第75話 夏祭り②
真夏の夜の夢
待ち合わせ場所に後輩が現れた。
「はぁ…はぁ……すみません!待たせちゃいましたか?」
「いや大丈夫だ。俺も着いたばっかりだ」
俺を見つけるなり、小走りで向かって来た後輩。
待ち合わせ30分前なんだがな……
少し早めに来て下見をしようと思ったが無理だな。
「えへへー。どうですか先輩?このゆ・か・た!可愛くないですか?急いで作ってもらったんですよー」
「よく似合ってるぞ。流石さくらさんだ。良いもの作るな」
「何でさくら先生だってわかったんですか!?理解しあってる感じがして悔しいんですけど!!」
何でわかったか?
だってなぁ……
この暑い時期にぴったりな薄い青色を基調とした涼しげな浴衣。
足元から上半身へかけて、青から白へと綺麗なグラデーション。
散りばめられた銀色の花びら?……鱗?
既視感があるんだよ。
あの
鯉のぼりの時にも見た気がするんだよ。
「なぁ、お前着付けってどうした?ちゃんと浴衣全体を見たか?」
「いや、さっきさくら先生がウチに来て着付けしてくれました。何故か私には当日まで見せたくなかったらしくて……。だから背中部分は見れてないんですよね」
さくらさんって今日予定あるんじゃなかったか?
まぁいいか。
「どうかしました?変ですか?この浴衣、花びら舞ってて涼しげで凄い可愛いから、思わず鏡見てニヤけちゃいました!」
「…………凄く可愛いぞ。…………前面は(ボソッ」
前面はお洒落なんだ。
背中を見たからあの魚に見えてしまうだけなんだ。
背びれが!あの背びれさえなければ!
なぜ浴衣に背びれが付いてるんだ!さくらさん!
あれさえなければ、花びらも鱗に感じたりしないはずなんだ!
「先輩に可愛いって思われて嬉しいです!!」
「……行こう」
◆
『パンッ!!パン!!……ぐらっ……すとん!』
「先輩!!凄いです!射的上手すぎませんか!?」
「ふっ……俺に撃ち抜けないものはない」
◆
『バシャバシャ!すい〜すい〜』
「先輩!なんか金魚が集まってくるんですけど!?自分から捕まりに来てくれます!」
「仲間だと思われてるんじゃないか?」
◆
「先輩!さっきから背中に何か当たってる感触が、するんですけど、虫とかじゃないですよね!?」
「大丈夫だ。虫ではない」
◆
『お嬢さん、このお面なんかどうだい?絶対似合うぞ?』
「本当ですか?でも……それ魚のお面じゃないですか。よりにもよって何でそれなんですか!?」
「絶対似合うぞ。とりあえず試してみたらどうだ」
……
…………
うむ。
————。
————————。
「はぁ〜楽しかったです!!あっという間でしたね!」
「そうだな。後は花火で終わりか」
ひとしきりは遊び尽くしたはずだ。
隣で魚のお面をかぶった後輩……魚人も楽しそうにしている。
「あっちが人少ないです!あっちに行きましょう!」
後輩に連れられるまま、人気の少ない木陰に2人で座り込んで夜空を見上げた。
間もなくしてアナウンスが——。
『只今より夏祭りのフィナーレ!花火大会を開催いたします!なお、今年は特別な花火職人にお願いして作られた花火です!繊細で美しい花火をご覧下さい』
ひゅ〜〜ぱぁんっ!!
どぉん!!
「先輩……綺麗ですね」
「あぁ」
桜の花や薔薇の花を模した花火や、滝の様にキラキラ流れ落ちる花火。
細かく作り込まれた花火に心が洗われるようだ。
後輩もお面を外し、食い入るように花火を見ている。
どぉん!!
ひゅ〜〜ぱらぱら……
「先輩……これ
「あぁ」
「予定って、このことだったんですね」
「あぁ」
「さくら先生、花火とか作れるんですね」
「あぁ」
夜空を彩る『サバ』
夜空を彩る『カワウソ』
どうやったら花火でこんな表現ができるんだろうってくらいの美しさ。
「サバって……花火で見るとこんなに綺麗なんだなぁ」
「先輩……なんか感覚麻痺してません?でも綺麗なサバですね」
————ぎゅっ。
不意に手を握られた。
チラッと横を見ると後輩が顔を赤らめている。
チラッと繋がれた手を見た。
手拭いを頭に巻いて、いかにも職人っぽい格好をしたさくらさんが手にしがみついていた。
後輩が邪魔された怒りで顔を赤くしていた。
真夏の夜の夢
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