでした。

幼なじみが最近少なく云々に関しては完全に作者の主観です。たまたま読む作品にあまり居ないのか、本当に減っているのかは定かでは無いです。幼なじみ大好きなんですけどね。

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最後の文化祭 冴えないオタク @saenaiotakudesu

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