第78話 うさぎの気持ち

独白うさぎ



 皆様、はじめまして

 うさぎの花です


 今日からわたしは、さくら姉さんから紹介して頂いた人間の所にお世話になります。


 というのも、この世の中をうさぎが独りで生きていくには厳し過ぎるのです。


 わたしも以前は父と母と同じ場所で暮らしていました。

 『ペットのKODIMA』という名前の所ですが、毎日ご飯も水も勝手に人間が用意してくれて、生命の危機を感じることなく生活をしていたと思います。


 毎日色んな人間に見られたり、父や母がすぐ側にいるのに別々のケースで暮らしていたせいで甘えにいけないのがとても嫌だったんですが、今思えば命より大事なものなど無いのに、お前は何を贅沢を言っているんだって思います。


 そんな甘ちゃんなわたしは、ある出来事をきっかけに『KODIMA』から逃げ出しました。


 ある日突然、父と母が人間に連れていかれてしまったのです。

 その時の父と母の姿は今思い出しても涙が出ます。


 人間の雌が「社会人になって一人暮らしを始めて寂しいから」とよくわからないことを言って、父と母を連れて行ってしまったのです。

 そんなことをされたら、今度はわたしが寂しくなってしまいます。

 化粧の匂いがキツく、父も母もその雌が気に入らないのか、ブーブーと鼻を鳴らして必死に不快アピールをし続けていましたが、結局連れていかれました。


 父と母がいなくなってから、わたしのご飯をいつも用意してくれる人間が、「ごめんね。子うさぎは体が弱いから、怖くて飼いたくないって言って、パパとママだけ買っていったの」と謝ってきました。


 その時は意味がよくわからなかったけど、何となくもう父と母には会えないんだと思いました。


 空になったケースを見たときにとても寂しくなって、そこに独り残るのが怖くなり、ご飯の時に扉が開いた隙に思わず逃げ出してしまいました。


 今考えると、よく捕まらずに逃げ出せたなと思います。

 ここからでした。社会の厳しさを味わうことになるのは。


 寒かったり暑かったり何なんですか!?地面もゴツゴツしていて足が痛くなります。

 ご飯が不味い!不味すぎます!外に生えてる草なんか食べれたもんじゃないです。

 車という目にも止まらぬ速さの巨大な物体や、川とか言う先が見えない大きな水たまり、とにかく知らないものだらけで、何度死にかけたかわかりません。


 時々、優しいカラスのお姉さんが暖めてくれたり、すごくすっごく美味しい人参をくれたりしたけど、やがて限界は訪れました。


 いつも通りお腹が減っていたわたしは、食べ物を求めてフラフラと彷徨っていました。

 草は不味すぎて少ししか食べれないし、食べてもお腹を壊してしまうのです。

 この前さくら姉さんから、うさぎは丸一日腸を動かさないでいると死んでしまうと聞きました。


 当時のわたしも本能でわかっていました。

 何か食べないとヤバいと。


 結局、道端の草を少し食べて、腹痛と満たされない飢えに苦しんでいると、いつか食べた美味しい人参の匂いがしたのです!


 気力を振り絞って匂いのする所を目指しました。

 うさぎの嗅覚を全開にして走りました。


 匂いの所に辿り着いたのは良いけれど、そこで力尽きてしまいました。

 気絶する前に見えたのは『川獺』と達筆な字で書かれた看板でした。




 暖かい空気に美味しい匂い。

 目が覚めたとき、そこに映っていたのは、人参を掘り出しているカワウソでした。



「あら、目が覚めたのね。あなた名前は?アルティメット・キャロット食べる?自信作なのよ」



 それがさくら姉さんとの出会いです。



 その後はさくら姉さんから人間社会の仕組みを学んだり、人参を恵んでもらったりしていましたが、この前、外での生活が辛いと相談したところ、この人間の雌の家にお邪魔させてもらうことになりました。






 ただ、この雌は少し嫌いです。

 目の前でさくら姉さんから人参を口に突っ込まれているのを見たらわかるように、格下の存在なんです。

 しかもアルティメット・キャロットを馬鹿にしました。許せない。


 他にも会社まで手紙を渡しに行った時に、この雌が着ていた服が、父と母を連れて行った雌の服とよく似ていたので、そこもマイナス評価です。

 制服というのは、どこの会社でも同じなんでしょうか。


 ただ、その時一緒にいた雄は、わからないけど高評価です。

 何故か見ていて落ち着きましたし、安心する匂いがしたのです。また会いたいです。



独白うさぎ

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