第77話 人参を食え
究極の人参
ピンポーン!
「お届け物でーす」
——最高級わらマット8枚。
ピンポーン
「お届け物です」
——超高級牧草詰め合わせ。
ピンポーン
「お届け物になります」
——極上プレミアムフード。
……
…………
届く届く。
私のクレジットで勝手に購入されているらしい、
花ちゃん用のウサギグッズが。
しかもやけに高そうなものばかり。
「あのー……さくら先生……さっきから凄い量の荷物が届くんですけど、これ本当に全部私のお金ですか?嘘ですよね?嘘だと言ってくださいよ!」
「きゅっ」
「いやいや、そんなふうに手を頭の後ろに持っていって『てへっ』みたいな顔してもダメですよ!?」
私は今、さくら先生と一緒に花ちゃんを家に迎え入れる準備をしている。
「こんなに買われたら破産ですよ!生活出来なくなっちゃいますよ!?」
どうしよう…散財だ…
毎日誰かにご飯を食べさせてもらわないと生活が出来ないかも知れないです。
毎日誰かに…………もしかしたら先輩に食べさせてもらえるかも!!
…………ご褒美では?
「ありがとうございます!!!」
「きゅぅっ!?」
まったく……他人さまのクレジットで買い物なんて犯罪ですよ?
これは先輩に泣きついても文句は言えませんよね。
ぐふふふふ。良い仕事をしてくれました。
ピンポーン
「〜〜急便です」
「はーい!今行きます!」
また何か届きましたね。
——究極の人参-アルティメット・キャロット-
「さくら先生、見て下さいこれ!めちゃくちゃダサいのが届きました!!何なんですか?この『アルティメット・キャロット』って。ふざけた名前してセンスの欠けらもないです。作ってる人の顔が見てみたいですよねー。しかも高っ!!こんな何の変哲もない人参にしか見えないのに!」
アルティメット・キャロットのダサさがツボに入ってしまい、部屋にいるさくら先生につい大声で話しかけてしまった。
ちょっとネットで調べてみよう。
先輩との話のネタにしようっと!
『アルティメット・キャロット』
ごく稀にしか市場に出回らない、究極にして至高の人参!!まさにアルティメットな人参である。
誰が栽培しているか、産地はどこかなどの詳細は一切わかっていない。
わかっているのは、時々、宅配業者ではなく何故か
謎が多いアルティメット・キャロットだが、とにかく美味い!!そして高い!!
この人参を食べればあなたも貴族の仲間入り!!
アルティメット・キャロット 1本 4,800円
カラス……桜……さく……ら……
「あは……ははは……。見て下さいこれ。すすすす、す、凄いオシャレなのが届きましたね!!何なんですか?この『アルティメット・キャロット』って。イカした名前してセンスの塊です。作ってる人の顔が見てみたいです!きっと素晴らしい生物に違いない!!」
チラッと。
……ヒィィイッ!!!
めちゃくちゃ優しい笑顔だ!
さくら先生が菩薩の顔で微笑んでる!
手に持ってる何かをグシャグシャにしながら微笑んでる。
……人形?
!?
ヒィィイッッ!!!
あの人形絶対に私だ!
髪型も服装も今の私と同じじゃないですか!!
ヤバい……
「いやー値段もお手頃!!こんな他の追随を許さない気品溢れる人参にしか見えないのに!それがこんな値段で買えるなんて、作った人は菩薩のような心の持ち主なんだろうなぁ……ぁは…はははは」
とんっ
とんとんっ
震える脚で立ち尽くす私を何かが叩く。
まるでこっちを向けと誘うように。
——あ、終わった。私の人生終わりました。
とんとんとんとんとんとんっ
向くな!振り向いたらダメだ!耐えろ私!!
「おい、お前何してんだ?」
「えっ!?先輩なんでいる……んです……か」
いきなり先輩に呼ばれて振り向いてしまった。
そこにいたのは、アルティメット・キャロットを手にした笑顔のさくら先生。
シュバッ!!
そしてハイスペックカワウソがこの隙を見逃す筈もなく、顔面めがけて飛びかかってきたさくら先生によって、アルティメット・キャロットを凄まじい勢いで口に突っ込まれる!!
「あががごごががぎご」
おのれぇぇ!カワウソめ!声真似か!
先輩の声に似すぎだろう!!
今度何かのセリフをお願いしてみよう。
「ばりぼりばりがじがじ」
1本……2本……次々と突っ込まれるアルティメット・キャロット。
——めちゃくちゃ美味しい。
※使われた分のお金は、翌日にちゃんと振り込まれていたので、結局『先輩に泣きついて毎日仲良しご飯計画』は泡となりました。
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