第43話 とあるカワウソの一目惚れ

ある愛の物語。




ーーー土曜日。


 それは週に一度の触れ合いイベントの日。


 やさぐれ美カワウソは、いつものように隅っこで、人間に媚を売る同胞たちを冷たい目で見ていました。


 そんなやさぐれ美カワウソにも容赦なく人は寄ってきます。

 そんな時は「シャーッ」と鋭い牙を剥き出しにして追い払っていました。



そのせいか…


グゥゥ〜。


 やさぐれ美カワウソはとてもお腹が空いていました。


 触れ合いイベントは、餌やりもイベントに含まれているので、当然、人を寄せつけなければご飯がもらえません。


 明日のご飯の時間までの辛抱だとジッと耐えていました。




「こっちに来てみなさいよ!カワウソ触れるらしいわよ!」


「ほんトだ。行ってみよウ」


「俺はいいよ。あっちで座ってるから」



 やさぐれ美カワウソの耳に、とある家族の話し声が入ってきました。



「いいから行くわよ。私とお父さんはあっちの子に餌あげてくるから」


「ったく、何でもうすぐ社会人だってのに親と一緒に水族館なんか…。ガキじゃあるまいし」


「文句言わないの!社会人になったら親となんか会わなくなるんだから。親孝行だと思いなさい。3人だと割引になるんだから仕方ないでしょ」



 そう言われ、男性は心底ダルそうな目をしながら、やさぐれ美カワウソの前に歩いてきました。



(やだ…)


 その時やさぐれ美カワウソは今までにない感覚を覚えました。


 胸がドキドキする。

 二足歩行の得体の知れない生物のはずなのに…。

 なんで目が離せないのだろう。



 しかしそこは、誇り高きやさぐれ美カワウソ。

「フーッ」と牙を剥き威嚇をします。


それはまるで自分の心を守るかのようでした。


「…」


 男性は何も言わず、何もせず、ただそのカワウソを眺めているだけです。


(ドキドキ。ドキドキ。)


「シャ、シャー…」



スッ


 男性はおもむろに手を伸ばします。

 そこには餌が握られていました。


 そしてそれをカワウソから少し離れたところに置きました。


「お前も大変だな。こんなことさせられて。食べたくなったら食えよ」

と少し微笑んで男性は立ち去りました。





ズキューンッ


……わたし、運命の雄を見つけました。





 その日の夜、水族館から1匹のカワウソが姿を消しました…。





(花嫁修行よ!まずは文字っていうのを覚えましょう!愛があればどんな困難も乗り越えられるわ)





 どんな花嫁修行をするのかは、また別のお話。




ある愛の物語。

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