第58話 元旦②

明けましておめでとうございます。



 桜の杜神社ーーー。

 その名の通り、春になると桜が咲き誇る。

 そして、注意する神主を無視して花見の会場になる。


 比較的家の近くにあり、さくらさんと名前も一緒なので、初詣の場所としては最適であった。



「流石に元旦は人が多いな…。来年は寝坊しないように気をつけるよ。ごめん。あとで出店でなんか買ってあげるからさ」


「キュッ」



 よし。とりあえず機嫌はなおして貰えそうだな。



パシャ!

『かわいいー』



 あとは参拝だけど…人が多いと言っても、神社自体が大きくないから1時間くらいだろう。



パシャ!パシャ!

『見て見て!肩に乗って、ぐでーってしてるよ!!』



 まぁ、さくらさんが写真を撮られてるうちに時間も経つだろう。

 しかし、カワウソを連れてくるとやっぱり目立つな。




(どうしよう。先輩たちが並んでるところに突然会いに行くのは不自然かな?)


(他の方に迷惑なので、参拝終わりに偶然を装うのが良いと思いますよ。私は空から見るだけなので頑張って下さい)




 案の定、参拝まではあっという間に感じた。

 待ってる間にさくらさんとの2ショット写真をお願いされたり、色々質問に答えていたら1時間なんてすぐだった。



 パンっパンっ。


 二礼二拍手一礼。

 さくらさんもしっかりと守っていた。



 


 俺が毎年お願いすることは決まっている。



『無病息災。無病息災。無病息災。無病息災。無病息災。無病息災。無病息災。無病息災。無病息災』


 健康第一!!




 さくらさんは何をお願いしてるんだろうな。


ーーーーーーーーー


『キューキュルーキュッキュイッ。キュキュキュウ。キュイッキュイッ』

(彼が無病息災。彼が出世。彼が幸せ。彼にお金を。彼に美味しいものを。彼に……。彼が……。彼と……。私は自分で叶えるので必要ないです)


 まさかの欲張りセット。しかも最後カッコいい。


ーーーーーーーーー




 参拝も済ませたし、おみくじでも引くか。


「さくらさん、おみく「先輩!明けましておめでとうございます!!」」


 さくらさんと、おみくじを引きに行こうとしたら聞き覚えのある元気な声で話しかけられた。


 何で後輩がここに…。



「…あぁ…おめでとう。でも、どうしてここに?実家に帰ってるんじゃなかったのか?」



「夜行バスですぐに帰って来ました!あ、さくら先生もあけおめです!それで、たまたま・・・・何となく・・・・、ここの神社にお参りに行きたくなって…いやぁ、ホント偶然・・ですね!!」






 ジトー。





 さくらの目は誤魔化せない。






「そうか。それは凄い偶然もあったもんだな。こっちはもっと早く来るつもりだったが、朝から寝坊して焦ったよ」


「そうなんですね。でも会えて良かったです。待ってた・・・・かいがありました」



 ハハハと苦笑いしている彼をニコニコと見つめる後輩…







をジトっと眺めるさくらさん。





 さくらには全てわかっている。


(あのカラスが余計なことをしたに違いない)







 何やら空をキョロキョロと見回しているさくらさんに声をかけた。



「さくらさん、おみくじ引こう」


「………ちっ」



 え?舌打ち?




……

…………



「おっ!大吉だぞ」


「先輩すごいですね!」



 えーっと…"何事においても上手くいく。ただし寝坊には注意"だと?


 随分変わったことが書いてあるおみくじだな。



「キュアッッッ」



 ものすごい勢いで大吉を奪われた。


 そして、かわりのおみくじを渡された。






【凶】










 凶っ!!?






 "何事も底辺に近い。ただし朝の目覚めは良い"




 何故だ。解せぬ。






 ーーーっ!!


 新年一発目の理不尽に嘆いていると、突然吹いた風におみくじが飛ばされてしまった。


 慌てて拾ったが、そこには【凶】ではなく【中吉】と書かれていた。



 "何事もそこそこ"



 あれ?おかしいな。目を離したつもりは無いんだけどな。またさくらさんの仕業か?


 ……違うな。








(カァー。主様は大吉でも凶でもなく、中吉が似合ってますわ)





 中吉と書かれたおみくじを不思議そうに眺めていると、


「先輩!見てて下さい!私も大吉を引いてみせます!」


 そう意気込みながら引いた後輩だが、それを見た瞬間固まってしまった。


「どうした?」





【滅】


"新年からやましい気持ちで行動する汝には、いずれ滅びが訪れるであろう。怯えて暮らすがよい"





「いや……なんでも…吉……でした」

(滅?滅って何?聞いたことないんだけど!!)



 引きつった笑顔の後輩をさくらさんが楽しそうに見ていた。



「さくらさんは?」


「キュ!!」




【神獺】


"かみかわうそ。願いの叶う一年になるでしょう。ただし謙虚さを忘れぬように"




 ……。


 なんだこれは。コイツは何を引いたんだ。


 チラッと、さくらさんが引いたおみくじコーナーの所を見てみた。


『動物用おみくじ』


 犬用、猫用、カワウソ用の3種類があった。



 いや、おかしいだろ。犬猫はまだわかる。でもカワウソって絶対いらないだろ。誰が引くの?

 多分年間1枚しか需要ないよ?





 こうしておみくじの時間が終わった。




「先輩もし良かったら、このおせち食べてくれませんか?実家に帰ったとき作ったんですよ。………1種類だけ」



 ん?最後の方が小さくて聞こえなかったけど、まぁ貰えるならありがたく。


「せっかくだから、うちに来て皆で食べないか?さくらさんも、それで良い?」



「…………キュッ♪」



 少し悩んでいたが大丈夫そうだな。





(どうせこの女は、そのおせちのために朝から待ち伏せしてたに違いない。私の最高のおせちであなたのおせちを倒してあげるわ)




「ありがとうございます!!お邪魔させてもらいます!」



「じゃあ行くか。あっ、その前に。さくらさん、出店でなんか買う約束だったよね。どれが良い?」


 寝坊のお詫びに何か買う約束を忘れるところだった。何が欲しいんだろうか。




「……キュキュ」


 指をさした先には、、、お面だ。


 サイズが無いと思ったが、そこにはまたもや『カワウソ用』の文字が。


 このお面も年間1枚の需要だと思いながら買ってあげた。



 さくらさんはネズミのお面を嬉しそうにしながら着けていた。



「よし。じゃあ今度こそ行くか」





明けましておめでとうございます。

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