第46話 遊園地②
遊園地には夢いっぱい。
「君は風を感じたかい?」
そんな神の声が聞こえてくるかのようだ。
乗りたがる人もいれば、ガチギレして乗らない人もいる。
喜怒哀楽を身に纏うその乗り物のことを、人々は敬意を込めてジェットコースターと呼ぶ。
今日もジェットコースター乗り場は大人気である。
「1名様ですか」
「いえ、2人です」
ひょっこりとさくらさんが鞄から顔を出す。
入場口では、さくらさんが上手く丸め込んだみたいだが、この男性職員はどうだろう。
流石にカワウソにジェットコースターは危険すぎるから断られると思うが…。
「……」
「……」
静寂が辺りを包んでいる。
再び訪れたこの時間。
カワウソvs人間。
知略の限りを尽くし互いの主義主張を押し付けあう究極の駆け引き。極限の心理戦。
「ペットは禁止されていますので…」
職員はあえての直球勝負。
正論という最強のカードいきなり使って揺さぶりをかけてきた。
それに対し、さくらさんは1枚の写真を取り出した。
「!!!?つ、妻には、妻には言わないでください!!お酒に酔っていてよく覚えていないんです!!お願いします!!」
その写真には職員と女性が腕を組んで歩く姿が写っていた。
さくらさんのカードの方が圧倒的に強かった。
「お2人ですね!安全バーをきちんとしてお楽しみ下さい!!」
カワウソ用の安全バーがあるかは不明だが、無事?にジェットコースターに乗れるようだ。
ガタン…ガタン…。
徐々に高いところに上がっていく。
俺はこの時間が1番ドキドキする。
さくらさんは、当然安全バーなど無意味だったので、着ていたパーカーの内側入ってもらった。
チャックを少し下げて、ちょこんと顔を出していてとても可愛い。ただし俺は少し息苦しい。
ゴォォオオオ!!
「「「きゃーーー」」」
「せんぱーーーい」
ジェットコースターは凄まじい勢いで進んでいく。大勢の人が楽しんでいるようだ。
しかし俺は…
「さくらさん下がって!!毛が目に入って痛い!!うぉぉおお!!目がぁ!目がぁぁああ!!」
「キュイーーーー」
さくらさんは景色を楽しみたいのか、パーカーからもう少し出ようと、上に登ってきたのだ。
そのせいで俺の顔が塞がれ、毛がちょうど目にジェットな勢いで突き刺さるのだ。
……
…………
はぁ、はぁ、はぁ。
目、目が…。
「キュイッ」
体を張らされた甲斐あって、さくらさんはとても満足そうだ。
ざわざわっ。ざわざわ。
ん?
ジェットコースターを降りたところのphotoコーナーが騒がしいな。
実はジェットコースターに乗ってる途中の姿が勝手に撮影されていて、photoコーナーではそれを見ることが出来る。
気に入れば記念に買うというシステムだ。
何の騒ぎか気になり近づいていった。
どうやら1枚の写真が問題になっているようだ。
その写真には、さくらさんの毛を避けようと必死にもがく俺が奇跡的なブレかたで写っていた。
そう。
体は人間なのに、顔はカワウソのような獣の顔をした化け物がそこには写されていた。
それだけでも問題なのに、俺の4つ程後ろの席には、恨めしそうな目でこちらを睨む、この世のものとは思えない雰囲気の女性の姿が写っていたのだ。
見覚えがあるのは気のせいだろう。
化け物に幽霊。
この写真は異例の販売枚数だったという。
遊園地には夢いっぱい。
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