第68話 春②

春は策略の季節。



「というわけで、先輩に虫が取り憑きました。何とかして下さい、シルヴィアさん」



「虫とは、あの主様の周りをうろちょろしているのことですわよね?主様に害をなす存在なのか、少し調べてみますわ」



 さくら先生に相手にされなかった今、頼りになるのはシルヴィアさんしかいない。

 カラスである彼女なら、怪しまれることなくあの虫を調べることが出来るはず。



「先輩に猫撫で声で近づいている時点で害です!迅速な排除を望みます!」


「いや……貴女も大概ですわよ。それに害なら害なりに使い道もありますわ。もしかしたら本当は良い子で主様の奥方候補になる可能性も……いえっ!それはありません!!はいっ!!すみませんでしたわ!!失言でしたわ!!今日一日、誠心誠意を込めてあの虫めの本性を暴かせていただきますわ!ですので、そんな怖いこと言わないで下さい!!」



 全くシルヴィアさんは冗談が上手いなー。

 思わず、どこかのカラスが朝起きたら何故か・・・羽が全て抜け落ちていて飛べなくなっていた話をしちゃったじゃないですか。



「とにかくちゃんと調べて下さいね?」


「はい!任せて下さいですわ!」





〜シルヴィアは見た〜


「この書類ってどこに置けばいいんですかぁ?」


「ありがとうございます♪」


「彼女さんとかいるんですー?まぁ、カッコいいから、当然いますよね?」


……

…………


 やはりあの虫に絡まれてるせいか、主様は少しお疲れのようですわね。


 あ、また溜め息を……



調査報告

虫のアプローチ:7回

主様の溜め息:4回

主様の苦笑い:1回





〜シルヴィアは聞いた〜


「ねーねー、本当にあの先輩狙ってるの?」


 あの虫が同期と話している。

 内容は主様のことのようですわ。


「そんなわけないじゃん!甘えれば何でもやってくれて便利そうだから近づいてるだけだよ。ああいう真面目で根暗な感じはちょっとね〜」




 ……ギルティですわ。





「そんなこと言って、本当は少しアリとか思ってるんじゃないの?他にも単純で扱いやすそうな男いっぱいいるじゃん」


「……まぁ……顔は嫌いじゃない。実際に頼りがいあるし……」





 あらあら。

 ……グレーギルティですわ。




ーーーーーーーーー




「というわけで、今のところは害ですわ」


「わかりました。どうにかして排除しましょう」




 やっぱり害なんだ。

 先輩が困らないうちに、私がビシッと注意して、シルヴィアさんには、毎日帰り道に空から人形の首でも降らせてもらおう。



「その顔、何か非人道的なこと考えてますわよね?主様にそんなことしたのバレたら嫌われますわよ。それよりも、彼女の好きなようにやらせておけば、貴女が攻めるチャンスでもありますわ」


「どういうことですか?」


「よく聞きなさい。主様は今疲れていますわ——」




ーーーーーーーーー


次の日。


「ありがとうございましたぁ〜」


「…………はぁ」



 案の定、先輩は虫の対応で疲れてるみたい。

 今こそシルヴィアさん直伝の作戦を実行するとき。




「先輩、何か疲れてますね。コーヒー入れましょうか?」


「あぁ、お前か……。ちょっと新人への対応でな。ありがとう。少し濃い目にしてくれ」



 ここまではシルヴィアさんの言ったとおりの流れ。

 先輩が疲れてきたのを見計らって、コーヒーを餌に話しかける。



「仕方ないですよ。先輩、頼りになりますもん。優しく教えてくれるし、つい色々聞きたくなっちゃうんですよ」



「そうか?お前はそんなことなかった気がするけどな」




 疲れてる部分、そこを引き合いに出しさり気なく先輩を褒める。




「あそこまで、あからさまではなかったですけど、頼りにしてましたよ。まぁ、今でも頼りになるからつい甘えたくなりますけどね!……コーヒー入れてきますね」



……

…………


「どうぞ!しばらくは大変だと思いますが頑張って下さいね!疲れたら、また濃い目のコーヒーを入れてあげますね!なんなら肩も揉みますよ?なんて」


「ありがとう。あの新人も早くお前くらい成長してもらいたいな。……あっ、肩ならさくらさんが毎日揉んでくれてるから大丈夫だ」



 くっ。

 さくら先生が必ずどこかしらで活躍してる。

 流石すぎます。



「……肩揉み以外で、何か私に手伝えることがあったら言ってくださいね!では失礼しますね」



 シルヴィアさん、やりました。


『疲れた主様にさり気なくいい女アピール作戦」


 おおむね成功です!








「あの虫が悔しそうに見てますわね。いい傾向ですわ。貴女がいい女になって主様に尽くせば、結果的に主様に変な虫が寄り付きにくくなる。それでも近づくということは、その虫は主様の虜になっているということ。そうやって主様の周りはどんどん安全になっていく。素晴らしいですわ!!」




春は策略の季節。

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