第56話 大晦日
楽しい年でした。
クリスマスの熱も冷めやらぬまま、早くも大晦日を迎えた。
さくらさんがやって来て初めての年越しである。
年越しパーティーを考えてもいたが、後輩は実家に帰り、課長は奥さんと仲良く過ごすとのことだったので、さくらさんと2人きりで年越しだ。
『クァァー!カァァァア!』
……最近、家の周りにカラスが増えたな。
そういえば、さくらさんから貰ったクリスマスプレゼントのミニサイズの家に変化があった。
まずこの家の名前は「
ものすごい達筆な字で「愛之巣」と書かれた板が玄関部分に置かれている。
そして、お気に入りの暖炉の前に座る俺。その上に座るさくらさん。
それを部屋の扉の影から、ジッと眺める後輩。
部屋のテーブルの上で横たわるカラス。
このように人形が4体に増えた。
余談だがーーーー
実は人形には、さくらさんが決めた愛称がある。
愛する彼人形・・・
夜、とても寝つきが良いことから。決していやらしい意味ではない。
さくらさん人形・・・ビューティー&ザ・ビースト
美人。そして獣。
後輩人形・・・影の追跡者
別名:ストーカー。
カラス人形・・・非常食
この4体の人形を使い、さくらさんの気分によって毎日様々なストーリーが表現されている。
そんな愛之巣を横にし、さくらさんによる年越しの準備はどんどん進められていった。
気づけば夜ご飯の時間だ。
「さくらさん、これもしかして…」
「キュイ!」
目の前の皿には、除夜の鐘を模した、魚肉ソーセージによるアートが鎮座していた。ちゃんと鐘を叩くシーンが再現されている。安定のハイクオリティ。
そして今年最後のメインディッシュ。さっきから匂いでわかっていた。
サバ。
ご飯も食べ終わり、今は2人でゆっくりしながらテレビを見ている。
毎年お馴染みの歌番組だ。
俺は歌とか聴いても楽しいと思えるが、さくらさんはどうなんだろう。
普段はクイズ番組やドラマを好んで見ているらしいが、歌には興味あるのだろうか。
「さくらさんは、歌とかって興味あるの?」
「……キュゥ」
なんだ?その、やれやれみたいな感じは。
さくらさんは、わかってないなぁみたいな雰囲気を出しながら寝室に入っていった。
そして戻って来た時には、何故かキャップとサングラスを装備していた。
え?なに?
おもむろに右手を口元に持っていくさくらさん。
もしかしてマイク握ってるつもりか?
「……ッ!HEY!キュキュッ、キュッキュキュ、キュゥッキュッ!YO!キュッッ!キューキュイ♪」
…………。
まさかのラップきたぁぁぁああ。
それは予想できなかったよ。そういうのが好みだったんだ。
あいにく『キュ』とかしか聞こえないので、上手いのかどうかは全然わからないけど、とにかく好きなのは伝わったわ。
「〜♪ッ!!♪ーー♪」
何かのスイッチが入ったのか、このカワウソ、ノリノリである。
体の動かし方もまさにラッパー…………
と思いきや、アイドルのダンスみたいな可愛い動きをしている。
アイドルのようや可愛い動きでラップを口ずさむ。
なんてジャンルになるんだこれは。
てか、器用だな。
「〜♪キュッキュイキュキュッキュ!キュゥキュゥキュッキュキュ!!キュッキュッキュイキュイキュッキュゥッ!!」
(〜♪私のサバを食ってみろ!飛び出す旨さ!嫌いなんて考えぶっ飛ぶぜっ!!最高のサバ食って泡食って再考!!)
なんだろう…。ろくでもない歌詞な気がする。
そろそろ止めないと、なんか永遠に歌ってそうだな。
「あの、さくらさん。お楽しみのところ申し訳ないんですが、そろそろ年越し蕎麦の準備をですね…」
「〜♪〜♪」
クルクル!バンっ!
そんな、『あなたのハートを狙い撃ち』みたいな振り付けしてるけど、メロディーはラップなんだよなぁ。
よくわからないが、それで締めだったらしく、寝室へと装備を置きに行った。
……
…………
ずるずるっ。ずるずるっ。
さくらさん、お蕎麦美味しいんだけど、麺の数が108本は多すぎじゃないかな。
年越す前に食べ切れるのか?この量。
ーーーーーーーーー
く、苦しい。
時間は?
……11時58分。なんとか間に合った。
「さくらさんが来てから驚かされてばかりだけど、色々と楽しい年だったなぁ」
「キュー」
おっ、カウントダウンだ。
「「3(キュ)、2(キュ)、1(キュ)」」
パァンッ!パァンッ!
さくらさんが用意してくれたクラッカーを2人仲良く鳴らした。
「明けましておめでとう!!!さくらさん!!」
「キュイ!!!」
『カァ!!!』
楽しい年でした。
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