第55話 クリスマス②
メリークリスマス!
カワウソ・さくらは考えた。
彼にふさわしく、それでいて自分らしいプレゼントを。
できるカワウソ・さくらは考えた。
愛する彼、彼、彼、つまり男!男性!オトコ!
私、カワウソ、カワウソ、つまり獣!野生!
そして閃いた究極のプレゼント!!!!
「キュゥゥゥーーー……キュッッッッ!!!」
自信満々に渡された大きな箱。
ーーーーーーーその中には、
家だ。
仕事を退職し、余生を過ごすにふさわしい、鳥の囀り、川のせせらぎが聞こえてきそうな、木でできた家だ。
家のミニチュアだ。
いや、ミニチュアというクオリティを超えている。これは小さいが、、、家だ!!
「キュ、キュキュ、キュウ・・・・・」
さくらさんが自慢げに語ってくる。(通訳:後輩)
「男性は車だったり色々な物を欲しがるけど、最終的に行き着くところは家!!マイホームッッ!家を買うことは男にとって夢や野望に等しいと聞いたことがあるわ。それに私はカワウソ。これでも野生の獣の端くれよ。巣を作ることなんて朝飯前」
説得力のあるような無いような力説。
「流石にあなたが住めるようなサイズは短期間では作れないわ。それに、私が本当に作ったらあなたの夢を奪ってしまう…。だから、少し小さいけれど、あなたが家を手にするときに参考になるように、あなたの好みをバッチリ再現したわ!!」
た、確かに、この暖炉のデザインや二階の寝室に付けられた天窓など、俺の好きそうなものがそろっている。
一度もそんなこと言ったことないのに、なぜわかったんだ…。
「ふふ、驚いた?だけど、プレゼントするにあたって好みの把握は当然のことよ。普段からよく見ていれば、意外とわかるものなの」
流石だ。最近慣れていてしまったが、やはりこのカワウソ、尋常じゃないスペックの持ち主だ。
しかし話を聞いていると家だけではないらしい。
「最後にこの人形を家に入れて完成よ!!」
うおっ!そこには俺の特徴をとらえた人形があった。ぱっと見、よくある男性型の人形のはずなのに自分だとわかってしまう。
「これでマイホーム(仮)が出来たわ!!」
なんだろう。何かズレてる気がするけど、ここは素直に喜ぶところだろう。
「さくらさん、ありがとう」
実際、家の造りは本当に好みで理想に近いし。
それに、
「さくらさんへのプレゼントは、いつも家事を頑張ってくれてるから高級ハンドクリーム」
その時さくらは思った。
やっぱりカワウソの私がアクセサリーとか色気あるプレゼントは高望みだったかと。
「あとは
彼はそう言って小さな人形を渡してきた。
「ハンドメイドの雑貨屋を見てたら、さくらさんに似たカワウソの人形があって何となく買ったんだけど、どうせならと思って、さくらさんの写真見せてもっと似せて欲しいって頼んでみたんだ」
小さい人形だけど、私のさくらのマークもしっかり再現されていて、とてもよく出来てると思う。
それと首についてるのは…
「店の人が、ついでに名前入りの首輪とかもつけてくれるって言ってくれたんだけど、首輪はなんか嫌だったから、ネックレスにできないかって」
シルバーのチェーンの先には小さなプレートが付いていて、そこにはお洒落な字体で「Sakura」と刻まれていた。
「この人形を……ほら。さくらさんが作ってくれた家に俺のと一緒に置けば……っと。よし!完璧なマイホームの完成だな!」
「キュゥゥゥ……」
何よ…。そんなのズルイ。
本物のアクセサリーなんかよりよっぽど色気あるじゃない……。
「ありがとう。……じゃ、ケーキ食べましょう!持ってくるわね」
そう言ってさくらさんは逃げるようにキッチンへと向かっていった。
「あぁ、そうだな。メインディッシュがまだ残ってたな」
「良いなぁ。イイなぁ。2人の人形って何かいいなぁ…………あれ?先輩、今わたし通訳してないですよね」
……
…………
ケーキも食べ、片付けも一通り終わり、、、
「先輩、今度私も人形作ってくるんで、絶対にあの家に置いてくださいね!!絶対ですよ!お邪魔しました!今日はありがとうございました!!」
……
…………
クリスマスの夜、
カワウソは夢を見た。
お洒落な木の家。
暖炉の前、椅子に座る年老いた彼の膝の上で、すやすや眠る…幸せな夢を。
翌日、ベランダに何故か小さなカラスの人形と、栄養満点魚肉ソーセージレシピという謎の本が置いてあった。
メリークリスマス!
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