第64話 バレンタイン②
はっぴぃばれんたいん。
「先輩……今日何の日かわかりますよね?」
「流石にわかる。バレンタインだろ」
ドッドッドッド。
なんだ?胸が、いや、心臓が高鳴っている。ドキドキが止まらない。
きっと会社の後輩が、照れた感じでモジモジしてるのが可愛いからに違いない。
決して得体の知れない恐怖を感じているからではない!!
「これ、バレンタインのチョコですっ!!」
そういってケーキが入りそうなサイズの箱を渡された。
「あ、ありがとう」
よし、後でひっそりと食べよう。
今は軽くご飯を食べたせいで、お腹が苦しくてもう食べられないからな。あーお腹いっぱいだ。
決して怯えているからではない!!
ジーっ。
「……食べてくれないんですか?」
っ!!
胸が痛い。
後輩に悲しそうな顔をさせるなんて胸が痛い。
色んな意味で胸が痛い。
「いや、ちゃんと食べるぞ」
意を決して箱を開けてみた。
中にはハート型のチョコケーキが入っていた。
生クリームやパウダーでデコレーションされていて、真ん中は赤い何かで"LOVE"とあった。
ーーー血文字?
「これ、何?赤いの。チョコソースとか?」
「それですか?チリソースと片栗粉で作ったソースです!」
チリソース!?
「あとは生クリームと、振りかけてある白い粉は砂糖です!!甘辛ミックスです。その……LOVEって文字書くなら、、、赤い色を使いたかったので」
LOVEで恥じらうなよ!
赤い=チリソースって発想に恥じらえよ!
「甘辛ミックスって……どうして…」
「塩キャラメルとかありません?甘辛で美味しいですよね?」
塩とチリソース。全然別物じゃねぇか。
「これはチリソースなので辛すぎるかなって思って、砂糖をそのまま振りかけてバランスを取りました!攻めの甘辛ミックスです!!」
「攻めの甘辛ミックスじゃないよ…。"責め"の甘辛ミックスだよ」
とりあえず一口食べてみた。
チリソースのピリッとした辛さと、砂糖と生クリームの甘さが完全なる不調和を表現してる。
そこに加わるチョコケーキの風味や苦味。感動だ。
二口目は勇気が出ない。
さくらさん助けてくれ。
さくらさんのチョコは美味しいはずだ。
「ありがとう!とてもオイシイヨ!あっ!さくらさんも何か作ってるんだよな?この流れなら。さくらさんのも食べさせてくれ。…………早く」
「先輩、なんか反応が雑じゃないですか?本当に美味しかったんですか?一口いただきますね!味見忘れちゃってて」
パクっ。…………ドサッ。
1名様、脱落です。
「キュキュ、キュッキュきゅぅぅ」
(まったく、この子定期的に変なもの作るんだから。私のは凄いわよ)
さくらさんが渡してきた箱は、やや縦長だった。
縦長のケーキ?
パカァ。
中身を出せば、ほらビックリ。
あまりの出来栄えに、ズキューンと心臓を撃ち抜かれたようだ。
そう。
まさに撃ち抜かれているのだ心臓が。
チョコであまりにもリアルに作られた心臓が、これまたチョコで作られたキューピットの矢で撃ち抜かれている。
「キュキュ。キュウキュア!キュイッキュー、キュキュ」
さくらさんの簡単な言葉は何となく理解出来るようになったが、これは無理だ。
「"あなたのハートを狙い撃ち!ちょっと直接的過ぎかもしれないけど、攻めてみたわ"らしいです」
あ、倒れたはずなのに復活したのか。
「さくらさん。流石だよ。まさに攻めてるよ。直接、物理で」
食べてみると、味は美味しい。気分は良くない。絵面がヤバい。
「こんなリアルなのどうやって作ったんだ?複雑な気分になる」
「きゅう。きゅーきゅーきゅぅきゅ」
「拾った本を見ながらだそうです。『かいたいしんしょ』とかいうやつらしいです」
多分俺の知ってるやつとは違うよな。聞かなかったことにしよう。
「2人とも。攻めとか考えなくていい。次からはいつも通りの調子で作ってくれ。ただ、チョコはありがとう。嬉しいよ」
「はい!!」
「キュイ!!」
ーーーーーーーーー
「主様、私のチョコは普通なので、早く気づいて下さいね。コンビニの店員に怯えられながら買ったんですわよ。小さくて可愛らしいチョコですわ」
しかしこのチョコは気づかれることはなかった。
なぜなら、すでにさくらさんに回収され、ハートチョコの一部にされていたのだから……。
はっぴぃばれんたいん。
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