第65話 神業

3人集まれば何とやら。



「ふぁ〜。あ、先輩おはようございます」


 ここ数日、後輩がとても眠そうにしている。

仕事もいまいち集中できていないみたいだ。


 そういえば、さくらさんも最近眠そうにしてることが多いな。


 朝ごはんとお弁当に、魚肉ソーセージがそのまま出てくることもあった。


 2人とも仲が良いから、夜遅くまで携帯で何かやりとりでもしてるのだろうか。





その日の深夜。




(ふふふ。彼はぐっすり寝てるわね)


ピロリン♪


(彼女が着いたようね。じゃあ今日も行ってきます)


 カワウソは携帯に届いたメールを読むと、深夜にも関わらず出かけていった。





数日後。




「さくら先生、シルヴィアさん、準備は良いですか?」


「当然よ」


「カァー」



とあるサーキット。

休日を利用して、いつものメンバーが集まっていた。


なぜサーキットか?

サーキットでやることと言ったら1つ。



「「「爆走」」」






何故こんなことになっているのか。




「なぁ、ちょっと良いか?」


「……どうしました?……先輩」


「さくらさんもそうなんだが、最近眠そうだけど何かあったのか?」


「あぁー。夜中にドライブ・・・・してるんですよ」



 ドライブ?免許なんか持ってたのか。

 まぁ、悩み事があって眠れないとかじゃないなら良かった。



「さくらさんも一緒にか?」


「そうです!最近レース系の漫画にみんな・・・でハマりまして、私が免許と車を持っていたので、夜中に一緒に・・・乗ってるんですよ。あ、今週の休みにサーキット行って遊ぶ約束してるんで、さくら先生借りますね」


 後輩が水を得た魚のように元気になっている。

 それにしてもサーキット?

 サーキットって遊びに行くようなところか?

 まぁレーシングカーでも見に行くんだろう。


「あぁ、気をつけて行ってこいよ。あんまり人前でさくらさんと話すなよ?変に思われるぞ」








 サーキット上に一際目を引く一台の車。

 ただの軽自動車のため、場に似合わずとても浮いている。


「では行きますよ!!2人とも!!」


 運転席に広がる異質な空気感。



 ハンドルに手を乗せるのは、キュートなカワウソ。尻尾はギアに添えられている。

 そして、そのカワウソを支えるキュートな女性が足元担当だ。


 さらにシートの頭の部分を外し、そこにナビゲーター役のカラスが羽を広げて鎮座すれば、三位一体のスタイルが完成。



 外から見ると、頭からカラスの羽が生えた女性がノーハンドで運転しているように見える。


 そのため、運転姿を見た人からは、サーキットの悪魔と恐れられるようになる。





ギュルッ、ギュルルル!!


ッ……ブォン!!



『なんだあの軽自動車、めちゃくちゃ速ぇぞ!』


『おい、あの女、本当に運転してんのか?』




ブォォォォオオ!!!

ギャリギャリギャリッ!!



「さくら様!次は右コーナーですわ」


「見ればわかるわよ!!!!」



(聞こえる。エンジンの声が……タイヤの声が)



ブォォォォーーー!


(3……2……1……っ!!このタイミングッ!!)



ガチャッ!ガコン!!

グイィィィ!


 華麗なる尻尾さばきによるギアチェンジ。

 体全体を活かした大胆なハンドリング。



「はぁぁぁああ!!」


 阿吽の呼吸で踏み込まれるペダル。



「素晴らしいコーナリングですわ!!」


 居る必要のないカラス。



 三位一体でおりなす運転は、まさに神業。





 この日、見るものを魅了し続けた一台の軽自動車は伝説となった。






3人集まれば何とやら。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る