第37話 黒幕


ここに犯人が。




主人公不在の会社ではーーー


「おはようございます」


チラッ


 出社して、先輩の顔を初めに見るのが毎朝の日課になりつつある。




 はぁ…先輩やっぱり休みか。


 とにかく謝ろう。


『体は大丈夫ですか?本当にすみませんでした』


ピロリン


『気にするな』




 うぅ…気にするなって無理だよ。

 何故か変なもの食べさせちゃったし、嫌われたらどうしよう。

 普通のスープだったはずなのに……



 あーあ、さくら先生は今も先輩と一緒に居るんだもんなぁ。


 なんで恋敵がカワウソなのよ。

 しかも、そこら辺のどんな女よりも手強そう。


「ライバルはカワウソ」


 もうなんなのよ!この売れそうにないアニメみたいなシチュエーションは!!


 悲しい。でも負けない!



 先輩好きです!あの時から!

 カワウソには負けません!!



ーーーーーーーーー


 入社1年目。

 私は男性社員に囲まれていた。……今もだけど。


 言ってはなんだけど、私は可愛い方だと思うし、モテる方だと思う。


 その分、女から嫉妬もされる。

 酷いあだ名とか陰口もいっぱい言われてきた。


 学生の時から、わからないことは周りの男子がやってくれたし、それは社会人になってからも変わらなかった。

 やっぱり人にやってもらうのは楽だから、良くないとは思ってても、ついつい甘えてしまっていた。


 ある日、私は仕事でミスをしていたらしい。

 当然いつものように男性社員がカバーに入ってくれようとしていた。


 そんなときに先輩が言ってくれたんだ。


「後輩の面倒を見るのと、甘やかすのは同じじゃないですよ?可愛いからって何でもやってあげたら、こいつ自身の成長につながらないんですよ」


 あの頃は、先輩はどこにでもいるような感じで、とくに興味もなかった。


「お前も人にやらせてばかりだから、ミスするんだ。どうせ何がミスなのか、理由もわかってないんだろ?勉強不足だ。ちやほやされるからって、使えない奴にはなるなよ」


 男の人がちゃんと怒ってくれたのが初めてでとても新鮮だった。


 単純な私は、きっとこの時先輩を好きになったんだと思う。


ーーーーーーーーー



 今は自分の仕事は絶対自分でやるようにしている。

 あの時は叱られたけど、今度は良くやったって褒めてもらうんだから。



ピロリン


 あ、さくら先生だ。

 先輩が倒れたときから、さくら先生とは連絡を取り合っている。


『キューキュー』


 何故かボイスメッセージが多い。


 なになに?

 教えてもらった温感湿布があまり効いてない。枚数増やした方が良いかって?


「とりあえず増やしましょう。男の人だから1枚じゃ小さくて効果がないのかもしれません」っと。





「あの可愛いカワウソは恋敵でメル友です」

 やっぱり売れないアニメみたいなシチュエーションなんだよなぁ。



 先輩、早く良くなりますように。






ここに犯人が。

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