第76話 ふわふわ
ウサギふわふわ。
(あぁ〜今日も仕事疲れたー)
仕事終わりの帰り道。
後輩は、いつも通り晩ご飯の材料を買って、
いつも通り好きな人のことを考えて……
(最近少しずつ距離を詰めてるけど、なんか女として見られてない気がするんだよな)
それはそれはいつも通りでした。
——そう。家に着くまでは。
「ただいまー……って誰もいないんだけ……きゃぁぁぁああ!!!!」
◆
「って感じでウサギがいたんですよ!!びっくりして少し目を離した隙にいなくなっちゃったんですよ!その後部屋を探してもいないし……先輩っ!聞いてます!?」
あぁ…会社に着いて早々、後輩のよくわからない話を聞かされるなんて。
家にウサギ?
そんな何処ぞのカワウソみたいに、動物がほいほい家に来てたまるか。
「見間違いじゃないのか?ウサギが勝手に家の中に居て、しかも消えるなんて……ん?」
何かフワフワしたものがいる?
「見間違いじゃないですよ!!」
俺の前で必死に説明する後輩の後ろ——。
後ろにある扉。
少し開いた扉の隙間から小さいフワフワな物体がこちらを見ている。
「なぁ……あれ。後ろにいるあれ。ウサギじゃないか?」
「へっ??…………っああ!!!」
後輩が驚いている。
そりゃそうだ。俺だって信じられない。
ウサギだ。本当にウサギだ。
職場にウサギがいる。
あっ、こっちに来た。
何故他の社員は何も言わないんだ。
何故異常事態を気にせずにいられる。
今年入った新人の子なんか『可愛いー』って言って写真撮ってるぞ。
そんなことを考えているうちにウサギは足元まだ来ていた。
口に何やら手紙をくわえている。
「なんか紙をくわえてますね。読んでみますね。達筆な時点で察してますけど」
ウサギは後輩に手紙を渡すと、可愛らく二本の足で立ち、鼻をヒクヒクさせていた。
『私の友達の野ウサギよ。
最近寒くなってきて、
温かくていい寝床を探していたから
貴女の家の合鍵を渡しておいたわ。
臆病で神出鬼没だけどよろしくね。
——さくら』
「先輩……何となく予想はしていましたけど、まず気になるのが、いつのまに私の家の合鍵を作ったのでしょう……さくら先生は」
「……気にするな」
「……はい」
やっぱり、こういう不思議なことにはさくらさんが関わっているんだな。
「とにかく少し飼って?みたらどうだ。さくらさんのお願いだし」
「お願い……命令ともとれますけどね」
白い目で後輩がウサギを見つめていた。
「はぁ〜仕方ないですね。ウサちゃん!今日からよろしくね」
カチカチ……カチ…カチ。
ウサギは歯を鳴らしているだけだ。
確かウサギって声帯がないから、鳴き声っていうのはなくて、鼻を鳴らしたり歯をカチカチ当てて感情表現したりするんだよな。
これは喜んでいるのか……?
「あっ、ごめんね。花ちゃんって言うのね」
!?
「おい。何故名前がわかった。今、このウサギ鳴いてもいないだろう」
「あぁ〜歯をカチカチしてるじゃないですか?これよく聞くとモールス信号になってました!」
!?
「……そうか。……モールス信号か……そうか。……モールス信号……わかるんだな」
もはや後輩とウサギ、いや花ちゃんのどっちが凄いのかわからない。
カチカチ、カチカチ
「えっ、花ちゃん、もう自分で通販使ってゲージとか餌とか頼んだの!?しかも、私のクレジット払いで!?なんでアカウントとか知ってるの?……さくら先生!?……でしょうね!!!全くもう」
ウサギふわふわ。
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