第57話 元旦①
新年。
ピリリリリ〜♪
「はい、こちらベータ。……わかりました。こっちはたった今着いたところです」
元旦。明け方。
夜行バスから降りてくる女が1人…。
『カァ、カッカッカァー。クァッカッ』
「なるほど。ターゲットは桜の杜神社に行くんですね?すぐに向かいます。アルファも引き続き覗き見をよろしくお願いします」
ピッ。
ガラガラ〜。ガラ…ガラ…
ポケットに携帯電話をしまい、何やら大量の荷物を引きずり、その女は日も出きらぬ寒空の中消えていった…。
(待っていて下さい。必ず先輩にこのおせちを食べさせてあげますから)
(…………私が作ったのは1種類ですけど)
ーーーーーーーーー
ゔぅ〜寒ぃ。
さくらさんの頼みだからって、こんな朝っぱらから初詣はやめとけば良かった。
だが、これ以上さくらさんの機嫌をそこねるわけにはいかないしな…。
実は住んでるところの屋上から初日の出を見る予定で、5時半にアラームをかけて寝たんだが、、、
!!!!!ガバッ!!
!!?
「!?!?キュワッギュエア!キュョボ!」
「ん?なんだ?アラームは鳴ってないぞ」
さくらさんから、女性が出してはいけない鳴き声が聞こえてきて起こされたので、アラームは鳴っていないことを伝えた。
それを聞いて安心したのか「きゅうぅ」と、ホッとしたような声を出し、時計を確認していた。
7時16分。
「!?!?キュワッギュエア!キュョボッッ!!」
ブンッ!!パシィィィッ!!
なぜ寝坊したのはお互いさまなのに、俺だけが尻尾のフルスイングを受けなくてはならないのだろうか……。
そんなことがあり、とっても不機嫌なさくらさん。
本当なら初日の出を見たその足で参拝行くつもりだったが、現在8時半と当初の予定よりだいぶ時間が押しているので、それも原因だろう。
尻尾を左右にフリフリしながら不機嫌そうに歩くカワウソと、その後をついていく男性を上空から見つめるカラス。
そう。見つかるか見つからないかのギリギリの覗き見が生きがいの変態カラス、シルヴィアだ。
(名前が無いと呼びづらいと、後輩があみだくじでシルヴィアと決めた。なお、その時の様子は機会があれば)
「新年早々寝坊とは、なかなかお茶目な主様ですね。女性は理不尽に怒るものなのです。一つ勉強になったことでしょう。それよりも、彼女は大丈夫でしょうか…。凍死してないかしら」
シルヴィアの手?足?には携帯が握られていた。
一旦木に止まり、携帯を器用に使いこなして電話をかける。
ピリリリリ〜♪
『ばい゛。ずるっ……こぢらベーダ…ずずぅ〜…です』
やっぱりずっと神社で待ち伏せしていたんですわね。
なんで主様のことになると、こんなにアホになるのかしら。
「こちらアルファ。ターゲットは先程家を出て、そちらに向かいました。寝坊したみたいで、やや機嫌が悪いので注意してください」
『ばい。わがり…カチカチッ…ました。でぎれば…ガタガタ…もゔ少し早く知りだがったです…くしゅんっ…ずずぅぅ」
ピッ。
さて、連絡も済んだことですし、先に行って凍えてる彼女にお汁粉でも差し入れしましょうか。
さくら様のこの歩行速度なら、神社に着くまで、あと20分くらいはかかるでしょう。
バサッ!バサッ!
……
…………
「カァー?カァカァー」
(どこにいるんですか?隠れてないで出てきなさい)
おかしいですわね。この神社にいるはずなんですけど。
「シルヴィアさん、こっぢ…です…ずびっ」
ん?上の方から声が…?
「貴女なんてところにいるんですか?とりあえず降りてきて、お汁粉でも飲みなさい。」
なんと彼女は神社の入り口に生えている桜の木に登っていたのだ。
のそのそと木から降りてくる姿は、まるで新種の妖怪みたいだ。
「ありがとうございます。あっ、温かい。先輩を待ち伏せするのに、人に見られたらマズイと思って隠れました」
「なんで隠れる必要が?貴女、新年から神社でやましい気持ちを持ち過ぎですわよ。ただ主様に挨拶をして、やや手作りのおせち料理を渡すだけでしょう?堂々として下さい。私に携帯を持たせるほどの熱意があるなら、もっと上手く行動してください」
周りから見れば、いきなり木から降りてきて、置いてあるお汁粉を飲み、カラスに喋りかける変人。通報されないか心配だ。
「っ!?ベータ!!主様が来ます!配置につきなさい!」
「了解です!アルファ!……配置とは何処でしょうか?」
「ノリで言っただけですわ。おとなしく主様を待ちましょう」
ザッ…ザッ…
「小さな神社だけど結構人がいるな。さくらさん、踏まれないように肩に乗って」
「キュイ」
新年。
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