第74話 夏祭り①
夏祭り前哨戦。
「先輩!駅まで一緒に帰りませんか?」
最近遠慮がなくなったのか、ぐいぐい攻めてくるようになった後輩。
今年の新人の子みたいな、あからさまに媚び売る態度は苦手だが、コイツからだったら嫌な気はしない。
だからといって、コイツを恋愛対象に見てるかと言われればそれも違う気がする。
ハッキリしない俺の態度は失礼かもしれないが、まぁ……なるようになるだろう。
「なぁ……次の休み暇か?地元で夏祭りがあるんだが一緒に行かないか?フィナーレに規模は小さいが花火大会的なものもあるらしいぞ」
「先輩から誘ってくるなんて珍しいですね!もちろん何があっても行きますよ!!!……さくら先生に負けられないですし」
たまには俺から誘って遊びに行くのも悪くないだろう。いつもは後輩かさくらさん主導が多いからな。
「じゃあ詳細はまた連絡するよ。あ、俺は気分出すために浴衣着るつもりだが、お前はどうする?」
「先輩の浴衣……ゴクリッ!私も浴衣で行きたいですけど、持ってないんですよね。さくら先生は可愛い浴衣で来るんだろうなぁ……はぁ……」
「さくらさんは来ないぞ?その日は用事があるらしいんだ。今のところ2人きりだが、嫌なら課長でも呼ぶか?」
2人きりはやはり抵抗があるか?
さくらさん、どうしても外せない用事があるって言ってたからな。
どうするか……。
「あんなおっさん呼んじゃダメです!!絶対2人が良いです!!!浴衣も用意します!!先輩っ、体調管理はしっかりして下さいね!当日に風邪ひいてドタキャンは無しですよ!」
おおぅ……おっさん……。
えらい剣幕だな。
「じゃあ駅着いたからまたな」
……
…………
先輩とデート。
浴衣デート。
にへへへ
2人きりでデート。
ぐふふふ
とにかく可愛くてセクシーな浴衣を用意しないと!!
ここはこういう時に1番信頼のある
ついでに自慢しようっと!!
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『というわけで、すっごく可愛くて先輩が見惚れちゃうような浴衣を作ってください!!』
『なんで私があなたの浴衣を作らないといけないのよ!ましてや私を差し置いて彼とのデート用の!』
そう。
私が知る中で最もセンスが良いのは、このカワウソをおいて他にいない。
先輩と駅で別れた後、私は即座にさくら先生に電話をかけた。
早く自慢……んん、早く浴衣の依頼をしないと間に合わないかもしれないからだ。
『そっちに用事があるのは私のせいじゃないですよー。お願いします!作って下さい!可愛いのを!…………あーっ、それとも可愛い浴衣なんて作れないとか?ハイスペックカワウソともあろうお方が、可愛い浴衣の1つも作れないと?それなら仕方ないです。わかりました。シルヴィアさんに良いお店紹介してもらいますね』
『ちょっと待ちなさい!作れるわよ!ただ仮にも恋敵のあなたに何で作らないといけないのって話!!』
……やはりムキになって話にのってきましたね。
ここまで来たらあと一押しですね。
『敵に塩を送るって言葉もありますし。ダメですか?それに、先輩が「その浴衣どうしたの?可愛いね」ってなったときに、さくら先生が作ったって知ったら、株上がりますよ〜好感度うなぎ登りですよ〜』
『……そうかしら?……きゅぅぅう。仕方ないわね!特別だからね!あ、もちろん、ただじゃダメよ』
ちょろい!!
『わかってますよ。"先輩の仕事中の男らしい真剣な眼差しショット"3枚でどうですか?』
『……5枚よ』
『ふふっ。交渉成立ですね』
夏祭り前哨戦。
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