第65話 神業
3人集まれば何とやら。
「ふぁ〜。あ、先輩おはようございます」
ここ数日、後輩がとても眠そうにしている。
仕事もいまいち集中できていないみたいだ。
そういえば、さくらさんも最近眠そうにしてることが多いな。
朝ごはんとお弁当に、魚肉ソーセージがそのまま出てくることもあった。
2人とも仲が良いから、夜遅くまで携帯で何かやりとりでもしてるのだろうか。
その日の深夜。
(ふふふ。彼はぐっすり寝てるわね)
ピロリン♪
(彼女が着いたようね。じゃあ今日も行ってきます)
カワウソは携帯に届いたメールを読むと、深夜にも関わらず出かけていった。
数日後。
「さくら先生、シルヴィアさん、準備は良いですか?」
「当然よ」
「カァー」
とあるサーキット。
休日を利用して、いつものメンバーが集まっていた。
なぜサーキットか?
サーキットでやることと言ったら1つ。
「「「爆走」」」
◆
何故こんなことになっているのか。
「なぁ、ちょっと良いか?」
「……どうしました?……先輩」
「さくらさんもそうなんだが、最近眠そうだけど何かあったのか?」
「あぁー。夜中に
ドライブ?免許なんか持ってたのか。
まぁ、悩み事があって眠れないとかじゃないなら良かった。
「さくらさんも一緒にか?」
「そうです!最近レース系の漫画に
後輩が水を得た魚のように元気になっている。
それにしてもサーキット?
サーキットって遊びに行くようなところか?
まぁレーシングカーでも見に行くんだろう。
「あぁ、気をつけて行ってこいよ。あんまり人前でさくらさんと話すなよ?変に思われるぞ」
◆
サーキット上に一際目を引く一台の車。
ただの軽自動車のため、場に似合わずとても浮いている。
「では行きますよ!!2人とも!!」
運転席に広がる異質な空気感。
ハンドルに手を乗せるのは、キュートなカワウソ。尻尾はギアに添えられている。
そして、そのカワウソを支えるキュートな女性が足元担当だ。
さらにシートの頭の部分を外し、そこにナビゲーター役のカラスが羽を広げて鎮座すれば、三位一体のスタイルが完成。
外から見ると、頭からカラスの羽が生えた女性がノーハンドで運転しているように見える。
そのため、運転姿を見た人からは、サーキットの悪魔と恐れられるようになる。
ギュルッ、ギュルルル!!
ッ……ブォン!!
『なんだあの軽自動車、めちゃくちゃ速ぇぞ!』
『おい、あの女、本当に運転してんのか?』
ブォォォォオオ!!!
ギャリギャリギャリッ!!
「さくら様!次は右コーナーですわ」
「見ればわかるわよ!!!!」
(聞こえる。エンジンの声が……タイヤの声が)
ブォォォォーーー!
(3……2……1……っ!!このタイミングッ!!)
ガチャッ!ガコン!!
グイィィィ!
華麗なる尻尾さばきによるギアチェンジ。
体全体を活かした大胆なハンドリング。
「はぁぁぁああ!!」
阿吽の呼吸で踏み込まれるペダル。
「素晴らしいコーナリングですわ!!」
居る必要のないカラス。
三位一体でおりなす運転は、まさに神業。
この日、見るものを魅了し続けた一台の軽自動車は伝説となった。
3人集まれば何とやら。
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