第62話 リベンジマッチ


リベンジは計画的に。




 その日、カワウソは思い出した。

 彼に弄ばれていた恐怖を…

 ゲームの中で踊らされていた屈辱を…



「ん?ゲーム?やりたいのか?」




ーーーーーーーーー



 私はなんでこんな大事なことを忘れていたのだろう。

 彼に格ゲーでボコボコにされてから"リベンジ"していない。

 せっかくゲーセンで修行したというのに…

 ゲーセンって結構お金かかるのよ。

 私としたことがウッカリでは済まされない醜態だわ。


 さて…思い出したからには、もう戦いは始まっているわ。


 まずは相手の戦意を削ぐ。

 私の可愛さを全面に押し出しておねだり攻撃。


 能あるカワウソは牙を隠すのよ。


「きゅーきゅっ♪きゅぅ♪」

(ギッタギタにしてあげるから私と戦いなさい♪勝ち逃げはユルサナイ♪)


 両手にゲームを持ち、上目遣いに猫撫で声で甘えるように威嚇すれば、、、


「ん?ゲーム?やりたいのか?」


 ほら獲物が。



心なしか彼が笑顔な気がする!

※気がするだけ

やはり甘えられて嬉しいのね!

※気のせい


ここまではいい流れね。



……

…………



「さくらさんは相変わらずアーケードコントローラー派か。でもさくらさん、格ゲー弱いからなぁ。ははは。終わったら別のゲームもす……る…?……さくらさん?」


 彼が軽口を叩いて隣を見ると、殺意の波動に目覚めた龍、もとい獺がいた。




 このは何を言ってるのだろう。

 この私を見下しているのだろうか。

 もしかして舐められてる?馬鹿にされてる?


 ふふふ。

 ふふふふふふふ。

 フフフフフフフフフフフフフ。


「キュッキュッキュッキュッキュッキュッキュッキュッキュッキュッキュッキュッ」


「うわ…なんか怖」




READY!FIGHT!



 男が選んだキャラクターは、素早い弱パンチやキックなど手数で攻めるスピードファイター。


 対するさくらさんは、このゲームにおける主役級のキャラで愛用者も多い。

 禍々しいオーラを身に纏い鬼神の表情をした、いわるゆ闇落ちバージョンが隠しキャラとして存在する。

 しかし今回は通常バージョンだ。


 ただし、ちゃんと禍々しいオーラは身に纏っている。



 ……プレイヤーである、さくらさんが。

 表情も鬼神の如く怒っている。


 が、可愛い。








「いくぞ!さくらさん!!おらおらおらおらおらおら!!」


 流石ね。容赦無い弱連打だ。

 しかし、それが通用したのは一昔前の私にだけ。



 今の私は、強敵とも(ゲーセンでのチャレンジャー)の想いを胸にここにいる!!

※今日まで忘れてた



くらいなさい!!

私が編み出した奥義!!



「キュッグルゥゥァア!!」

(残光拳!!)



ーーー残光拳。


 光の如き速さで繰り出される拳は残像を生み出し、一切の隙なく敵を打ち倒す。

 そうして敗れた敵は、日没後なお空に残っている光、「残光」のように儚く散っていく。



「キュウキュウキュウキュウキュウキュウ!!!」



 凄まじいスピードで繰り出される拳……

 いや、凄まじいスピードで動かされる手。



 残光拳。

 あくまでも光の如き速さなのは、プレイヤーの手。

つまり、さくらさんの手である。


 ゲームの中では、相手の隙を見て強パンチが打ち込まれるという、堅実的な戦いが繰り広げられている。


 ガチャガチャとコントローラーが壊れそうなほど、煩く操作している割には、地味な戦い方であった。だが、地味で堅実だからこそ強い。



『YOU WIN!』



 はぁ…はぁ…やったわ。

 リベンジ完了よ!


 どうよ!見たかしら!!



「さくらさん……次はこっちの格ゲーをやらないか?」


 ドヤ顔で彼を見ていたら、別のゲームを誘われた。


「まさか、そんなに強いさくらさんが逃げるわけないよな?俺、こっちのゲームの方が得意でさ。もちろん…やるよな?」



目がマジだわ…。



「キュイ」


まったく彼も負けず嫌いなんだから。

まぁ私が勝つに決まってるけどね。




「「はぁ…はぁ…はぁ。これで終わりだ(よ)!!!」」





リベンジは計画的に。

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